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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と船護衛 中篇

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「反省してください」

「ごみゃんにゃしゃい」

「……反省してませんよね」

「えりょーごみゃんにゃしゃい」


 重力魔法が使えず、浮遊系のスキルも使えない今は正座が足に響く。
 セイの力で足を固定させ、痛覚を遮断しているがいずれ限界が来る。
 ──どうにかしないとなー。


「そもそも、どうしてわたしが正座をさせたか分かっているんですか?」

「うーん、無双したから?」

「そんなのはいつものことです。止めても意味が無いことも分かっています」

「…………なら、もう降参だよ」


 素材は全部、迷惑をかけたプレイヤーに配布したんだが……それは問題ないとそのさいに確認したはず。
 ならいったい、何が理由なんだ?
 くそっ、<千思万考>さえ使えれば分かることなのに!


「……本気で意味が分からないって顔をしていますね。ふざけていれば、どれだけ良かったことやら」

「ますたーが困るようなことを、した覚えはないんだけどな」

「しましたよ! ついさっき!」

「えぇっ!?」


 なん、だと。
 いつの間に……ッ! 侵蝕の仕業か!?
 どうして気づけなかったんだ、いったいどのスキルが俺も気づかぬ間に侵蝕を──


「今、わたしはどういう状況ですか?」

「えっと……みんなに崇められている?」


 プレイヤーたちは『月の乙女』……というよりクラーレ個人を崇め、褒め称えている。
 老若男女など関係なく、自由民までもがクラーレへ篤い視線を向けていた。


「それはどうしてですか?」

「ますたーが人気者だかr──」

「メルのせいでしょう!!」

「え、ええ……」


 何かしたっけ?
 縛りの最中でも{夢現記憶}は発動しているので、自分が何をしたかは把握しているんだが……思い当たる節が一つも無い。
 本当に、俺はいったい何をしたんだ?


「……本当に、まだ分からないという顔をしていますね。いいでしょう、貴方の罪を簡潔に教えてあげます」

「はーい!」

「……まず、メルが魔物を殲滅させました。その結果、皆さんがメルを褒めます。──そして、メルがそんな皆さんこう言いました。『私はますたーである、クラーレ様のために働いただけだよ。暴れたお詫びはこの素材で許してね』と……その結果がこれですよ!!」

「?」


 俺としては、それはごくごく当然の台詞だと思うんだが……朝「おはよう」と告げ、昼に「こんにちは」、夜に「こんばんわ」と言うぐらい当然の流れだろ?


「わたしが! まるでわたしが、それを指示できる人物に見えるではありませんか! すべてメルのやったことなのに、あたかもわたしのお蔭のようになっていますよ!」

「事実そうだしね。ますたーがいるから、私はここで魔物を倒した。──よいしょっと」

「それに、そうやって会話の最中に魔物を倒すから感謝されるんですよ!」


 依頼を受けたプレイヤーたちは、自分から好んで戦闘をしたがりはしなかった。
 そのため勝手に無双したうえ、素材まで配ることを許可したクラーレの慈悲深さに感謝しているというわけだ。

 弾道を凡人の思考で予測し、聖銃と魔銃を使って動かないで魔物を仕留めている現状。
 銃声が鳴り響き、魔物たちに苦痛の叫びが聞こえるのだが──今の彼らにとってそれは福音でしかなかった。

 ……仕事をしないで、依頼料だけガッポリ貰えるわけだしな。


「なら、どうすればいいのさー。ますたーのお蔭じゃない、なんて嘘は吐けないよー」

「わたしたちに隠し事をする身で、よくもまあ堂々とそんなことが言えますね」

「ふふっ、女は秘密を着飾って美しくなる者なんだよ?」

「……パクリじゃないですか。しかもメル、貴女はアレですよね?」


 周りに知らない者がいるためか、ちゃんと隠してくれている……本当に、根は優しい娘なんだよ。
 うん、男だから秘密を着飾っても美しくはならないな。


「ますたーは人気者にならなくていいの? 善行を重ねれば、【聖女】にだってなれるかもしれないのに……」

「…………そ、そういう問題じゃないんですよ! い、今すぐ誤解を解いてください!」


 一瞬躊躇ってたな。
 調べて分かったことだが、【聖女】は一定の信仰心を持った状態で一定量の知名度を得ることでその資格を得ることができる。

 神からの加護が必要という説もあるが……そうなったら俺の加護で代用してもらおう。


「ますたー、また敵が来るよ。なら、今度は何もしなければいいのかな?」

「そういう問題ではありません。ただ、自分の貢献は自分の手柄だと言えばいいのです」

「私はますたーの使い魔なんだから、私の手柄はますたーのものになるに決まってるよ」

「だから、それを止めてくださいって言っているんですよ」


 船に乗るプレイヤーは、『月の乙女』を除いてあまりレベルが高くない。
 海は魔力が多く、遠く深ければそこに住む魔物も凶悪な強さを誇っている。

 ……まあ、ここら辺はそんなに強くないんだが、一般のプレイヤーでは少し対応できない魔物も現れ始めた。
 そしてそれは、異常事態でもある。


「今は魔物を倒すことに専念しようよ。私も手伝うし、早く倒さないと港町に影響があるかもしれないからね」

「……そうですね。そうしましょうか」


 そんなやり取りが何回か続き、船はゆっくりと目的地に近づいていく。
 魔物との戦闘数は数え切れないほど──まるで外海からの使者を拒むように、魔物たちは船を襲っていった。


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