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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と四回戦最終試合 その02
しおりを挟む「魔導解放──“果てなき虚構の無幻郷”」
始まった途端に発動したメルスの魔導。
準決勝で使われていた仮想空間の強化版が展開され、白い空間の至る所に建造物や自然が生みだされる。
「いきなりの魔導とは……主様も本気か」
「そしてもう一つ……魔導解放──“満天広がる眸子の夜空”」
上空に光球が輝き、眩い光を放つ。
その一つが魔眼や神眼で構成されており、何もない世界に星々が生まれた。
「主様、あれは消せるかのう?」
「やり方はいくつでもあるぞ」
同時に、黄金の聖剣を握って走るメルス。
小手調べなど必要がないため、魔力強化を用いて全速力でソウの元へ向かう。
ソウは鱗を棒へ変換し、その剣撃をあっさりと受け止める。
──魔力強化は、まだしていない。
「“光り輝け”」
「おおっ、なんとも眩しいのう」
剣身と同じ輝きが、閃光を奔らせた一撃となってソウへ向かう。
感心するように呟くソウだが、まったく驚いていない。
「ほいっと、こんな感じかのう?」
棒に籠められた銀色の龍気が溢れだし、その奔流が黄金の軌跡とぶつかる。
並の聖剣の硬度であればあっさりと超える鱗の硬さ、そして魔力伝導率によって黄金の聖剣の一撃を相殺した。
「エクスカリバーも形無しだな。どうしてここまで厄介な龍なんだか」
「……おおうっ、ゾクッときたぞ」
「……“舞い踊れ”、“神剣刃舞”」
二振り目の聖剣の力が解放され、数十枚の刃が宙を舞う。
同時に発動した神気を混ぜた魔法により、神の力を帯びた刃もまた空を舞っていく。
「主様、自分の力を使わずに儂を倒せると思わぬことだな」
「いやいや、もちろん思っていない。このままじゃ、前と同じだろ? あくまでこれは、段階を踏むための下準備だ」
かつて最強を殺した力は、圧倒的な孤独が齎した個の力。
しかし同じ手を使わずに、メルスはソウへ勝つことを選んだ。
自身の礼装に手を当て、何かに意識をするように目を閉じて詠唱を始める。
「紅蓮の炎をその身に宿し、死と再生を司りし不死鳥よ。汝の唄を甘く奏で、我が死の運命を覆せ──“不死鳥魂魄”」
燃え盛る業火が服を纏う。
複雑な術式が服を包み込むと、真紅の輝きが秘めた力を解放される。
「フェニの力じゃな。ただ借り受けるだけのあのときと異なり、明確にその力の気配を感じられる。……分け御霊か」
「正解だ。というか、お前も俺に分けてくれただろ」
メルスと眷属たちは、[眷軍強化]というスキルによって魂魄同士を接続している。
だがそれとは別に、ある儀式を行って一部の魂魄に細工を施していた。
その力によって、礼装は力を発揮する。
「……あのときの儀式か。主様はまさか、この試合で儂の力も使うのかのう?」
「…………ぷっ」
「ぬ、主様! 儂の力に価値はないとでも言うのか!」
今回使われたのは、フェニの能力。
火属性と再生能力を高める、フェニックスの力をメルスに直接齎している。
それと同じく、ソウの魂魄もまたメルスに宿っていた。
自分の力を使わない、そう言われているようで……少し背筋が震えたソウである。
「いやいや、そうじゃなくてな。対戦者の能力を使うなんてフェアじゃ…………ぷぷっ」
「~~~~ッ!」
再度含み笑いをされたソウは、顔を赤くして全身を震わせた。
しかしそれでも、天を踊るすべての武器を捌いているのだから救いようがない。
「“紅焔閃光”」
フェニックスの属性適性を得た今、火属性の威力は通常時を超える。
そこに膨大な魔力量が注ぎ込まれ、閃光は龍の息吹をはるかに凌駕する一撃となった。
「ふむ、よい火力じゃ。並のドラゴンであれば、消し炭となろう」
勢いよく息を吸うと、魔力と共にそれを吹きだす──そして、閃光を呑み込む。
紅蓮の奔流を消し去った息吹は、そのままメルスを襲う。
「“心身燃焦”」
体を包むように、劫火がメルス自身を糧として燃え盛る。
フェニ以上の燃料が内に秘められているため、爆発的な火力が閃光の影響で弱体化した息吹を撥ね退けた。
「“紅蓮炎翼”」
「翼まで生やして空の逢瀬かのう?」
「まあ、それもいいか。見せるのはフェニの力だけじゃなく、できるだけ多い方が楽しめるだろう。遊ぼうぜ、ソウ。命を懸けた死闘なんかより、もっとイイことをしよう」
そして再び、詠唱を始める。
「其は龍にして辰を冠せし劉の帝王なり。覇者の理を覆し、英なる霊と化そうと変わらぬその気高き想い。我が願いに応え、その力を知らしめせ──“覇劉魂魄”」
黒き劉気が膨れ上がるように礼装から溢れだし、真紅の衣を書き換えていく。
背中に生えた翼にも影響が及び、炎は鮮やかな漆黒の劉翼に変化する。
「続きはこの状態でやろうか。できなかった対戦カードだろ? 最強の龍と劉の帝王の一勝負を始めよう」
「くくくっ、さすが主様じゃのう。シュリュとの闘いであればいつでもできるのじゃが、その力を使う主様であれば貴重じゃ。ぜひとも、観衆に魅せようではないか」
彼らを包むように剣と刃が踊りまわる。
メルスとソウはその中で、目まぐるしい勢いで戦闘を始めていった。
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