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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と情報収集 前篇
しおりを挟む「……恥ずかしかった」
《かっこよかったよー!》
《僕もグラと同意見です。ご主人様の台詞、素晴らしかったですよ》
「(ああ、うん。慰めてくれてありがとう。少し、気が楽になったよ)」
眷属によるメンタルケアを経て、どうにか平常モードでも動けるぐらいに心が癒えた。
すでに他のメンバーは動いており、この街に燻るトラブルの捜索を行っている。
「……というか、国とのトラブルなんて主人公みたいなこと止めてほしいよな」
陸路での街への到達は、確認されてない。
そもそもプレイヤーたちの進路を阻む、エリアボス以外の存在が居るとされる。
これこそまさに、主人公がぶつかって解決するイベントであろう。
運命の出会いとか、強大な敵、とかいろいろとあるんだろうな……。
「現実はいつだって望まぬことが起きて、俺もそれに巻き込まれている……まあ、飽きたら眷属たちと過ごすのもいいし、赤色の世界に専念するのもいいか」
うーんと伸びをして、意識を切り替える。
今の俺は偽善者で、主人公でなくともそうした問題と関わる必要がある。
どうせ【傲慢】で【強欲】な人間なんだから、やりたいようにやるだけだ。
──なんて、中途半端に酔った台詞を語っても、俺という人間の本質は変わらない。
後天的に与えらえた凶運は、いつでもどこでも俺にトラブルを齎している。
「それで、理由はなんだっけ?」
「ひ、ひぃぃぃぃっ!!」
「うんうん、そう怯えないでほしいな。私も別に、殺したくて殺すわけじゃないんだよ」
怯える男の頭に手を乗せ、火属性の魔力でじんわりと温めていく。
せめて【強欲】か精神系の禁忌魔法が使えれば、簡単に解決していたんだけどなー。
「早く教えてくれないかな~? 今の私のやり方だと、優しくできないんだよ~」
「だ、誰が教えるかぁあぎゃあぁぁぁっ!」
「ふふふっ、もう一度だけ言うよ──情報を教えてね?」
爪で引っ掻いた傷を火で焼き焦がし、痛みと共に流血を防ぐ。
うーん、早く教えてもらいたいな。
「──あ、悪魔……」
じゃないと、<畏怖嫌厭>の効果も相まってひどく嫌われちゃうからさ。
悲鳴を上げる男と、青白い顔で震える少女の姿を見比べながらそう思った。
ゆっくり優しく丁重に扱ったら、嬉し涙を流していろんなことを教えてくれた。
やっぱり人と人とは会話が重要で、本音で語れば分かり合えるんだ。
「えっと、大丈夫かな?」
「は、はい……その、助けていただき、ありがとうございます」
「ううん、気にしないで。私も私で、そこの人に用があったんだからね」
「…………」
あらら、また怯えてしまった。
精神魔法で落ち着かせることもできないので、しばらく彼女が落ち着くのを待つ。
「……ご、ごめんなさい。その、まだほんの少し──」
「怖い? けど、ああでもしないと、あの人も教えてくれなかったから」
「は、はい。た、助けてもらえたのも、そのお陰です。そ、それは分かっているんです」
「うーん、ごめんね」
認識をメルとしてさせているので、それでも症状は軽い方だろう。
実験で分かった最悪の反応なんて、憎悪が強すぎて気絶したからな。
「えっと、近づいていいかな?」
「ど、努力します……」
「努力はしなくてもいいんだけどね」
分かりやすく示していた拳銃を置いて、少女の元へゆっくりと歩み寄る。
しばらくは何も拒絶せず、こちらを見ているだけだったが──手が届く範囲になると、突然小刻みに体を震え始めた。
「ごご、ごめんなさい! で、でも体の震えが止まらなくて!」
「──大丈夫だから」
「!?」
「よしよし、もう終わったからね」
少女は俺が現れた際、男に襲われていた。
それを救って尋問していたわけだが、彼女の極限まで張り詰めていた緊張感は、今の今までずっと続いていたようだ。
「ごめんね、怖がらせちゃって。けどもう、これでお仕舞い……少しの間、眠っててね」
「えっ? あ、あうぅ……」
冷え切った体を温め、血流を良くする。
少しずつリラックスした体は心身に受けた疲労を癒すため、本人の意思を無視して意識の遮断を行った。
火属性の調整は、船に乗っている間に実用的に使用可能な状態まで仕上げてある。
少女が悪夢を見ないよう、包み込むような温かさを齎してやることにした。
「さて、情報を整理しないとなー」
男が吐いた情報は、そこまで多くない。
ただ、偽善者として動くためには充分かつ有意義な情報であった。
今の<千思万考>が無い俺では、じっくりと練らないと答えは出てこない──少女が起きるまで考えてみようか。
「まず、男は雇われて暴れていた……目的は聞いていない」
金だけ貰って、満足していたらしい。
ただこの日、ちょうどサルワスから船が着いた少し前の出来事とのことだ。
「正体は不明。認識阻害の効果があったみたいで、どうにも覚えてないみたい」
つまり、黒幕はまだ分からないというわけだな──先も挙げたが、精神魔法が使えれば判明しただろう。
嘘は言っていないと思うぞ、吐いたら生きていることを後悔すると脅したからな。
「ふふっ、それでこそ偽善だよ。誰のためでもなく、自分のため。しいて言うなら、この娘に似たようなことが起きないようにするためかな?」
男がソイツと接触した場所は、吐かせたので分かっている。
男は自分以外にも、雇われた奴が居ると教えてくれたし……さて、事情聴取だな。
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