897 / 2,518
偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と四回戦最終試合 その08
しおりを挟む≪──ここまでメルス様が攻撃し、それをソウ選手が無効化するというやり取りが続いていますが……凄く続きますね≫
≪我が王とて、ソウ嬢との闘いでは苦戦をしいるということです。映像で見た通り、ただ龍として無造作に振るった前足の一つで一騎当千の力を発揮するのですから≫
薔薇が光るたび、メルスが握る武具が同じ色の光を放つ。
龍の瞳でそのすべてを捉え、対処するソウの姿はまさに武人である。
死闘を繰り広げた頃とは違い、今のソウには人の知恵と技術が存在した。
メルスが何を狙い、どのような行動を取っているのかを把握し、油断をせずに勝利を得ようとする。
多様な武具を用い、その上でさまざまな魔法を行使することで変幻自在な戦闘を可能にするメルス……その手札の数は誰よりも多く存在し、縛りをかけられていない今では誰もそのすべてを見抜くことができない。
≪あの、メルス様の礼装って皆様の能力が使えるものなんですよね?≫
≪そうです。それはご説明しましたが……何かございましたか?≫
≪複数の眷属の方々の能力、その同時使用は可能なんですか? 先ほどから切り替えると色や装飾に変化は起きていますが、一度生まれたものは変わっていません≫
ホウライが目を付けたのは、現在のメルスの礼装に今なお残るクエラムの力の残滓だ。
メルスの姿を異形に変えたあらゆる動物的特徴は、薔薇を咲かせる茨として、現在も礼装に残っている。
魂を切り替え使い分けているのならば、そのようなことはなく綺麗にリセットされるのでは? ホウライはそう考えていた。
≪……我が王が望んだのは──眷属と自身のみが結ばれるのではなく、眷属同士もまた複雑な絆を育むことです。その想いから創られた礼装もまた、魂を完璧な形で切り離して再接続するのではなく、小さな形でも存在を残すことを選んだのだと思われます≫
≪えっと、要するにメルス様がそうであることを望んだということですね?≫
≪はい。眷属同士が力を合わせることで、自身の力を凌駕するものを生みだす。我が王はそう考えております≫
ソウが薔薇を直接破壊しようと動く。
だがそれを阻むように、茨がうねると鋭い棘で迎撃する。
茨は剣や動物を象った姿となっており、これまでに礼装に宿った魂の力が今も宿っていることが理解できた。
≪……それで、メルス様が使っている魔法はどんなものなんですか?≫
≪私は武具専門の解析能力しか持っていないので、推測でしかありませんが──≫
ドゥルは語る……
ソウは語る……
「──神代魔法、じゃろ」
「おっと、気づいたか」
ドゥルとソウが同時に気づいた、薔薇が宿した魔法の力。
あらゆる事象を武具やメルスに齎す──それは魔法自身が起こすのではなく、魔法が仲介となって起こすものだった。
「色はこっちで付けていたわけだが、やっぱりすぐにバレるか」
「主様。儂が神代魔法の存在に気づかぬとても思ったのか?」
「どうして?」
「……儂を殺した魔法のうち二つは、神代魔法だったではないか」
あらゆる物を無に帰す虚無の力、異なる世界に干渉する次元の力。
それらは神代魔法に属する魔法であり、ソウを殺した要因でもあった。
「神代において、いったいどんな使われ方をしていたか……一部の魔法は別だが、ほとんどが不明だからな。俺としては、ただ便利な魔法としか見てないんだ」
「神代の者たちも、主様のその言葉を聞けば悲しむじゃろうな」
「兵器だって、使う人が使えば平和に使えるだろう。木の枝一本だって、使う人が使えば戦争を引き起こせる。魔法だって、その気になれば生殺与奪を握るだけの力があるんだしさ、あんまりどうでもいいだろう」
大切なのは、担い手がどうするか。
与えられた生産の力でさまざまな物を生みだし、その大半に担い手として選ばれなかったメルスだからこそ言えることだ。
「それじゃあ一つ──“器想纏概”」
メルスの周りに生まれた魔法の珠。
すべてが異なる属性を司り、舞台に飛び散り目まぐるしく動いていく。
「俺の意思に関係なく、あらゆる角度から魔法がお前を襲う。魔法で試すのも、これが最後になるかもな──“暴虐嵐舞”」
近くに在った珠を手に取ると、ソウの周りに荒れ狂う嵐を生みだす。
すぐさまソウは、自身の翼でそれを振り払う──が、メルスの次の行動はその間に済んでいた。
「薔薇たちもまた、勝手に魔法を使ってくれるんだろ? なら、これを使ってくれるってことだ」
宝珠を薔薇に触れさせると、宝珠と同色に染まり魔力を放出する。
魔法としては基本──球として解き放つというシンプルなものであったが、たしかに魔法を自動的に行使した。
「じゃが、儂にその程度の魔法は効かんよ」
龍人状態となったソウの鱗は、あらゆる攻撃を防ぐ力を持つ。
そのため並大抵の威力では、決してダメージを与えることができない。
だがそれでも、メルスは笑う。
「だからこそ、神代魔法がサポートをするんじゃないか」
二つの薔薇が呼応し、魔法を発動する。
片方の薔薇が力を行使すると──球の数は倍々に増えていく。
もう片方の薔薇が発動すると──球は一つに集まり、内包する魔力を高める。
「無効化にも限界はある。舐めた基本魔法でダメージを負えよ」
そして、ソウの龍鱗の防御を超え──魔法が炸裂した。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる