上 下
896 / 2,518
偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と四回戦最終試合 その07

しおりを挟む


 神話に語られる怪物たちが、地上を舞台に大喧嘩を始めていた。

 フェニのレーヴァティンと異なり、メルスの使用した聖武具『慈愛のラッパ』は模造品では無い本物の力。
 厳格にラグナロクを再現しようと、世界を終わらせる支度を始めている。

「万物を斬り裂け──“絶対切断”!」

「容赦がない技じゃ。刀身すべてに、その力が宿っておるのか……ならば」

 ソウが振るう棒は、的確に包丁の柄の部分だけに命中する。
 包丁を握るメルスにもダメージは及ぶが、それは持ち前の再成ふくげん能力を発揮してすぐに戻していた。

「器用だな、お前も」

「今の儂は、主様と違って菜箸で大豆を掴めるほどに繊細なんじゃよ」

「……俺だってできるし」

 軽口を叩く間も、真剣な殺り取りは続く。
 嫉妬の炎を体現するような黒い力が襲おうと、ソウは冷静に包丁の刀身に触れないように攻撃を捌いていた。

「俺だってな、(精密動作)があるんだから器用に食えるんだぞ!」

「たしかにスキルを使っている時は、それはもう器用に食べておるが……そうでないときはからっきしではないか」

「ッ! ──“絶対切断”!」

 勢いのままに再度発動した力。
 ヒラリと躱したソウが居た場所を、空間ごと斬り裂いていく。

「おおっと、ついうっかり使ってしまった。なあソウ、何か言ったか?」

「儂としてはもう一度言っても構わんが、可哀想になった故に止めておこう」

「……器用云々の話をしたのは俺が先だ。そのまま話題を逸らすなら、見逃そう」

 予め使われていた魔導“果てなき虚構の理想郷”によって、斬り裂かれた空間の歪みからナニカが生まれるということもなく、ゆっくりと空間が戻っていく。

 だが、そこに纏わりつく黒炎。
 たしかに空間へ傷ができたと示すように、炎がその場で燻っていた。

「主様、いつまで引き延ばすのじゃ? 神気も籠められていない戦いを続けても、儂が終わることはありえぬぞ」

「だから、眷属の力を借りるって言ったんだろ? そりゃ俺だって、神気があればソウが相手でももう少し有利に闘えるさ。それは理想じゃなくて、ただの事実。けど……なんでもできるようにしたいだろ?」

「正直、挑発されているのか馬鹿にされているのか分からぬ……が、主様の表情が明るいので、肯定的に受け入れておこう」

「ははっ! そんな小さなことで怒るなよ。とにかく、この闘いはすぐに終わらない。違う道を一から歩むってのは、開拓から始めなきゃならないんだしさ」

 ソウを倒す方法として、己の持つすべての力を費やす──覇道を選んだ。
 今回は別の方法を、眷属たちの力を借りてソウに勝とうとしている。

 まだ誰も可能としていない、誰かと手を取り合っての『最強殺しジャイアントキリング』。
 その道を拓くために、どれだけの時間を費やそうと成し遂げようという意志がメルスにはあった。


「永久の眠りは悠久の忘却。救いを拒みし茨の姫よ、汝の希望はここにあり。汝が望みし夢幻の果てを、今ここに現界しよう。鋭き棘にて拒絶せよ──“茨眠礼装ソウルドルンレースヒェン”」


 礼装の色は黒から緑へ。
 生えていた多様な生物の特徴は、茨で編まれたモノに変化していく。
 そして咲き誇る鮮やかな薔薇たち、その一つ一つから魔力が放出される。

「ソウー、なんか少しずつ礼装に装飾が増えてくるんだけどー」

「主様の装備は奇怪じゃからのう。転移者や転生者の能力と同等の奇妙さじゃ」

「……“時空加速アクセル”」

 メルスが魔法を発動した瞬間、咲いていた薔薇の色がすべて時空属性を象徴する色へ変色する。
 そして、放出していた魔力のすべてが魔法へ変換され、メルスが進む時間の速度を目まぐるしいものへ変えた。

「ソウ、返事できるか?」

「……可能ではあるが、少々聞き取りづらくなったぞ」

「ああ、俺からもソウの声がだいぶスローなものに聞こえるな」

 互いに思考速度や聴覚の強化などを自在にできるので、片方が異常な速度で空間を駆け巡っていても会話が成立する。
 当初はその速度に馴染めず不安定な動きが多かったメルスだが、すぐに適応すると超高速での戦闘を仕掛けていく。

「どうやらこの薔薇、魔法を自動で使ってくれるみたいだ。しかも、一つ一つ別々の魔法として」

「ふむ、なんと便利な能力なんじゃか。儂には必要ないがのう」

「魔導や合成魔法は無理みたいだから、あんまり融通は効かないみたいだけど」

 一瞬の内に思考詠唱を用いたのか、薔薇はすでに一つを残してさまざまな色で輝く。
 何が発動するのか、それを知ることはソウにはできない。
 ──開けてからのお楽しみ……嬉しくないビックリ箱であった。

「はてさて、この綺麗な薔薇にはどんな魔法が籠められているのかな? 早く当てないと痛い目を見ちゃうぞ」

「……まだ魔法だけで儂を殺る気かのう? 先の魔導剣が一番の危機じゃったぞ」

「何事も試して合点だ。ソウ、お前だって俺がお前を殺すことを想像してなかったんだ。可能性は無限大だ」

 その言葉に呼応し、強く光る一輪の薔薇。
 発言とは裏腹に、ソウはその現象を強く警戒するのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...