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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と三回戦第一試合 その07

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 見えないナニカを振るうメルス。
 雷雨を、豪雨を、豪炎を生みだし、あらゆる事象を以ってフィレルを襲う。

 だがその表情はこれまでとは異なり、とても淡々とした機械染みたもの。
 無機質な瞳で攻撃を行う。

≪おっ、アイツ入ったな・・・・

≪入った? マスター、例のアレによる現象ですか?≫

≪ちょっと違うな……アイツが言ってた、可能性の一つ。暴走とは違う、ある程度制御ができた状態……まあ、そ、その……あ、アレがトリガーだったんだろうな!≫

 最後の辺りは顔を真っ赤にして、早口で説明するカナタ。
 その様子にほんわかとするコアとは別に、ホウライはしっかりと訊くべきことを確認しておく。

≪トリガーですか……≫

≪こ、細かいことは気にすんな! とにかくだ! ……そうだな、意思だけが暴れ回っていたのが侵蝕。アイツはそれに慣れて、ある程度意志を通せるようになった。まあ、そんな感じだろ≫

≪えっと……顔が死んでますけど≫

 意志を通せている、とは思えなかった。
 フィレルがどのようなアクションを取ろうと、顔をいっさい変化させずナニカを動かすことで攻撃を捌く。

 これまでのメルスが見せた、表情は存在していない。
 抵抗をするような兆候もなく、ホウライは少し疑念を抱いていた。

 カナタはそれを見て、少しだけ表情を変える……何かを懐かしむように。

≪コントロールをミスってるんだろ。一度だけ、話したんだ。ラノベ……ああ、物語の主人公みたいな能力を再現するにはどうすればいいかってさ≫

≪まるで男同士の……あっ、そういえばそうでしたね≫

 コアの言葉にツッコミを入れたかったが、下手な発言は少しだけ混ざっている観客たちに訊かれてしまうため、必死に堪える。

≪…………ある主人公はさ、特殊な条件で強くなるってタイプだったんだ。まあ、物語らしく英雄色を好むってヤツで、発動条件もお察しだがな≫

≪ありそうな設定ですね。それで、マスターとメルスさんはどのような方法でそれを再現するおつもりだったので?≫

≪強くなるって言っても……魔法や異能力があるわけじゃなくて、脳の活動を活発にするわけだがな。メルスは固定された思考と判断能力を、ソイツみたいな状態だと定義して切り替えられるようにしている……んだったと思うんだが≫

 肉体がその変化を、少しずつ<澄心体認>を使うことで学習する。
 {感情}は、夢幻を冠する階級に位置するスキル……その全貌は未だに明らかにはされておらず、今の状態に至るまでに膨大な経験と時間が必要となった。

≪まっ、要するにメルスは……もう少し、強くなろうとしてるんだよ≫



 フィレルは余裕を失っていた。
 初めの内は、まだ戦闘を楽しめていた。
 だが少しずつ、武器を重ねるたびにその実感が薄れていく。

「…………」

 物言わぬ戦闘人形となったメルスが、突きだすような構えを取る。
 反射神経だけでそれを察知し、ナニカを握るような形をしたメルスの手が作った穴の角度から攻撃を予測──そして回避を行う。

 そして放たれたナニカ。
 自身のすぐ隣を通る風が、見えずともナニカの存在を教えてくれる。

「まだ、ですか……“破邪光輪《パージオレオール》”!」

 背後に光の輪を生みだすと、フィレルは凄まじい速度でメルスの元へ向かう。
 光自体がメルスに効果を及ぼすことなど、期待していない……その副次結果、光による影の発生を狙っていた。

「“影移動”」

 魔法ではなく、吸血鬼の種族スキル。
 一瞬で影の世界に潜りこむと、メルスの死角から飛びだし剣を振るう。

「っ……!」

 驚いた表情を浮かべる──フィレル。
 メルスは影に潜られたその隙に、閃光を発動していた。

 眩い輝きが舞台を包み込むと、世界から一瞬だけ影が消滅する。
 フィレルは失われた世界より強制的に排出され、無防備な状態でメルスの前に立たせることに……。

「“血拘束ブラッドバインド”!」

 深紅の触手が蠢き、メルスを襲う。
 すぐに振り払おうとする……が、とてつもない硬度を誇るのか、ナニカは触手を一つとして振り払えていない。

「……せっかくのコレクションが。あとで旦那様に請求しましょう」

 フィレルのストックしていた秘蔵の血液を触媒にすることで、神代魔法にも負けず劣らずの異常な性能を発揮した。

「…………」

 だが、メルスが槍に魔力を籠めると、エネルギーの量がさらに高まり触手を破壊できるようになる。
 一本、また一本と千切れていく……その様子を見たフィレルは、再度触媒を使い魔法を発動する。

「──“血写人形ブラッドドール”!」

 触媒とした血の持ち主を、一時的に場に生みだして使役する魔法。
 正常に発動したことにより、触媒とした血が膨れ上がるようにして、血の源であった存在を模っていく。

「旦那様が起こした問題です。旦那様自身で解決してください」

『…………』

 そこに立ったのは、真っ赤なメルス。
 皮膚も髪も装備も……すべてが紅に染まったメルスが現れた。

「…………」

 本物のメルスは偽物を見て、先ほどと同じ突き出しの構えを取る。
 だがそれは、腰に携えていた剣を象った血によって防がれた。

 ──奇しくも、メルス対メルスの試合がここに始まる。

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