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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と個人の部閉会式 前篇

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「あっ、もう無理……」


 肉体の限界を迎えた。
 今回メインで使用した『寵愛礼装』は、俺の体にひどくダメージを与える。
 コンバット・プルーフをやらないと、こんな風になる……反省したよ。


「大丈夫かのう、主様」

「あ、ああ……助かったよ、ソウ」


 舞台から戻ってきた俺は、動かない体のせいで顔から地面に倒れ伏しそうになった。

 だがそれを、ソウが受け止めてくれる。
 僅かながらのラブコメ要素なのか、胸で受け止めてくれる辺り、好意を持ってくれているんだなーと感じるところだ。


「回復や再成はまだできぬのか?」

「絶賛キャンペーン中だ。ソウへの罰ゲームとして、俺の介護をさせるってな」

「……それは、ご褒美ではないか?」


 おっと、なんだか遠くから殺気が……ソウに向けて放たれてる。
 神眼の受動能力をまだONにしたせいで、それを視てしまった。

 それに、ご褒美と言われてもな。
 あんまり実感が湧かないというか、どうしてそこまでするか分からないというか……。


「いや、価値ないからな。ちょっと弱った俺が回復するまで支えてるだけの任務だぞ」

「うむ、それこそがご褒美ではないか」

「先に言うが、弱ってるけど襲われたら本気で抵抗するからな」


 元を辿れば、隙を見せれば何度でも襲うようなドM龍だ。
 体が動かずとも糸を使えば操れるし、転移系のスキルを連続して行使すれば救援が来るまで時間が稼げるだろう。


「駄目、かのう……?」

「うん、駄目」

「そうか……では、諦めるとしよう」

「ああ、さっさと諦めろ」


 本当に残念そうな表情をしながら、ソウは俺を抱きかかえる。
 ……いや、背負ってくれればいいんだが。
 そしてそのまま移動を始め、胸をギュッと押さえていく。


「どうだ、主様? 儂の胸は」

「どうって言われても……柔らかい?」

「なぜ疑問文なんじゃ……嫌なようにも見えぬし、このままで行こうか」

「お、おい、ちょっと待て。傍から見たら、この状況は不味い!」


 いつの間にか、俺にも冷たい視線が向けられていた。
 とっさに発動させるお馴染みの変身魔法。
 ショタであるのも拙いし、メルとは異なる妖女の姿となって周りを誤魔化しておく。


「せっかくの主様が、女子おなご化してしまった」

「構わないだろう。あと、残念そうな顔をしてるのに胸を強く押そうとするな」


 グイグイと胸が俺の顔を圧迫する。
 ただでさえ小さくなった分、胸が触れる面積が増大しているんだ。
 ソウさんや、女性専用武器さんみゃくを自在に扱ってるんじゃないよ。


「……回復、せぬ方がよいな。やはり、主様と触れ合う時間は心地好い」

「なんて言われてもな……そろそろ動き回れる程度に回復するぞ」

「なんと! ならば、主様をもう一度再起不能なまでに破壊せねば!」

「おいおい、それ以上は他が止めに入ってくるんじゃないか? ここまでだったら、自分がやったケースも考えてスルーしてたんだろうけど、物理的にやるのは……ほらな?」


 殺気とは違うが、妬みをベースに構造された複雑な視線がソウに飛んできた。
 角度的に視界に映らない場所からも、そうした視線が放たれる。


「ほら、そろそろ降ろしてくれ。いちおうだが個人の部を閉幕させないと」

「……ふむ、ならばその点だけを満たせばよいではないか」

「…………へっ?」


  ◆   □   ◆   □   ◆

 そして迎えた、閉幕式の時間。
 舞台の上には女性が一人、あるモノを抱きかかえた状態で立っている。

≪へ、閉幕式、ですが……あの……≫

 アナウンスを行っているホウライも、その状況に戸惑っていた。
 観客席に座る者たちも、抱きかかえた者の姿に戸惑いを隠せない。

「く、くそぉ……ど、どうしてなんだ……」

「弱っている主様であれば、総出で押さえれば抵抗レジストを突破できるだけじゃ」

「おまえらぁぁ、おぼえてろよぉぉ!」

 そこに抱かれていたのは、少女の姿を模していたはずのメルス。
 ──その姿はなぜか少女ではなく、彼の幼少期を再現したものとなっている。

 髪には白の要素が無くなり、塩素で抜けたような薄い茶色交じりの黒に。
 平凡よりも少し劣った容姿は、子供らしいあどけなさを備えることで、見る者を惹きつける存在感を示す。

「愛いのう、主様は。なかなか少年の姿になどならぬ主様が、今儂の胸の中におる……これこそが、勝者の特権というヤツじゃな」

「くそー、ぜんぶのスキルまでふうじやがって……ひどいぞ、ずるいぞ!」

「主様。はっきり言っておくが、主様のその挙動や発言が、儂らの心をくすぐっておるんじゃぞ」

 拙い呂律でソウや眷属を罵倒するが、その語彙力の無さも含めて観客たちの心はメルスに釘づけとなる。
 ソウの拘束から逃れようと全身をバタつかせ、それでも解けない非力な足掻き。

 ──眷属たちのかけた魔法が魅力を齎したのか、それとも幼少期のメルスがそうした魅力を持っていたのか。
 どちらにせよ、そのような魅力があるとも思わずに彼はソウから逃れようと暴れる。

「主様よ、それより閉幕式の宣言をせねばならぬのでは? やるべきことをせぬのは、より問題になるんじゃろう?」

「……わかったよ。わかりましたよ!」

 叫ぶメルスからは、なんだかやっつけ感が醸し出されている。
 だが誰もそこには触れずにおき、幼い姿のメルスの言葉を聞くことにした。

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