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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目
偽善者と船護衛 後篇
しおりを挟む魔物は何重にも波となって船を攻撃する。
襲い続ける魔物の責め立てに、やがて少数だけでは対応できず他のプレイヤーたちも戦闘を行う。
俺も協力をしているのだが、それでも縛りがかかっている俺では対応が遅れている。
二丁の拳銃をあらゆる方向へ発砲し、乱反射を起こして魔物を焼き尽くす。
火属性しか使えない今、水属性を強く保有する海の魔物たちへ攻撃する手段は少ない。
もちろん、過剰な魔力を注げばワンキルも容易いんだが……やりすぎると、クラーレたちに迷惑が及ぶからな。
「そんなこんなで、私の出番は少しずつ攻撃から援助に移行するよ。ゴールもそろそろだし、ますたーたちが頑張ってね」
「分かりました」
火属性の魔法にも、少なからず補助系統の魔法が存在する。
それを弾丸に籠めて、プレイヤーたちに発射して付与していく。
「火は火で、新陳代謝を活性化させる分にはちょうどいいんだよねー。体を燃やすって言うんだし」
空腹値が加速する代償もあるらしいが、能力値だけでなく再生力の強化なども働く。
俺はあまり使わない魔法ではあるが、このような状況であれば使わざるを得ない。
「あとは……これかな? “紅蓮鳥”」
炎の鳥が空を舞い、天から俯瞰を行う。
自分にもかけた強化魔法でジャンプをすると、そこに着地する。
うん、空を飛ぶ妖女とはなかなかイカした光景だろう。
「ふんふんふーん、ふふふふーん♪」
歌魔法が使えれば、それによる補正もかけられたんだが……ただの鼻歌でしかない。
俺の意識を高揚させ、銃弾の精度を上げるために好きな歌を奏でよう。
「二人とも、準備はいいかな?」
《ばっちりー!》
《問題ありません》
「それじゃあ、始めよう──“聖魔共合”」
二丁の拳銃は一つに重なり、大型の拳銃に姿を変える。
目標ははるか遠く、決してその影響が周りに知れ渡らないように細工を施す。
「魔力充填120%! 面倒な幻想なんて、さっさとぶち壊すよ──“双極”!!」
膨大なエネルギーを解き放つが、それをさらに包むように隠蔽の力を仕込んであった。
上空から撃ち込まれた白黒の螺旋が、橋をかけるように遠くの海へ真っすぐに伸びる。
その先にいるのは、強大な魔物。
これまで呑気に他のプレイヤーに任せていたようなものとは違い、ある程度力を使って対処しなければならない存在。
「……うん、中ったみたいだね」
鳥から眺めた景色は、確実なものだ。
海の一点に注がれたモノクロの光が、一瞬だけ閃光を放つ。
はるか遠くで煌めいたその輝きは、誰の目に留まるまでもなく消滅する。
いったいどんな存在だったのか、船の上で魔物たちと戦うプレイヤーたちは知る由もなく魔物は死を迎えた。
……まったく、ただ船に乗るだけでも俺の凶運はナニカに作用するのだろうか。
「ボスを倒した影響で、魔物の狂化も弱まるだろうか。うんうん、これならパパッと決着がつけられそうだ」
眼下に浮かぶ景色を眺めてみれば、均衡していた戦いの天秤がプレイヤーたちに傾き始めている。
物凄い遠くから、それでもなお魔物たちに効果を齎すだけの能力を持っていた……一体全体、プレイヤーたちが戦っていれば死に戻りは確定だっただろう。
「さて、もう少し強化魔法で補助をしておいた方がいいかな? ますたーたちも、あんまり無双しすぎると疎まれそうだし……」
あくまで俺一人が、となれば捉え方も悪意の矛先も扱いやすい。
主の行動を阻む、あらゆる害意を防ぐのが従者としても従魔としても役目であろう。
鳥を動かし、滑空するようにしてクラーレたちの元へ向かう。
ゴールは間もなく、残りは残党狩りだ。
◆ □ ◆ □ ◆
SIDE:クラーレ
「やっぱり、無理をしていますね」
空で何かをしたメルによって、遠くで一瞬小さな光が生まれました。
わざわざ上に行った時点で、なんとなく何かをすると思っていましたが……本当に、過保護な人です。
「シガン、見えましたか?」
「ええ、数十キロも離れた場所から狙撃をする……しかも規格外とはいえ拳銃ね。存在自体が、もうある種のファンタジーよ」
まったくです。
予め視覚を強化する魔法を使って、代表してシガンに状況を確認してもらっています。
わたしたちはその視覚を共有することで、メルが起こした惨状を眺めました。
「二丁の拳銃が一つになったと思えば、そこから凄まじい魔力が放たれたわ。隠しているみたいだったけど、六人分の看破を重ねればギリギリ把握できるレベルだったわ」
今のメルは縛りプレーの最中と言っていましたし、その結果どうにか隠蔽を突破できたのでしょう……そもそも六人分でどうにかって、どれだけ理不尽なのかが分かります。
全員が超級に達した鑑定スキル、そして上級の看破スキルを使ってもなお、秘密だらけのメルの全貌は暴けませんでした。
「──そうね、そろそろそうしましょうか。クラーレ、メルが戻ってくるわ。さっさとこれを倒しておくわよ」
「ええ、そうしましょうか」
レベルをどれだけ上げようと、メルが見ている光景を見ることはできなさそうです。
武闘会で魅せられた、スキルだけでは説明できないような動き。
──あれをモノにすることこそが、もう一つの方法となりそうです。
魔物はそろそろ倒し終わります。
メルのかけた魔法のせいで、なんだかお腹が空いてきましたし……責任を取ってもらう必要がありますね。
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