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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と四回戦第一試合 その01
しおりを挟む最後の試合、そのチケットを得た者たちは全員が席に着いていた。
これまで行われたイベントの集大成、行われるのは真の最強を決める闘い。
≪これまで三日間にかけて行われた武闘会個人の部も、これが最後の試合となりました。眼を閉じれば思い返せるでしょう。猛者たちが武器を交え、勝利を求めて激しく闘志を燃やした死闘を≫
すると舞台の上にスクリーンが現れ、これまでの闘いの映像が投影される。
この場で観た者もそうでない者も、つい視線が吸い込まれてしまう抜群のアングルでの映像だった。
……目を閉じていては思い返せないが、そこに関しては誰もツッコまない。
≪そして今、ついに最強が決まります≫
映像の画面が二つに分かれ、赤と青の二色が画面を覆い尽くす。
その中には二つのシルエットが描かれており、これから闘う二人の選手を示している。
≪──青コーナー。世界最強のドラゴンにして、『白銀夜龍』の名を冠する者。これまでの闘いをいっさいの魔法を用いず、己の力だけで勝ち得てきた戦人……いえ、戦龍。最強の名を一度は捨てた彼女は今、挑戦者となってその名に挑む──ソウ選手です!≫
青い煙が舞台をモクモクと包み、同じく青い光がゲートから舞台の上までを繋ぐ。
そこから現れる一人の女性。
煙で姿は分からないものの、膨れ上がる闘気が会場中に伝わってくる。
≪決勝戦では、意気込みを予めお聞きしております──『全力を以って倒す』とお言葉を頂きました≫
やがて煙が消えていき、その女性の姿が露わとなった。
光に映える白銀の髪を伸ばし、悠然と立つ姿はさながら王者にも見える。
武闘会では初の装備として、髪と同じ色の軽鎧を身に纏い……戦準備は万全だ。
≪──対する赤コーナー。そんな世界最強のソウ選手を降し、神々の思惑を超えて帰ってきた我らが王。たとえその身に呪いを受けようとも、彼はその運命すらも捻じ伏せる。喝采の万雷と共に迎えよう、その偉大なる王の名は……≫
≪ちょ、ちょっと止めて! 何、その変なアナウンス! 頼んでないよ、これ、これが本当のカンペでしょうが!≫
≪め、メルス様! 出場者はちゃんとゲートの前に待機していてくださりませんと!≫
何やら男女が揉めるような声が、実況席から聞こえる。
ああ、やっぱりあの人だな、と笑いながらそのやり取りを観客たちは聴いて楽しむ。
≪分かりました、分かりましたから! ──お願いします≫
≪えっ、ちょ、おい待てって。そ、そんなところ触らなくても分かったから! や、止めて、お願……あーっ!≫
……本当に何があったのか、少しばかり気になる観客たち。
しかしそのタイミングで、再び舞台に立ち込める煙。
先ほどとは異なり真っ赤な煙が晴れると、そこにはもう一人の人物が──倒れていた。
≪さあ、その名を聞け! 彼の者の名はメルス! この世界に住まう我らが神にして、救い主! 誰も知らない理を携え、ついにこの場に降臨なさった!!≫
「ぬ、主様……大丈夫かのう?」
「あ、アイツらめ……覚えてろよ。この試合がどういう結果であれ、エキシビションマッチでも開いて復讐してやるからな」
ボロボロな布の服に身を窶した、白と黒の髪を混じらせた平凡な容姿の少年。
服に付いた汚れを叩いて払いながら、ゆっくりと起き上がる。
「ついに、ここまで来たか。ソウ、俺は再びお前を倒すぞ」
「ふっ、儂も二の舞は演じぬ。何やら企んでいる顔じゃが、人の術を学んだ儂をどうこうできるのかのう?」
「……棒術を教えたの、不味かったか? お前のデータも入れてはいるが、武術は奥が深いからな」
眷属の経験すべてが、メルスの糧となる。
だが経験以上の性質や才能までは、コピーすることができない。
ソウがメルスから学んだ棒術を派生させて修めた力も、{夢現武具術}に入ってはいる。
しかし、それを本人以上に使いこなせるかと訊かれれば──答えは否だ。
「なあ、ソウ。今回の闘いで俺は自分の可能性じゃなくて、みんなの可能性を信じてみたくなった……その意味が分かるか?」
「前回のような闘い方はせぬ、それだけはよく分かるぞ」
「なーに、簡単な話だ」
指を鳴らした途端、メルスの纏う装備に大きな変化が起きる。
煌びやかな礼装や金の刺繍が施されたマント、虹色の糸で編まれた手袋などがいつの間にか身を纏う。
指や腕、首には価値を付けることのできないような貴重な装飾品、顔には目の部分にのみ穴を開けられた仮面が嵌められていた。
「──全力を以って、勝負を挑もう。あのときは借りるだけだった力を、今回は協力して使おう。後ろに立たせるだけでなく、共に闘うことの強さ……分かってるよな?」
「……此度の主様は、前回以上に厄介になりそうじゃのう」
「そりゃもちろん、俺が俺であるために」
ティルとの闘いで見せたように、体の至る所に武具を取り付けるメルス。
その一つが聖武具や魔武具、神器などの凄まじいエネルギーを秘めている代物たちだ。
「ソウ、お前も全力でやれ。俺はナックルみたいに一撃でパンッは無い。あの映像以上の光景を、観客に魅せてやろうぜ」
「うむ。主様であれば、今の儂の全力でも受け止めてくれるであろう。これまでに溜めた魔力の分も、ぶつけてみせよう」
「……そ、それは勘弁してほしいな」
そして、闘いの幕が開く。
最終曲は偽善者と白夜の銀龍が奏でよう。
──神を殺す力を持つ二人による、もっとも熱き武闘曲を。
≪それでは運命の決勝戦……特殊ルールはエネルギー回復量増大──始めてください!≫
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