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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と三回戦第二試合 その04

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 終わりの炎、禁忌の炎、そして不死鳥が持つ紅の炎が一つとなった。
 共鳴し合い、数倍にも火力を高めることでそれぞれの炎は凄まじい力を放つ。

「まだ、残っておったのか」

「同化でなく吸収だった、それだけだ。少々無理はあったが、ソウが相手であれば無茶をしなければ勝てないのでな」

 いくら炎の申し子とも呼べるフェニックスであろうと、無条件に制御ができているわけではない。
 いくらかの代償として、今も苦痛を感じながら戦闘行為を継続している。
 馴染まぬ炎を受け入れた対価であった。

「鱗が熔けてしもうた……なるほどのう、一筋縄ではいかぬというのも一興か」

「ならばそこに、敗北の経験も追加でくれてやろう」

「それは主様だけの特権じゃ。他の者から寄越されても断っておる」

 ほんの少し、剣の先の辺りが融解した程度の影響しか及ぼせていない。
 しかしソウにとって、少しでも可能性を持たせた時点でそれは失敗に値する行為だと考えられた。

「もう少し、使用に耐えうる一品を使っておこうか……うむ、こんな感じじゃ」

 一本の棒が、ソウの手の中で輝く。
 太くも細くも、長くも短くもない。
 ソウの身にジャストフィットした、まさにソウのために造られたと言える長さの棒だ。

「主様曰く、一振りの棒で異世界人は他の武器の動きを再現できる。ギーを創り上げ、すべての武器でそれができる主様の言葉とは思えぬが……事実そうであった」

 突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀、杖はかくにも、外れざりけり──これは棒ではなく杖に当て嵌まる話だが、要するに千変万化の攻撃が可能だという意味だ。

 メルスはその考えを昇華させ、ありとあらゆる武術の動きを棒一本で再現できるようにしていた……暇潰しで。

「主様が棒を使っている時に尋ねてみたが、習得するまでにかなりの時間を要した。その分の成果を、今見せようではないか」

「ご主人め、余計なことを」

 そう言いつつ、剣の形を歪めて形状を槍に変化させるフェニ。
 そこに炎を纏わせ、強化を行う。

「ほう、槍を選ぶか。槍には隙が少ない。ただ棒を振るうのであれば、儂も危ういかもしれないのう」

 ソウは構えをただ握る形から切り替える。
 両手で突きだすように腰の辺りで構え、自身の中で渦巻く力を繊細に操作し、棒の先へ集中させていく。

「そうはさせるか!」

 何を企んでいるのか察したフェニは、槍を投げつけて攻撃を中断させようとする。
 だがソウは、純粋な魔力の塊を盾代わりにしてそれを防ぐと、溜め込んだエネルギーをフェニに向けて──

「龍迅砲、じゃったか?」

 解き放った。 
 先ほど放たれた“紅焔閃光”など比でも無い、まさに万物を貫く天御柱アマノミハシラ
 棒の太さを無視した極太レーザーは、フェニの周辺ごと彼女を呑み込もうとする。

「くっ、まだだ!」

 だが、フェニは諦めない。
 プレイヤーであれば諦めてであろうこの状況に、自身の主を照らし合わせ再度粘る。

 そして考えた一手は──光の柱に向けて一突き入れることだった。

「“惨冬凌緒ラグナロク”!」

「先の炎を使っても無駄じゃ……っ!」

「なら、別のモノを使うだけだ」

 槍が穿った空間から、罅が発生する。
 これまでの経験から、そこからは炎が噴きだす……誰もがそう思っていた。

「大いなる冬よ、すべてを終わらせろ」

 暴風が吹き荒れ、どこからか狼の遠吠えが聞こえ、舞台の至る所から剣が生えだす。
 ラグナロクの前兆として、フィンブルヴェトと呼ばれる雪が吹きつける。

 フェニの持つ『聖魔剣レーヴァティン』には、炎の力だけでなく、相反する氷の力を操る力も籠められていたのだ。

「ハッ!」

 フェニの掛け声と共に、その吹雪は苛烈なものへなっていく。
 亜光速の域に達していたレーザーも、魔力が籠められた雪によってゆっくりと威力と速度が落ちていった。

「お主……フェニックスじゃったよな?」

「ああ、フェニックスさ。ただ、少しばかり水と氷に関心を抱いたな!」

 フェニの薬指で水色の宝珠が冷たく輝く。
 氷があるのに平然としていられるのも、その大半が指輪のお蔭であった。

「……分かっておれば、対策などどのようにでもなるわい。それ、龍迅砲」

 再度放たれたレーザーによる遠距離攻撃。
 しかし雪がそれを阻み、無効化していく。

「ご主人が与えた武器が、本当に常識に従っていると?」

「……そうじゃった、それを求めた儂の方が愚かであったか」

 全眷属共有の知識──メルスに常識を求めるな、である。
 少なくとも生みだされたアイテムに関しては、間違いなくそれが当て嵌まるとされているのだから、少しは泣いていいと思う。

「この雪は三つの現象を、いくつかの条件を達成することで自在に操れる。我の水と氷への適性もそれに含めていたところが、ご主人の少し嫌らしい部分だな」

「儂ら眷属は、こうして闘う度に何かしら伏せた札を開いておるのう。主様が主だからこそ、眷属である儂らもそうなのかのう?」

「どちらにせよ、ご主人に追いつくためにはどれだけ力があっても足りない……試させてもらうぞ」

 槍を構え、地を蹴りだし──フェニはソウへ向かっていった。

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