885 / 2,519
偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と三回戦第二試合 その05
しおりを挟む≪フェニックスが雪って、全然似合わねぇよな。見ろよ、フェニの周りだけすぐに雪が融けてんじゃねぇか≫
≪燃え盛る炎と荒れ狂う吹雪……なんだかメルスさんの混沌魔剣のようですね≫
実況席に居るコアは、特設空間の環境を見てそう呟いた。
三つの焔と三つの冬が存在する分、ある意味ではこの環境の方が優っているのだが。
≪マスター、ラグナロクについて少し知りたいのですが……『チュウニ病』とやらだったマスターであればご存知ですよね?≫
≪ちゅ、厨二病じゃねぇし! 少し神話の勉強がしたかっただけだからな! ラグナロクは、ある地域で伝えられた神話で語られた世界の終わりなんだよ≫
カナタはラグナロクについて語りだす。
メルスとは異なる地球から転移したカナタではあるが、すでにそういった情報に関しては摺り合わせを済ませてあった。
≪あの雪はその最初、ラグナロクが始まる前に吹くヤツだ。風の冬、剣の冬、狼の冬と呼ばれている──別名は『大いなる冬』だ。あれが三年間ぐらいずっと続いて、生物は全部死ぬ≫
≪きゅ、急に絶滅するんですね。メルス様の世界は厳しそうです≫
≪あくまで神話は架空の話、今を生きる俺たちには本当にあったかどうかは分かんねぇんだよ。こっちの世界は神様が加護をくれるから居るって分かるけど、目に見える形で俺たちの世界の神様はなんにもしてくれねぇ≫
吐き捨てるように、カナタはそう語る。
少しだけ暗くなった雰囲気を感じ、すぐさま笑顔で説明を再開した。
≪まっ、まあ続きを言うぞ! そのあと太陽と月が二匹の神狼の子供たちに喰われて、天変地異が起きる。そのあと、あらゆる封印が融けて化け物たちが騒ぎ出す……このときの一つがあの炎だ。スルトって巨人の炎なんだが、世界を焼き尽くすって定められてるぞ≫
九つの世界を海中に沈めた終焉の炎。
それはラグナロクにおいて、崩壊現象の一つでしかない。
≪他にもいろいろとあるんだが、あくまであのレーヴァティンに関する情報だけに絞ればいいよな? フレイっていう神様の剣だったり、さっき言ったスルトって巨人の持つ剣にされてたりとレーヴァティンも諸説が多いんだが……『破滅の杖』だって捉え方が、特に多かった気がするな≫
≪杖、ですか……フェニ選手が一度だけ、杖に形を変えていましたね≫
≪そこはメルスも形を変えるってことで誤魔化したんだろうな。剣がポピュラーな形で知られてるけど、実際はどうなんだかまったく分かってないぞ。訳は杖なんだけどな≫
剣というのは比喩でしかない、という考え方をする者もいた。
それでも地球における剣の有名度が事実を塗り替え、現代においてレーヴァティンが剣であるという情報を根強く残している。
≪マスター、だいぶ逸れています。結論だけ言ってください≫
≪……いいけどよぉ。ラグナロクを引き起こすのがあの武器だって言うなら、その幅は半端なく広い。しかもその一つ一つが、世界の終わりに関するものだ。それなりの条件があると思うぞ≫
「お主のそれ、いったいどれだけの対価を支払っているのかのう?」
「特に、何も」
「…………?」
カナタの話を聞いていたかのように、二人はレーヴァティンが引き起こす事象について話し合っていた。
剣の冬と呼ばれる現象が、ソウに向けて至る所から剣を飛ばすが気にもしない。
そのすべてを威圧だけで捻じ伏せているソウは、フェニの返答に頭を悩ました。
「先ほども言ったが、これの製作者はあのご主人だ。眷属がひどく苦しむ対価など用意しないし、あったとしても自分で肩代わりするような仕組みを整えているだろう」
「それはそれで、主様が何をしたかが気になるのう」
「素材を良いものにした、としか教えてもらえなかった。我もそれ以上のことは知らないのだ。だが、そうして改造を施された後は、魔力の通りも良いし威力も上がった。こんなこともできる」
フェニがステッキのように槍を振るうと、雪が狼を象って牙を剥く。
剣と違い、意思を持っているかのように威圧に耐えてソウの元へ向かう。
その姿にふむ、と呟いたソウは──棒を振るって狼を破壊していく。
「あまり強くはないようじゃ。やはりお主に雪は似合わぬ。乱れて暴れる炎を落ち着かせるのも、そろそろよいのでは?」
「…………」
「沈黙は何よりも事実を物語る。儂を超えようとするのは構わないが、あまり無茶はしない方がよいぞ。身の丈に合わぬ力は、自壊を引き起こす。主様がどれだけ、儂らに挑むために身を滅ぼしたか……終焉の島に居た儂らよりも、お主の方が知っているであろう」
ついでとばかりに、翼を一度だけ強くはためかせるソウ。
風の冬と呼ばれる吹雪以上の風が吹き荒れると、剣や狼を吹き飛ばす。
「じゃが、こうして説得しても誰一人として諦めないのが主様の眷属じゃ。儂自ら引導を渡し、楽にしてやろう」
「…………“天体墜落”」
「まだあるのか……主様、世界でも滅ぼす気なのかのう?」
槍が突いた場所に、空間の亀裂が奔る。
そこからナニカが現れる──
「“海蛇水進”、“死爪巨舟”、“炎魔灰燼”、“神巨戦没”、“旧世崩海”……」
「厄介な。防御をすり抜ける今は、どうにかせねば不味いのう」
次々と生まれる空間の歪み。
そこから現れるのは世界を終わりに導く、崩壊現象の数々。
だがソウに、緊張した様子はない。
棒を構え、歪みに向け──再び龍迅砲を解き放つ。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる