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偽善者と精霊踊る育成イベント 十四月目

偽善者と水着浴 前篇

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 夢現空間 浴室


 つい先日ネロに話したように、現在の俺の体はあらゆる箇所が傷ついている。
 召喚魔法擬きがあるので戦闘には困らないが、完全で無ければ緊急時に対応できなくなる──そのため、癒す必要があるのだ。


「だからってさ、どうして混浴する必要があるんだ?」


 浴室は一種のレジャー施設となっているので、男女どちらの部屋も広くなっている。
 そのため眷属が全員入ろうと、困らないくらいには広い……が、それでもわざわざいっしょに入る必要はあるのだろうか?


「好いではありませんか。メルス様の要求通り、仕方なく水着を着用したのですから」

「……まあ、メルにさせてくれないのは減点だけどな。そこまでして防ぐかよ」

「そうして変身魔法ばかり使って、もし使用できなくなったらどうする気ですか? これはその予行演習です」


 わざわざここでやる必要は無いとか、独りでもできる、などということはできる。
 だが眷属の頼み事であるし、何より無理に送還することも今はできない。

 ──甘んじて受け入れ、物語の主人公でいうところの『役得』をしてみることにした。

 見渡す限り、(外見上は)全員女たち。
 男は俺独りという夢のような場所、今もわいわいと楽しむ声が聞こえてくる。


「ところでメルス様、誰にも感想を言わないというのは、ハーレムを満喫する主としてどうなのでしょうか」

「と、言われてもな……あんまり水着は詳しくないし、似合ってるって言うだけしかできないぞ?」

「構いませんよ。女には、ただ一言褒められるだけで喜ぶ、そんな奇特な者たちが多いのです。斯く言うわたしも他の眷属も、そんな奇特な者ですよ」


 眷属の大半が過去にトラブルを起こし、そうした機会が無かった。
 故に言われるだけで嬉しい、といういわゆる『チョロイン』になったそうだ。
 ……いや、そうだって言われたんだよ。

 そんなこんなで、アン先生のご指導の下で褒め方のレクチャーを受けていた。


「じゃあ、とりあえず──アン、その水着似合ってるな」

「とりあえずとは……やれやれ、メルス様の語彙力は足りませんね」

「言えって言ったのはお前だろうに……」

「そういった問題ではありません。できるのですから、やってほしいのですよ」


 乙女心は複雑怪奇とはこのことか。
 どのような経歴があったとしても、肉体に精神が引き摺られる……そんな工□創作物系の話によくありそうな話だ。

 わけあって能力に意思が宿った存在に、そこまで言われるとはな。
 まあ、それ自体は全然構わないけど。


「にあってるよ、あん。すごくにあってる、ついおそいたくなっちゃいそうだ」

「……機人であるわたしより、心が籠もっていない台詞セリフですね」

「なら、どうしろって言うんだよ。モブに語彙力を求めるんじゃない。フェニックスのスキルで試したこともあったけど、全然上手く話せなかったじゃないか」


 俺的に価値の高いスキル(詩的言動)。
 しかしながら俺の語彙力に変化は少なく、結局最後に重要なのは俺がどれだけ本音を曝け出すかどうかだった。

 ただの告白だぜ、それ。
 並んだ眷属に日頃の本音を吐くのが、いったいどれだけ羞恥心に満ちた行動だったか。
 お陰でより関係が深まった気もするが、それでも精神的に滅入ったよ。


「一つ一つ、メルス様が思っていることを伝えるだけでいいのです」

「……そんなことでいいのか?」

「千の言葉を重ねるよりも、一の想いが響くこともあるのですよ」

「そんなもんかねー」


 乙女心は専門外なので、ここはアンの言う通りにしておこうじゃないか。

 まずは今一度、彼女の姿を吟味してみた。
 アルビノの肌と同じ真っ白なビキニを着た彼女は、ほんのりと顔を赤らめながら俺の感想を待っている。
 肌を晒すことが恥ずかしいのか、それとも俺が視るのか恥ずかしいのか……さて、そろそろ伝えようか。


「うん、似合ってる。凄く綺麗だ」

「……もう少し、上手な言い方は無かったんですか?」

「俺が本当にどう思っているのか、そんなの察してくれよ。いつも俺を支えてくれる、知性溢れるアンもいいけど、こうして俺の心を揺さぶる蠱惑的なアンも可愛いな」

「…………」


 少しだが、顔の色がさらに赤くなったな。
 モジモジとせず、変わらぬ様子で立っているものの、指先がピクリと反応していた。


「蠱惑的、ですか……メルス様は、わたしの体に微睡んでくれますか?」

「当然だ。そもそも女性経験の無いモブなんだし、お前たちの行動にいつもドギマギしてるんだぞ」

「そうですか……えいっ」

「ちょ、アン!?」


 俺の胸に飛び込んでくるアンを、そっと受け止める。
 弱体化している今でも、適切な角度を演算して衝撃を吸収できる動きを行うことぐらいならできた。

 そして、伝わるお椀の感触。
 どれだけ経験しても、上手く受け流せないその柔らかな肌の温もり……あっ、ヤバい。


「メルス様……顔が赤いですよ?」

「アンの積極的な行動に、少しばかり心が揺れ動いたんだろうな」

「そのわりに、ご子息様は反応していないようですが」

「どこを見て言ってやがる……肉体を完全に掌握しているんだから粗相はない」


 夢の世界で働いている息子も、現実においては引き籠もり中……なんて悲しい異世界事情は置いておこう。

 抱き着いてきたアンを、お姫様抱っこの要領で持ち上げて湯に浸かる。
 一瞬で、流れるようにその動作を終わらせたのでアンもビックリだ。


「ほら、いっしょに入ろうぜ。みんなとも後で何かするけど、今はアンとの時間だ」

「……このままで、ですか?」

「何かされるより、このままの方が安心だからな。それとも変わるか?」

「このままで……いましょうか」


 お湯のせいかさらに顔を赤らめるアンと共に、しばらくは体に染み渡る温かさを満喫するのだった。


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