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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と四回戦最終試合 その11

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「其は光闇の王者なり。二つの血は混ざらぬモノ、さりとて其は生まれいづる。世界を照らす勇ましき力、世界を覆う魔の力。汝、その忌むべき祝福を我に貸し与え、望むべき世界の糧とせよ──“勇魔魂魄ソウルレーヴェ”」

 礼装がグニャリと歪み、姿を変えていく。
 色調は白と黒が混ざり合ったデザインとなり、どこか輝かしさと禍々しさを兼ね揃えたように見える。

 本もまた、その形を変えて聖なる光を放つ鎧となった。
 背部からは白い燐光を纏った黒い翼が生えており、羽の一つ一つがこれまでの薔薇や本の役割を果たす。

「勇者にして魔王、勇魔王者モードだ! どうして翼か分からないけど……まあ、翼を生やす能力があるからだろうな」

「これまでの中でもっとも魔法が多く使えそうじゃのう」

「試してみようか──“滅葬の紫焔パープルブレイズ”」

 禁忌魔法に指定される火属性の魔法が行使され、そのエネルギーの奔流が翼の中へ吸い込まれていく。

 白い燐光は紫色に染め上げられ、火の粉を飛ばすように光を周囲に散らしていった。 
 地面に光が触れた途端発火し、その危険性が見て取れる。

「メルス、行っきまーす!」

 炎がジェット噴射のように推進力となり、爆発的な速度でメルスをソウの元へ運ぶ。

 この際握り締めるのは、水晶が形を変えた黄金の剣。
 先ほどとは材質から異なるため、よりいっそう黄金の輝きを放っている。

「龍迅大砲」

「“光り輝け”(──“聖迅剣”)」

 煌く巨大なレーザーに対し、聖なる力を帯びた黄金の斬撃が放たれる。
 威力はレーザーの方が上だが、紫焔のエンジンが速度を加えた分斬撃もまた拮抗する程度に威力が上昇していた。

「薔薇と違って球として出せないし、本みたいに術式を選ぶこともできない。けど、そのままエンジンとして使って加速ができるみたいだ。そして、こんなことも……」

「むぉっ!」

 飛び散った羽が単独で紫色の炎を噴かし、ソウの死角から特攻を行う。
 だが、ソウは龍眼によって通常の視野よりも広い範囲を見通していた。

 少し驚いた程度で、突撃自体はヒラリと回避する。

「“刳り貫け”(──“邪迅剣”)」

 心臓を切り取るとされる聖剣となり、回避行動によって隙を見せたソウの心臓を狙う。
 禍々しい、黒い瘴気のようなエネルギーが剣身に宿り、貫通力を高めている。

「甘い!」

 ソウはその行動すら読み切り、視覚に頼らずに剣の進路に棒を差し向ける。
 剣と棒がピタリと噛み合う場所、そこへ互いの攻撃が向かう──

「ここでお披露目、遠隔転移眼」

「っ……!?」

 空で輝く星々の内、これまでの戦闘に巻き込まれなかった一つが一瞬激しく輝く。
 するとメルスの位置は変化し、あっさりと心臓がソウの元へ向けられる。

「破壊されまくったからちょっと心配してたけど、配置をちゃんと調整しておいてよかったよ……あっ、やっぱり駄目だったか」

「具纏も身体強化も磨いた故、あの頃のように簡単に鱗を破壊されることは無いぞ」

「さっき、魔法無効は破壊されたけどな」

「……鱗自体は破壊されていない」

 すぐに剣を手放すと、近距離で上級魔法を連発して逃亡した。
 剣は自身でメルスの元へ帰還し、その手の中に収まる。

「まだまだ終わらぬよ。儂と主様の逢瀬は、そう簡単に終わらせぬ」

「逢瀬か生か……アレっぽくなりそうだな」

「そのためならば、儂も無様に足掻こう。主様と真剣に向き合い、それに主様が応えてくれる。それこそが眷属としての栄誉じゃ」

 棒がうねり、形を手甲へ変えていく。
 鱗の硬度とソウの筋力がそのまま攻撃力となり、あらゆる物を破壊するだけの力を手に入れることができる。

 これまでの棒を振るう闘いが柔のものだとすれば、こちらは剛のもの。
 これまでの試合で徒手空拳だったのには、そのような意味があった。

「なら、俺もそうするか」

 どこからか取りだした真っ赤な籠手を装着し、ぶつけて音を鳴らすメルス。
 力では劣っているが、【憤怒】の能力が与える恩恵がメルスに力を与える。

「えっと──“聖迅拳”、“邪迅拳”」

「ならば儂は龍迅砲じゃな」

 純白と漆黒のオーラを纏うメルスと、銀色の龍気を纏うソウ。
 互いに触媒ではなく自身の手に力を注いでいるため、その量は尋常なものではない。
 空間が歪み、オーラ同士がぶつかりあうことで小規模な爆発が起きていた。

「怒るに怒れないんだが、それでも【憤怒】の力を使おうか。眷属に対して怒る、か……眷属同士の喧嘩が危険な域に達したら俺も怒るのかな?」

「主様の怒りか……それは回避したいのう」

 侵蝕による【憤怒】状態は起こしたことがあったが、メルス自身がその力に染まったことは無い。
 そしてそれは、眷属に向けられるような感情ではないと本人が考えている。

「全力の怒りなんて、俺が嫌だ。どっかの戦闘民族だって、怒りをセーブしていられるんだ……俺にだって、できるさ」

 ナニカを想い、意識を集中するメルス。
 体からエネルギーが膨れ上がるように増大し、やがてメルスの意識を現実に戻す。

「──さぁ、続きを始めよう。俺の勝利って運命を勝ち得るために」

 瞳の色は──赤かった。

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