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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と三回戦第二試合 その01

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≪さぁ、特設空間にお二人が待機しているようです。間もなく第二試合が始まります!≫

 月の虚像も太陽も、つい先ほどまであったものはすべて無くなっている。
 変遷されたステージは、ただただ真っ白な世界を生みだす。

 そこに立つ二人の女性。
 炎のような赤い髪をした女性と、光を反射する美しい銀色の髪を持つ女性。
 彼女たちは互いに、向き合うように立っていた。

「我らの内どちらかが、本気のご主人と闘うことになる」

「そうじゃのう」

「会場の者たちは、ソウが次に進むと思っているようだが……負けるわけにはいかない」

 闘志が燃え滾り、紅蓮の炎が背後で揺れ動くフェニ。
 腰には聖魔の武具を携え、戦闘準備は万全であった。

「だがフェニよ、分かっているのだろう? 儂が待たずして攻めれば、お主は抗う間もなく果てることを」

「…………」

「これまでの者たちは、そうしてお主が強くなる過程を待ったが故に敗北した。ならばそうせず、すぐに挑めば儂の勝ちは確定じゃ」

 フェニは死と再生を繰り返すことにより、自身の力を高めている。

 だが武闘会のルールの中では、その高めた力を一時的に無効化されていた。
 そのため試合中にそれを行い、相手を超えるための強化を図っている。

 自身の肉体を燃やし尽くし、自害することで発動する強化スキル(再生の焔)。
 自身の肉体を燃やし尽くし、その対価に一時の超強化を与える禁忌魔法“心身燃焦オーバードライブ”。

 死の淵から蘇るフェニックスであるからこそできる、文字通り身を削った強化方法だ。
 しかしそれもまた、単純に時間が足りなければ相手を超えることはできない。
 今回の対戦者となるソウであれば……とても膨大な時間が必要となる。

「シガンとやらと闘ったとき、待ってやっていたであろう。その選択を取ったソウであれば、我に対する選択も一つだ」

 つい先日ソウと闘った祈念者──シガンもまた、そうして時間を溜めることで攻撃の威力を向上させる能力の保持者だ。
 しかしそれを知っていながら、ソウは彼女に自身を倒すだけの力が溜め込まれる時間を与えた。

「うむ、その通りじゃ。先の試合でも、メルスはフィレルの全力を打ち砕いた。なれば儂もまた、主様のようにお主の全力を受け止めた上で粉砕するべきであろう」

 それは、圧倒的な力を有するが故の傲慢でもあった。
 あらゆる存在が挑み、敗れた世界最強。
 積み重ねてきた戦歴が、その言葉にいっさいの驕りがないことを証明する。

 そして、その世界最強を破った男が相手の全力を引きだした上で勝ったのだ。
 同じ条件で勝とうと思うことに、いったいどう別の理由を重ねるというのだろうか。

「主様よ! フェニの強化を万全な状態にしてやってほしい!」

≪──本気か?≫

 なんとなくそうなるだろうと感じていたメルスは、アナウンス席でソウに尋ねる。
 能力の制限はメルスが管理しており、両者の承諾があれば解除するとも予め眷属たちに伝えていた。

≪フェニもだ。どうせそこのドMは止まらないし、フェニがやりたいと言うならすぐに解除しよう。やるか?≫

「頼む」

 アナウンス席に、真っ直ぐな視線を向けるフェニ。
 メルスはあいよ、と気楽に答えて結界の設定を変更していく。

 フェニの体に変化はすぐに訪れた。
 満ち足りる感覚が全身を包み、欠けていたナニカが埋められていく。

 死に死を重ねて強くなった、遠くで戦う主のために身を削り。
 決して折れることは無かった、決して諦めることは無かった。
 強くなれば、愛すべき者の隣に居られると信じていたから。

「お主は、いったいどれだけ死んだ。死んでも蘇れるということと、死に続けるということには大きな差があるはずじゃが」

「ご主人がすべてを擲って我らのために動く姿を見て、周りの者たちが何もしないと思うか? 我もまた、その一人なだけだ」

「なるほど、それならば理解も早い」

 初めての敗北が大きく自身の生を塗り替えた事実は、つい最近のように思いだせる。
 これまでどんな相手であれ、本気を出すまでもなく勝利を得てきていた。

 やがてすべてに興味を失い、誰もいない場所を求めて終焉の地に向かう。
 そんな場所に現れた凡庸な少年が、まさか自身の心臓に槍を突き刺すとは思いもよらなかった。

 ──世界最強チャンピオンはそのときから、挑戦者チャレンジャーに生まれ変わった。

「我は全力を以ってソウを倒そう」

「ふむ。儂の全力はアレじゃしな、お主を倒すとだけ誓っておこう」

 フェニは腰に提げた武器を引き抜く。
 大剣の形をした、聖と邪の力を帯びた強力な聖魔の武具。

 ソウは自身の鱗を一枚剥がす。
 魔力を籠められ形を変えたそれは、右手を包む籠手のような物と化した。

「そして、こうであったか」

 ソウが何かを念じると、シャキンという音と共にリストブレードのような物が何本も飛びだす。
 ソウが武器を扱うようになったのはメルスとの邂逅以降なため、武器に関する考え方も少し似ていた。

「では始めるぞ、フェニよ」

「勝ってみせよう、ソウよ」


≪それでは準決勝第二試合……特殊ルールは防御力無視──開始です!≫

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