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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と四回戦最終試合 その10
しおりを挟む礼装の色は真っ白に染め上げられ、形状も白衣を模したような物に変化する。
付いていた薔薇は本となり、ページごとに開いた術式を展開していく。
「なんかパワーアップしたな。これ、本当にハーレム専用装備だな」
「主様……どうしてそんなに余裕でいられるのかのう?」
「俺の“不可視の手”は低コストかつ簡単に使える能力だし、本も俺の意思に関係なく発動するから楽なんだよ。……嗚呼、これが協力なのか」
「それは少し違うと思うぞ」
ソウが握る棒がミシミシと悲鳴を上げる。
飽和寸前まで注がれたエネルギーが溢れかけ、少しずつ棒に罅を入れていた。
彼女はそんな自身の武器内のエネルギーを調整して、暴発しないようにしている。
「薔薇と違って籠める属性を選択しなきゃいけないみたいだが、それでも術式の方は最適なヤツを選んでくれるみたいだ。ソウ、早くそれを使ってみてくれよ」
「うむ、そうじゃったな。儂もそろそろ限界じゃった」
天高く掲げた棒は、剣士の英霊のように閃光を迸らせる。
ソウの視界に入ったすべてを撥ね退けるだけの太さと強さを誇り、空に輝く魔眼の星を貫かんばかりに伸びていた。
「行くぞ、主様よ」
「ああ、いつでも来い」
互いに互いを求め──動きだす。
技名も無く、ただその暴虐の光をメルスの元へ振り下ろすソウ。
その実情とは裏腹に、エネルギーは銀色の美しい輝きを映えさせる。
「全部槍で、それを束ねて──穿つ」
属性の宝珠を通して属性を付与し、球状の魔力を放っている。
だが今回はこれまでとは異なり、珠そのものを触媒として魔法が行使された。
神代魔法の一つ、集束魔法によって一つに纏め上げられたすべての魔法は、混沌とも虚無とも異なる形で安定する。
「名付けて──“万色の虹”だな。多連式のハーモニーを奏でるってヤツだ」
あらゆる色が混ざることなく、虹のように幾層にも重なって輝く。
投槍を象ったその魔法のエネルギー体を握り締め、メルスは叫ぶ。
「ゲイボルグ! (──“螺旋投槍”)」
隠す意味の無い高々な宣言の裏で発動した武技により、槍に強い螺旋回転が加わる。
ただでさえ、特殊ルールによって回復量が凄まじいことになっているため、魔力に関する心配をせずに魔法を使えるこの闘い。
一つ一つに数秒の回復量のすべてを注いだ魔法の数々が、束ねられて放たれた。
「「ウォオオオオオオオオォッ!」」
篤い想いを言霊に乗せ、己が掛けられるすべてをその一撃に籠める。
拮抗を続け、崩壊していく──ソウの棒。
酷使を重ねた結果、先に壊れていったのはそちらであった。
「くっ、まだ……まだいける!」
場の空気に同化し、内に秘めた闘志を口に出すソウ。
すぐさま全身にエネルギーを集め、万遍なく行き渡らせる。
「ガァァァァァァッ!」
そして、ソウに向けられた万色の槍が彼女の肉体を痛めつけた。
龍鱗の力によってダメージは九割程カットされるが、メルスの魔法がその程度で弱まることもなく、全身に苦痛が走る。
「──ここで終わるのが、物語とかの王道だけどなー。さすが、ドMだよ」
「……この場合は、元世界最強であることを褒めてほしかったのう」
鱗が少し焦げた程度の軽度なダメージ。
だがその結果、この試合中は魔力によるダメージの完全な無効化ができなくなった。
「鱗が使えなくなって、悦んでいる奴を変態と言わずしてなんと言うんだ? お前は本当におかしいな」
「主様がたしかな生の実感を、生きていると儂に教えてくれておるからじゃ。あのときの主様は、儂が主様を殺そうとした攻撃をぶつけ返して儂を殺した……さて、今回はどのようにしてくれるのじゃろうか」
「いっそのこと、お前の力を使って勝つってのも楽しそうだと思えてきた。どうだ? やる気は無いけどやってみるか?」
「前と後の文が繋がっていないぞ。答えは否にしておこう。儂の力は最強じゃからな。主様が使えば儂は間違いなく敗北を喫してしまうじゃろう」
自身の力であるからこそ、それを多才なメルスが使った際の恐ろしさを理解していた。
眷属であるため、メルスは自身の魂をすでにその身に宿すことができる。
それでもそれを使わずに、ソウに問いかけることから──
「儂らでは、足りんのかのう?」
「ん? 満ち足りているさ」
「力が、じゃよ」
メルスは考え──本が自動的に術式を発動し、槍や球などの形で魔力を放つ。
ソウがそれを鱗を千切って変換した棒で対処する間に、その答えを用意する。
「──そもそも地球でさ、今みたいな武力は必要ないんだから。あくまで偽善をするときに、後悔しないように力を増やすだけだ。足りるも足りないもないぞ」
「では、主様は帰らずとも……地球に戻らずに儂らと共に?」
「えっ、力の話だったよな? 今のところログアウトしたいとは思わない。すべてが解決しない限り、安全とは思えないからな」
ソウを囲うように放たれた魔法の光線。
翼をはためかせて光速で逃げるが、光線もまた同等の速度で追尾を行う。
仕方なく息吹を使用し、それを消し去っていくソウ。
メルスは再び礼装に手を当てた。
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