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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と水着浴 後篇

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 しばらくセイとグラと遊び、カナタで弄んでから渦の湯を去った。
 フリーズしたカナタは反応しなくなり、二人ももう少し遊んでいたいと言っていたからである。


「さて、次はどこに行こうかね~」


 俺の趣味全開で改造された浴室には、魔法で加工されたたくさんの施設がある。
 時空魔法によって適切な温度が保たれている上、神代魔法をいくつも盛ることで複雑な仕組みも模倣することに成功した。


「スライダーも良いかな?」


 俺の視界には、はるか上空から地に注がれる迷路のように入り組んだ水路が映った。
 水魔法で空まで上げたお湯を固定することで、流れるようにしてある。
 そこに<物質再成>を組み込み、半永久的にスライダーとして機能するようにしたのだ。


「我が主、こんな所に居たのか」

「おう、リョクか……うん。その水着、リョクに似合ってるな」

「うっ! い、いきなり……だな。その、嫌では無いのだが、その……恥ずかしい、な」

「……そ、そうか。なんだか悪かった」


 緑色の水着を着用したリョク。
 腋にビート版を一枚挟み、ふらりと歩いている所にバッタリ遭遇したようだ。
 これまでの流れ的に褒めたが、物凄く照れているため俺も恥ずかしくなってきた。

 うん、好い反応をしてくれたからだな。


「と、ところでリョク!」

「ど、どうしたのだ!?」

「……ゴホンッ。スライダーで遊ぼうと思ってたんだが、リョクもいっしょに乗るか? お手製の浮雲を浮き輪代わりにして、あの流れを制覇しようぜ」

「…………ほぅ。我が主と共に、あの流れをか。それはそれは、なんとも興味深いです」


 どうやらリョクも楽しんでくれそうだ。
 ──というのも、男湯と女湯では全然中に設置されている施設が異なっているからかもしれない。

 女湯は電気風呂やジェット風呂、ミルク風呂や打たせ湯など……遊ぶというよりも癒す目的のものが多くなっている。
 一方、男湯は俺がお湯を自在に変質させられるので、あくまで形に拘ったレジャー施設系のスポットが多いのだ。

 そんなこんなで、天空から降り注ぐスライダーは男湯専用の施設。
 過去に第一世界の過酷な環境で修業した彼女にとっては、ぜひ行ってみたい所だろう。


「まあ、てっきり独りだろうと一度は入ったと思ってたんだが……違うのか?」

「はい、向かいました。ある程度マスターしたつもりですが……我が主と二人で乗るのであれば、また別の面白さがありますので」

「ふっ、そう言ってもらえて何より……それじゃあ、もう少し楽しめるように改造してみようか! (──<箱庭造り>)」


 誰も搭乗していないことを確認してから、勢いよく水に足を突っ込んでスキルを発動させる。
 すると、空に描かれた水模様は、俺の望むままに形を変えていく。


「俺も時々、修業の一環としてやっているのがこのハードモードだ。起伏が激しいから、安全の保障が少し減る……それでもやってみるか?」

「おおっ! さすが我が主でございます! ワレもこのような、刺激のあるものを求めていたのです!」

「そこまでか……いちおう訊くが、リョクはどうやってあそこまで向かった?」


 この特殊なスライダーは、出発点があまりに高い場所にあるため歩いていくことが不可能に近い。
 翼や浮遊スキルがあれば、そこまで行けるのだが……スキルを共有したのか?


「いえ、ワレは水歩スキルを持っておりますので。ここではそちらを用いました」

「水上歩行って……コースを登ったのか」

「ダメ……でしたか?」

「そうじゃない。ただ、男湯だからと自分の都合しか考えてなかったって思ってな」


 スライダーを弄るついでに、スタート台に繋がるエレベーターを作成する。
 もともとあった水をスタート地点にリサイクルする機能を改造し、人間が乗っても平気なようにしておくだけだ。

 ……傍から見れば、水の高低差を利用した物に見えるだろうな。
 そのうち科学だけでも、それが再現できるか試してみよう。


「──けど、今はリョクとのデートだな。ほら、さっさと行こうぜ!」

「う、うむ……了解、しました」


 エレベーター(仮)に乗ると、ゆっくり上空へ舞い上がっていく。
 見渡す限り、創り上げた浴室が映る。
 さまざまな所で遊ぶ眷属に、嫌な顔はなく楽しそうにしている。


「なあ、リョク。楽しんでくれているか?」

「楽しいです。もともと死を迎えることを覚悟したワレらを、我が主がお救いなされたあの瞬間から……」

「そこまでかよ。自信を持とうといろんなことをやってきたけど、俺はいつまでも俺で在り続けてるんだよな」


 それは変わらない事実だ。
 結局俺は本当の意味では偽善者でも王者でもなく、ただのモブでしかない。


「始めはただ、偽善をしたかった。リョクを救ったのだって、本当は従魔として扱き使うためだったんだよ」

「……」

「けどさ、俺はそうしなかった。家族と思えてきたお前たちに、仮初とはいえ死を味あわせるのが怖くなった。偽善者だったらさ、お前たちをそうした風に使うことだって許容できたはずなんだけどさ」

「我が主……」


 今の台詞を頭が良い奴が纏めれば、国民や眷属のことがかけがえのない存在となったからこそ、無下に扱えなくなった……ということになる。
 ──俺も、実際そう感じているからな。


「さっ、まずはこれを楽しもう! 少し暗くなった雰囲気ぐらい、すぐに晴らしてくれるだろうよ!」


 辿り着いた流れの入り口に、先ほど生みだした雲を設置する。
 そしてリョクが、何かを決意したような表情を向けてきた。


「我が主。ワレは我が主と初めて会い、配下にされました」

「ああ、したな」

「ただ従属させるのではなく、ワレらの自由意思を尊重してくださった。同胞たちも見捨てるのではなく、新天地をご創造なさってくださった……我が主は根本的に、偽善者には向いていないのかもしれなません。おそらくは、自称が精一杯かと」

「……ハァ。そんなものか」


 リョクの言葉はスッと胸に染み渡る。
 どこまでも【傲慢】で【強欲】な俺だが、ある程度妥協をしないとな。

 そんなことを、眼下に浮かぶ景色を見ながら考えたのだった。


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