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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と情報報告

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「──と、いうわけでこれが集めた情報だ」

「さすがメルスさん……奴らの先兵を生け捕りにするとは」

「簡単に、とはいかなかったがな。今は眠らせているが、吐くまでに時間がかかった。ずいぶんと鍛えられていたぞ」


 サルワスはすでに、この町に拠点を用意している。
 今はその施設の中で、報告会をしていた。
 そして俺の隣には──意識を失った例の男が倒れている。


「いちおう確認しておくが、何かいい情報はないのか? 正直俺の話はこの後もロクなものがなくてな……明るい情報がほしい」

「──申し訳ありません。ご期待に沿うことはできなさそうです」

「やはりか……この作戦を行っている時点で分かってはいたが、面倒臭いことをする」


 もちろん今回行われた作戦は、サルワスだけをターゲットにしていたわけではない。
 あの港町に圧迫をかけ、そこに訪れた国家の確認……そしてまた、それと同じくして町そのものに対する支配を強めている。

 ──領土侵犯ってやつだな。


「我々も表と裏より調査を行いましたが、その結果はメルスさんと同じ物でした。いえ、確実な情報はございませんでしたが、それでも似通ったやり方がありましたので」

「この町は、どういう立場だ?」

「すでに上役に手の者がいるそうで……町長は領主にこの状況を報告するつもりですが、防がれていた模様です」


 つまり、あの男はそういったお仕事もしていたわけか。
 仲間はいない、あくまで単独だと言っていたが……もう少し洗う必要ができたな。


「それはコイツが原因だろうし、あとでもう一度報告させてみろ。俺の方で、まだ隠れている奴がいるか探してみる」

「……お願いします」

「そう卑下するな。俺は俺の、お前たちはお前たちのできることをするだけだ。……俺はあまり賢くない、だからお前たちの力を借りなければこのような問題を解決できない。すまないが、よろしく頼む」


 頭は下げてはいないが、その態度から心が籠もっていることに気づいたのだろう。
 サルワス直属の密偵も、『青』のメンバーも何かを感じ取り、瞳に僅かながらの火を灯してくれた。


「各所への連絡、特にサルワスへの報告は可及的速やかに行ってくれ。そっちの男に関しても、ある条件で元の状態に戻る。担当者はあとで来てくれ」

『ハッ!』

「うーん……とりあえず、報告はこれぐらいだな。何かあれば、例の魔道具で連絡をしてくれ。最悪、生きていればお前たちをサルワスに戻すことができる。まあ、命を大切に動くんだぞ」


 返事は聞かず、そのまま歩いて部屋から出ていく……こういうとき、転移能力の重要さが感じられる。
 少なくとも、火属性に転移系の魔法は存在しないからな……こればかりは相性云々があるから、どうしようもない。


「火で転移……近距離なら、可能かもしれないけどな」


 夢現空間に戻ったら、<千思万考>を使ってイメージを固めてみようか。
 それを眷属に伝えれば、魔法と魔術のどちらでも使えるようにしてくれるだろう。


「ただ今は、歩かなきゃいけないのか……現実逃避はここまでにするか」


 トボトボと移動を始め、クラーレたちの元へ向かう。
 さぁ、二回目の報告会だ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 正座、状況はこの一言に尽きる。
 冷たい視線×6を浴びながら、必死に舌を回して和らげようと励む。


「だーかーらー、私は何もしてないよー」

「確実にバレるような嘘を吐かないでください。なんですか、その口笛は」


 わざとらしく吹く口笛は、音にもならずピスピスと息が漏れるだけ。
 たまに口笛は吹いているのを聞かれているし、確実に分かる嘘としてこの表現は使われていた。


「まあ、ますたーにも関わる話だから、言っておいた方がいいのかな?」

「ええ、その通りです。ですから早く言ってください」

「もう、せっかちだなー。シガンお姉さん、ますたーをどうにかしてよ」

「無理よ」


 クラーレに若干のSスイッチが入っている今、しばらくはシガンの介入も意味を成さない……叩けばどうにかなるかもだが、そこまでする状況でも無いのでスルーしている。


《ごしゅじんさま、止める?》

「(いや、平気だから気にするな。セイも、監視の方を続けてくれ)」

《畏まりました》


 俺に欠けたものを埋めてもらうためにも、グラとセイには引き続き不審者の監視をしてもらっている。
 今から話す情報を察知して、どこからともなく乱入者が現れても厄介だしな。


「えっと、どこから説明しようかな? 小難しい話をカットすると、ますたーたちに言うべきことなんてちょっとしかないんだよね」

「──それで、そのちょっとしかないという情報は?」


 グイグイと来るクラーレ。
 それでも他のメンバーは止めようとせず、逆に俺とのやり取りを楽しんでいる節が見え隠れしている。

 まあ、言わなきゃならないんだからさっさと言いますか。


「この港町は、ある国から攻撃を受けていてね? 船に乗っている時に現れた魔物も、その国が原因。みーんな──帝国の仕業だよ」


 帝国って、いろんな創作物で嫌われてるよな……この世界でもそうなんだろうか?


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