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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と不穏な空気

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 シルフェフ


 海を越えて来たこの港町は、少し重い空気が支配する場所だった。
 船の上からそれを感じ取った俺は、何をするでもなくクラーレの傍に寄り添う。


「どうかしたんですか?」

「……妙な風が吹いていやがる、なんだよ」

「妙な風、ですか?」

「ますたーたちの身に、何が起こるか分からないんだよ。少なくとも三人以上で行動しないと、心配だなー」


 こういうときは、二人がいいという考えもあるが……あえて三人だと勧めておく。
 確証はないが、これから調査する結果次第では本当に危険が待ち受けているからだ。


「……分かりました。シガンにも、連絡をして促しておきましょう」

「ありがとうね、ますたー。わがままでみんなの予定をズラしちゃって」

「構いませんよ。メルの言うことですし、少し面白そうになっちゃいました」


 うーん、心構えが違う気がする?
 たしかに分かるよ、そういうイベントに興奮するゲーマーの業もさ。


「危ないんだよ?」

「メルがいるんですよね? なら、わたしたちは安全です」

「そ、それは……そう、だけどさ」

「ふふっ、やっぱりメルが居る限りは大丈夫そうですね。それじゃあ、連絡してきます」


 シガンとの連絡のため、意識を内面に向けるクラーレ。
 俺がいるためなのか、外部への警戒がいっさい存在していない。
 ……ハァ、どこまで信用されてるんだか。


「(セイ、グラ。すまないが、両方のグループの見張りを頼む)」

《うん、いいよ!》
《お任せください……ご主人様は?》

「(ん? 俺はちょっと、野暮用を済ませておこうと思ってな)」

《あっ、いえ。そういうことでしたら……》


 セイが何やら納得したようなので、すぐに隠形をしつつの人化を促しておく。
 その様子まで確認したかったのだが、ちょうどクラーレが動きだしたため、それはまたの機会となった。


「では、行きましょうか」

「うん、行こうか」


 船のランプウェイから降り、新たな町へ向けて歩を進める。
 やはりキナ臭い予感がして、自分の凶運にため息を吐いてしまった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 見えない護衛を付けてある、そう言ってクラーレから離れた俺は再び船に戻っていた。
 そこには数人の男たちが居り、俺もまたそこに加わる。


「──ボス、よくいらしてくれました」

「ったく、リーダーはアイツだろ? 俺はあくまで代理人、しかもその座も降りているはずなんだがな……まあ、その話はまた別の機会に、アイツらに直接しよう」

「そうしていただけると、末端の俺たちにはありがたいです」


 最近、眷属たちがゲームという概念に着目して、かなりチートなスキルを創造した。

 ──俺という存在を一つに定義し、どのような姿であろうと『メルス』という存在と接しているように感じるというものだ。
 ON/OFF自在なそのスキルを得たことで、縛りプレーの最中にわざわざ変身魔法を使わずともやっていけるようになった。


「さて、今回に任務を覚えているな?」

「この町の調査です」

「さっきの魔物による船への攻撃、だいぶ考えられた攻撃だったな。そっち側で何か判明したことはあるか?」

「……いえ、すみません」


 親玉はパパッと殺しちゃったしな。
 アレが来ていれば、さすがに彼らも気づいていただろう。
 ──無論、それでは『遅い』のだが。


「まあいい、俺の方で悪寒を感じた。誰か、似たようなものを感じた奴は?」

「は、はい」

「お前は……そうか、たしかそういったスキルを持っているんだったな」

「──(虫の予感)、というスキルです」


 ああ、俺も持っているスキルだな。
 俺の場合は何が何に反応しているかが分からないし、漠然とした予感しかしていなかったが……そのスキルがヒットしたって事実があれば、また考えを絞れる。


「今回は祈念者による介入では無く、悪意がこの町に向けられた結果だ。そしてその悪意は、我々サルワスにも向けられた」

『…………』

「分かるか? 舐められているんだ、俺たちは。魔物をけしかければ、おめおめと引き返すような弱者だと。──違うよな? お前たちは弱者なんかじゃない、自分たちの在り方を理解しているんだと」


 台詞が台詞なので、つい最近使えるようになった『半侵化』を用いて語りかける。
 見本となるお偉い様とは、さまざまなコネがあるから学び続けた──少しぐらいなら、鼓舞もできるだろう。


「守るべきモノ、それがある者もない者もここには居る。だが一つ、この任務を達成しようとする気持ちであれば全員が持っている。さて、何をすればいい?」

「──サルワスに向けられた悪意を調べ尽くし、情報をいかなる方法であっても届ける」


 彼らが叩き込まれた、制約が語られる。
 いかなる方法とは、文字通りあらゆる手段のこと……つまりはそういうことだ。

 だから俺は、こう伝える──


「死を恐れるな……ああ、死ねというわけではない。俺が居る限り、お前たちに死などという生温い終わりは与えない。サルワスのために生き、死を覚悟する者たちよ。全員で生き延びることを、俺が約束しよう」


 今の俺には、優れた力はほとんどない。
 だが火属性と銃に関する力だけならば、ほぼ望むことであればなんでもできる。

 サルワスのお偉い方にも頼まれた。
 偽善者として、お仕事をしないとな。


「さぁ、仕事を始めようか。俺たちの町を守るために動く限り──<正義>はここにある」


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