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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と四回戦最終試合 その04

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 どす黒い獣の牙の虚像が空に浮かび、ソウの心臓にそれを突き立てようとする。
 肉体を動かせずにいるソウに、回避の手段はない。

「じゃが、どうとでもなるじゃろう」

 体を動かさずとも、その禍々しき一撃に対する反応を示す。
 魔力は魔法として使わずとも、そのまま使うことができる。

「儂ほどの魔力の持ち主であれば、また別の方法も可能じゃ。主様もやっていたし、少し試してみた」

 膨大な魔力を体外に放出し、固定する。
 それは形を持った巨大な壁となって、昏き牙を拒絶した。

「……なあ、どんだけ魔力を使った?」

「主様の魔導なだけあって、簡単には防げぬものであった。一割使ってしまったよ」

「そんな量、少し脈動させればすぐに回復するだろ……」

「そして今、主様と闘うことで儂の心臓をドキドキしておる。回復など、一秒もあれば済むじゃろう」

 龍の心臓が齎す爆発的な魔力生成能力に加え、現在は特殊ルールによって一瞬ですべてのエネルギーが満ち足りる。

「主様、儂の魔力であれば何度使っても問題なかろう。主様の『具纏』は、実に使い勝手の良い力じゃ。長時間の使用は、主様にはまだ劣っておるが」

「……だからさ、どうして眷属たちは俺より何でも上手になるんだよ」

 魔力に物理的な性質を与え、発動したいタイミングでそれを魔術や魔法、魔導として使えるようにする──『具纏』。
 メルスは技術の大半を図書館に寄贈しているため、それを読み漁ったソウもまたその技術をモノにしていた。

「まあいいけど。というか、さっきの魔導はかなり魔力を使うんだぞ。あそこで終わってくれれば、俺も楽だったのに」

「あの魔導、儂でも本当に身の危険を感じたのじゃが……いったいどういった効果だったのかのう?」

「即死」

 あっさりと答えたメルスの顔に、偽りがないためソウは一瞬動きを止めてしまう。
 隙ではあったが、メルスはそれをあえて突くことなく説明を続ける。

「俺のオリジナル魔導“喰らい尽く冥獣の暗牙”は、その牙が触れた対象の生殺与奪権を得る。アレが当たった時点で、お前は死亡確定だったんだけどな」

「主様、儂以上に残忍じゃな」

「あのコンボを使わされたんだ、勝つチャンスがあればどんな手でも使うさ」

 即死に対する耐性があろうと、どれだけ生命力が残っていようと……触れたら最期、その存在に死の運命が訪れる。

 その分使用するメルスには膨大な魔力の消費が求められるが、<久遠回路>によって即座の回復が可能な彼にとって、それはデメリットになりえない。

「それじゃあ魔力も溜まったし、もう少しこのまま楽しもうぜ──“殺せ”」

 透明な槍に告げ、その色を深紅に染め上げるとソウの元へ向かう。
 必殺の神槍──急所に攻撃を当てたとき、対象に確実な死を齎す神器だ。

「お前みたいな殺しても死なない奴に、真正面から闘う必要なんてないだろ。即死の技でそのまま仕留めた方が楽っちゃ楽だ」

「ぐふふっ。あのときのような冷酷な視線でないのは残念じゃが、殺して終わらせようとする主様のその台詞だけでも滾るのう」

「……本当に、堕ちちゃったんだな」

 自分が死闘の果てに殺した世界最強のドラゴンは、あのときの蘇生でナニカを失ってしまったのだろう……そんなことを思い、つい遠い目をしてしまうメルス。

 ソウはその隙を容赦なく突き、握り締めた棒を差し向ける──

「その身にあった圧倒的な自信、超越した気迫に本物ってのを感じてたんだが……今じゃ姑息な手を使うように。やれやれ、時の流れは残酷だな」

「……主様と共に居て、主様の戦法を学んだが故のこの在り方じゃよ」

「つまりは俺のせいってか。やれやれ、なかなかに罪深い男だな、俺ってやつは」

 それを、槍を握る手とは反対の手で握った武器を用い、受け止めるメルス。

 ──小さめな両刃の斧。

 現在でも林業に用いられるような、両刃斧に、刻印のような装飾が施された一品。
 それは、聖剣と対等以上の闘いができる最硬の棒をあっさりと受け止め、むしろ折ろうとする勢いで競り合いを行っていた。

「『断界斧』、世界すらも真っ二つにできる威力を誇る斧だ。いくらお前の鱗でも、無抵抗だと壊れるぞ」

「たしかに、魔力と龍気で強化しても少し響いておるのう。じゃが、これは間違いなく主様が悪い」

「……失礼な眷属だな。まあ、俺もコイツの性能は信用してるから否定はしないけど」

 そして防いだままの斧で棒を弾くと、そのまま勢いよく投げつける。

「片手斧じゃないが、そういう使い方もできるようにしてある。防げるか試してみるのもいいかもしれないが、後で弱点になる箇所が生まれるかもしれないぞ」

「具纏で防ぐこともできるが、その事象は防ぐのにどれだけ魔力を使うことやら……ではこれで──“流水円避リュウスイエンヒ”」

 棍のように棒を振るうと、ソウは回転しながら飛んでくる斧をそのまま受け流す。
 それはかつて、自身の一撃を躱すために使われた武技。

 そうした武技などもまた、ソウは時間をかけて習得していた。

「うーん、即死は駄目か?」

「主様、先ほど魅せる試合をと語り合ったではないか」

「……それもそっか。なら、別の方法でやってみようか」

 再び礼装に手を当て、メルスは呟いた。

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