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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と自己紹介 その22

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 夢現空間 居間


 数日が数か月に感じられるほど、濃密な時間を過ごした気がする。
 一戦一戦が死線を彷徨うものだったし、頭も体も心も魂も擦り減る闘いだった。


「だからこそ、こうしたまったりな時間を大切にしたいんだよ……」

「どうしたのだ、メルス。魂魄から疲労しているではないか」

「ソウとの闘いで使った『寵愛礼装』、あれの後遺症がまだ続いてるんだよ」


 優秀な秀才や天才の魂を一部分とはいえ、凡人が上書きして自分のものとして使っていたんだから、仕方ないと言えば仕方ない。
 数日が経過しても、少しだけ気怠い感じになっていた。


「ネロ、魂魄の癒しはどうしたらできる?」

「そうしたポーションが存在する。高位の回復魔法でも癒せるだろう」

「お前だったらどうやってた?」

「……吾の場合、治すというよりも直すだったが。それでもいいか?」


 闇系統の魔法しか持っていなかったネロ。
 そりゃ明るいイメージのある『治す』に、縁があるわけないか。


「ああ、それも込みで訊いているんだ」

「吾は死霊魔法で別の魂魄をエネルギーに変換し、直したい魂魄に注ぐことで対処していた。基本、実験に失敗して穴が空くだけだったからな。それを埋めるだけであれば、死霊魔法でできたのだ」

「えっと、つまり直すために別のものを使ってたってことか。拒否反応とかって、無かったのか?」

「無論、あるにはあるが……吾がそれを間違えるとでも?」


 今ではなんだか残念なイメージもあるが、もともとはマッドなサイエンティストだったネロさんである。
 そんな過ちは無い、そう断言できるぐらいには魂魄を見続けたのだろう。


「ところで、メルスはどうしてそのようなことを? お前のような埒外の存在であれば、魂魄の修復など自由自在だろうに。吾に頼らずとも、誰かしらが回復をかけるだろう?」

「こういう経験も<澄心体認>にさせておこうと思ってな。同じような状況になったとき、自然とアイデアが浮かぶかもしれないし」

「そんな理由か……吾がこのタイミングで修理してやってもよいのだぞ?」

「ふっ、この覚醒したトーを相手にそれを言うか。今となっては、あらゆる魔法を反射する力を手に入れたんだぞ? ネロの魔法ぐらい撥ね退けてみせる!」


 ソウとの闘いの最中、まるでご都合主義でも働いたかのように聖・武具がいっせいに覚醒した……というか、本当ならとっくにしていたがタイミングを計っていたそうだ。
 こういった事情は、本人たちに直接聞いたので間違いない。

 そんなこんなで、『解放のチョーカー』は反則級の力を手に入れることになった。
 もともと奴隷関連の問題を解消するイメージで創られたため、拘束系の能力を一切合切無効化してしまうように。
 うん、チート級のアイテムだ。


「……まあ、メルスが嫌だと言うのであれば吾も無理にやらぬ。べ、別に、吾がメルスを治したかったわけでも無いからな!」

「…………ツンデレ乙?」

「だ、誰がツンデレだ!」


 どこからどう見ても、お前のことだ。
 俺としてはひたすら本音を語ってくれる眷属もいいが、こうして少し隠してくれるのも好いと思えるんだよな。


「まあ、別にいいが……そろそろ始めるとしようか」

「う、うむ。そう、だな」

「そう慌てるなって。俺が一からリードしてやるから、お前は俺の言う通りにしてくれればいいんだ」

「け、経験が豊富なんだな」


 何を今さら。
 何度もお前たちとやっているんだから、そりゃそうだろうに。


「──さあ、そんなこんなで始まりましたこのお時間! 第二十二回質問ターイム! 今回のゲストはこのお方、死者の王にして不死の魔王──ネロさんです!」

「う、うぅむっ! よ、よろしく頼む!」

「はい、緊張していますね。でも安心してください、質問に答えていただくだけで終わりますので」


 すでにに十回以上もやってるんだし、NGの経験も何度もあったさ。
 大丈夫、今なら編集もできるからさ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「問01:あなたの名前は?」

「ネロマンテ・ガイスト、ある者から継いだ名前でもある」

「そうだったのか……って、お前もともとスケルトンだったよな?」

「研究の最中に、いろいろあったのだ」


「問02:性別、出身地、生年月日は?」

「元無性で現在女、どこかの穴、分からん」

「そもそも、そこってダンジョンじゃないんだよな? それなら出れないし」

「ただ小さい穴だった、そう漠然としか覚えていないのだ」


「問03:自分の身体特徴を描写してください」

「聖気に蝕まれた白い肌と体毛、眼は黒いが吾の能力の内種族に関する力を使うと緑色の焔が灯る」


「問04:あなたの職業は?」

「【不死魔王】だ」


「問05:自分の性格をできるだけ客観的に描写してください」

「目的のためであれば、あらゆる手段を使う冷酷さ……であろうか?」


「問06:あなたの趣味、特技は?」

「実験だな。主に魂魄に関する実験を行う時間が至高だ」


「問07:座右の銘は?」

「死屍累類、ただ死に関わっているというだけで意味はそう深くはない」


「問08:自分の長所・短所は?」

「長所は冷酷な判断ができる、短所は……自分の意志と関係なく感情的になることだ」

「冷酷、冷酷ねー……プフッ」

「わ、笑ったな! おい、メルス! どうにか反論したらどうだ!」


「問09:好き・嫌いなもの/ことは?」

「むう……好きなものは質の好い魂魄、嫌いなのはその逆だ」


「問10:ストレスの解消法は?」

「実験をすることだ」


「問11:尊敬している人は?」

「チャルだな。吾に拳術を教えてくれた」


「問12:何かこだわりがあるもの/ことがあるならどうぞ」

「魂魄だな。あらゆる者たちを見てきた分、目が肥えてきた」

「へー、ちなみに一番良いって思ったのは誰の魂魄なんだ?」

「良い、というよりは面白い魂魄であったのはメルスだ。何せ、自身の魂魄が見えなくなるほどに、周りからの影響を受けているのだからな」


「問13:この世で一番大切なものは?」

「かつてであれば、魂魄を視ることができるこの眼だと言っていただろう」

「ふーん、なら今は?」

「……言わせるな」


「問14:あなたの信念は?」

「魂魄を識る。そして、いつか神をも超える魂魄を己が手で生みだすことだ」


「問15:癖があったら教えてください」

「癖、と言われても……先も言った通り瞳に焔が宿ることぐらいだ」


「問16:ボケですか? ツッコミですか?」

「ふむ、当然ツッコミだ。吾の発言に問題などないのだからな」

「…………うん、そうだな」


「問17:一番嬉しかったことは?」

「吾自身の魂魄の質が向上した時だ……まさに、悪魔との取引だったな」


「問18:一番困ったことは?」

「その契約によって、吾は感情を学ばされることになったことだ」


「問19:お酒、飲めますか? また、もし好きなお酒の銘柄があればそれもどうぞ」

「霊酒、というものが旨かったぞ」

「霊体系の素材から作った酒だな、意外と人気なんだよ……そういった輩から」


「問20:自分を動物に例えると?」

「元はスケルトンである吾に、当て嵌まる動物など無いと思うのだが……一つ上げるとすれば、猫だろうか」

「その理由は?」

「自由気儘に動くからだ」


「問21:あだ名、もしくは『陰で自分はこう呼ばれてるらしい』というのがあればどうぞ」

「……特に無いな」


「問22:自分の中で反省しなければならない行動があればどうぞ」

「それこそ、メルスに絡んだのがある意味終わりだったのだろう」


「問23:あなたの野望、もしくは夢について一言」

「先も挙げた通り、神を超える魂魄を生みだすことだ」


「問24:自分の人生、どう思いますか?」

「魂魄に魅了されたものだ」


「問25:戻ってやり直したい過去があればどうぞ」

「メルスとの出会いだ」


「問26:あと一週間で世界が無くなるとしたらどうしますか?」

「終わるのであれば、これまで試さずにいた実験を行おう」

「どんなのだ?」

「全生命を贄として使い、高位の存在を召還するという儀式だ」


「問27:何か悩み事はありますか?」

「……その、メルスが聖骸とした者たちと話しづらい。どうにか接点がほしい」


「問28:死にたいと思ったことはありますか?」

「それはない。常日頃から死んでいるのだからな」


「問29:生まれ変わるなら何に(どんな人に)なりたい?」

「優れた魂魄の持ち主になりたいぞ」


「問30:理想の死に方があればどうぞ」

「不死故、死は望まん」


「問31:何でもいいし誰にでもいいので、何か言いたいことがあればどうぞ」

「メルス、お前と出会い散々な目に遭った。だが、その結果知ったものも多い。眷属たちとの交流で、吾の魂魄に関する実験はより深いところまで進むことができた」


「問32:最後に何か一言」

「感情を知れたことも、悪いことでは無いと思っている……こうして誰かを想うことが、ここまで心地好いものだとはな」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「はいカット! お、お疲れ様」

「うむ、本当に疲れるインタビューだった」


 今のは意識して言った言葉じゃなかったのか、ネロに羞恥の感情は見受けられない。
 ……なんか、俺だけ恥ずかしいってのも負けた気分になるな。


「なあネロ、お前は俺のことが好きか?」

「何を当たり前なことを。過去に何があろうと、今の吾はメルスやお前の眷属にとても深い何かを感じている。それが何かと昔は悩んだものだが……愛、なのだろうな」


 ……気分、じゃなくてこれは確実に俺の負けだな。
 ネロがそんな風に考えてくれているとは、俺も嬉しくなってくる。


「ではメルス、少し魂魄について語り合おうではないか」

「ん? まあ、別に好いぞ」


 ネロの表情はとても明るく、マッドな様子など感じさせない。
 どんな存在であれ、変わることができるんだな……そう再確認する一日だった。


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