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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と四回戦最終試合 その09

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 ドラゴンの鱗は脆弱な攻撃を無効化する。
 格や保有する魔力量によってその幅は異なるが……古龍にして世界最強を誇るに相応しい魔力量を有するソウであれば、中級程度の魔法までを無効化できた。

 上級以上の魔法であっても、その効果の大半を弱体化させてしまう古龍の銀鱗。
 それが今──初級の魔法によって、多大なダメージを受けることになった。

「……主様。やはり主様は主様じゃ」

「今さら何を言ってるんだ? 俺は俺、それ以外の何者でもない偽善者だ」

「ただ偽善を謳う者に、儂は殺せぬ。それは儂自身がよく知っておる」

 あらゆる猛者を退けた圧倒的な力は、かつてのものより強大になっている。
 無限に近しい魔力の量、夢幻の如き手札の数々、夢現を統べしメルスはそれでもなお、ソウを抑え込む力を有していた。

 だがそれを認めず、メルスはただ偽善者であることだけを強く願う。
 ──物語の英雄のように、勇者や魔王のようにならずとも、彼の望みは叶うのだから。

「偽善者でいいだろ。むしろソウは、俺にどうなってほしいんだ? そのボロくなった鱗の再生の時間もあるし、暇潰しにでも訊いてやるよ」

「なんという傲慢か。じゃが、今の主様にはそれが相応しい。……ふむ、どうなってほしいか。夢幻とはいえ、すでに褥は共にしたしのう……」

「ゆ、夢のことはいいんだよ! そ、それよりもほら、早く言えよ!!」

 興奮する声に合わせて、咲き誇るバラの色も一瞬真っ赤に染まる。
 感情を侵蝕されたメルスであるが、時々変な所で現れてくることを本人は知らない。

「主様が主様らしく、儂らと共に在り続けていることかのう? 主様は寿命で死ぬことはなく、儂らも望めばそう在り続ける。共にあれば、かつてのような諦念と鬱屈に満ちた時間など存在せぬ。儂は……主様といっしょにいる時間が好きなのじゃ」

「告白みたいな台詞だな……」

 龍として生きてきたソウに、人が感じるような羞恥心はあまりない。
 メルスと共に生きるようになってからは少しずつそれを学んだが、基本的な考え方は龍としてのものだ。

「想いを打ち明ける、これを告白と言わずになんと言おうか。儂はありのまま、主様への好意を伝えた」

「まあ、そうだな」

「ならば主様も、儂をどう思っているかを教えてはくれんかのう?」

「ソウのことか……好きだぞ」

 癒えていく鱗を眺めながら、メルスは慈しむような表情で答える。
 否定する必要なんてない、拒絶して罵倒する必要もなかった……余裕があるように問いかけたソウの瞳に過ぎった不安の色を見て、真摯に返答すると決めていた。

「普段はドMで変態なお前だが……その、あの……なんだ、うん。いいとこもあるぞ」

「主様、儂も時には怒るのじゃぞ。思いつかぬのであれば、絞らぬでよい」

「言葉にしたら劣化する想いもある。態度で示さないと伝わらないとは言うが、それと似たようなもんだよ。そもそも好き嫌いで決まるほど、家族って弱い繋がりじゃないだろ」

 そして、このタイミングで再生が終わる。
 続きを訊こうとするソウを遮り、メルスは再び魔力を練り上げていく。

「さぁ、続きを始めようじゃないか」

「……儂としては、主様がどう思っておるかという方が優先するべきことなんじゃが」

「ふっふっふ、聞きたければこの俺に勝つんだな。魔法が効くことが分かった今、俺が勝つ可能性はグンバツに増えたぞ」

 咲き誇る薔薇は再び宝珠に染まり、ソウの元へ色とりどりな球が飛んでいく。
 回復を終えて万全な状態に戻った彼女は、具纏を用いて自身の身を固める。

「ドラゴンとしての儂は、たしかに負けたかもしれん。じゃが、『ソウ』としての儂はまだ負けてはおらんよ」

「いい台詞だよ。それでこそ、偽善をした甲斐があるってもんさ」

 放たれた球が輝く薔薇と共に、先ほどのように一つへ集束していく。

 具纏によって生みだした巨大な両腕で球を受け止めると、ゆっくりと魔力と龍気を棒に籠めるソウ。
 それはこれまでと異なり、一度限りで壊れる覚悟をして飽和限界まで力を注いだ代物。

 ──世界の境界を壊した斬撃以上に、暴力的な力の奔流を宿していた。

「おいおい、それじゃあ隙だらけ」

「──なわけなかろう。儂とて龍眼でそれぐらい見抜いておる」

 こっそりと放たれた不可視の攻撃は、具纏が生みだした新たな手によって防がれる。

 不可視の攻撃もまた、手を象ったもの。
 手と手が絡み合い、鬩ぎ合っていく。

「そして今、溜まった。主様、この場所は魔導によって保護されておるんじゃな?」

「ああ、だから安心して使ってくれ。その一撃だろうと息吹だろうと……そのすべてを、俺は受け入れよう」

 あえて具纏は使わずにメルスは闘う。

 求めるのは繋いだ絆を用いた闘い。
 自身の魔力だけに頼った方法ではなく、別の方法を用いて防ぐことを選ぶ。


「神を暴きし真実の探求者。たとえ禁忌に挑もうと、我らは智を尊ぼう。理に触れ、万物の法則を識りし学者よ。万物の真髄を我に齎し、無知なる我をその智で満たしたまえ──“学究魂魄ソウルスカーラー”」


 そして、礼装はさらに変化を遂げる。

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