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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と三回戦第一試合 その02

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 準決勝からの試合は、真っ白な空間で行われている。
 あらゆる事象が外界に影響を及ばさないよう、舞台ごと転移され──彼らが生みだした二つの星もまた、何もない場所へ送られた。

「舞い踊れ──“聖刃舞闘ホーリーブレードダンス”」

 六枚の刃が宙を舞う。
 そのすべてに聖なる輝きが宿っており、それぞれが別々の性能を発揮している。

「龍の鱗も傷つけられる一品だ! さぁ、どうやって対処する?」

「──“龍鱗剣ブレード・オブ・ドラゴンスケイル”!」

 鱗を傷つける……それは、破壊できることと同意ではない。
 フィレルは唱えた魔法によって、身を纏う鱗が剣と化して舞い上がっていく。

 その数は六、聖刃と同じ枚数の鱗が空を自在に飛び交い衝突を繰り返す。
 そして──ごくごく自然に会話を行う。

「なあ、フィレル。飛行ペナルティってぶっちゃけどんなものだと思う?」

「どうなんでしょう? 少なくとも龍化した状態で舞えば、間違いなく影響を受けると思いますが……」

「──ちょっと飛んでくる、少しだけ休戦しといてくれ」

「はい、旦那様」

 メルスはフィレルに了承を得ると、あえてその背に翼を広げて飛び立つ。
 白と黒の──天魔の翼は力強く空気を叩きつけ、広大な空間を舞う。

 ある一定の高度を超えた時──それは突然起きた。

「旦那様っ!」

 突然ガクリと不自然な動きを見せると、何もない空に稲光がメルスの元へ降り注ぐ。
 空を裂く勢いで何度も何度も、領域を犯した愚か者を地に落とすように。

「重力と雷の二重コンボか……フィレル、大型で飛ぶのは無しだ! たぶん、ソウぐらい理不尽じゃないと落とされる!」

「……ずいぶんと、避けられていますが」

 落ちる稲妻をすべて、メルスは繊細な飛行で躱していた。
 転移などは使用せず、羽ばたきの強さを左右別々にしたりと……多種多様な方法で雷を回避できている。

「まあ、見切ればどうにかなるし……あと、これは飛行ペナルティだ」

 そう言うと、メルスは翼を解除し……転移眼を用いて再度空へ向かう。

「──ああ、やっぱり落ちるだけなら何も起きないな。なら、ついでにこれも……」

 空間を固め、足場を整える。
 トントンと軽快な音を立てて歩いてみたものの、先ほどのような変化は起きない。

「重力だけか……上に居ると重みが増して、横に動くと稲妻が落ちるみたいだぞ!」

「なるほど……ありがとうございます!」

「って、これ以上居る必要はないか」

 空間を超えて地上へ転移する。
 雷によるダメージは存在せず、ペナルティの影響を受けることなく空から舞い戻った。

 未だに舞台では聖刃と龍鱗剣がぶつかり合い、その身を削っている。
 互いに残っているモノは一つずつ、その様子を眺めながら二人は話し合う。

「フィレル、空間魔法は?」

「…………」

「仕舞うなら血魔法でできるし、ドラゴンは移動速度が半端ないからなー。仕方ないか」

 ドラゴンは竜属性系統の魔法以外の習得・成長速度が極端に遅い。
 己の竜気と馴染む竜属性の魔法以外は、体に馴染まないからだ。

 そうでなくとも、肉体だけで破壊の事象であればほぼ自在に振るえる存在であるため、魔法を必要としない。
 爪を振るえば大気が振るえ、翼を振るえば嵐を生みだす力を有しているが故に。

「まあ、今度頑張って習得してくれ。転移が使えるようになるまで、そうとう時間はかかるだろうけどな」

「ううっ、旦那様がイジメてきます」

「……おっと、ついに終わったぞ」

 目を逸らすように遠隔武器同士の戦いを見てみると、まさに決着がつくところだった。

 距離を取り、自身の中に宿る魔力をすべてその一撃に賭ける。
 高速で互いを求めて進む姿は、両極の磁石がくっつき合うようにも見えた。

 そして衝突し、エネルギーが飛び散る。
 ……そして、耐久度が尽きたのか双方がボロボロと崩れていく。

「相打ち、みたいだな」

「わたしの鱗も無限ではないのですが……」

「そりゃそうだ──“魔刃舞闘マジックブレードダンス”」

 黒や赤に近い光を纏った六枚の刃。
 今度は魔剣を模した刃たちが宙を舞う。

「“血刃乱舞ブラッドダンス”!」

 手首に噛みつき、そこから血飛沫を上げるフィレル。
 飛び散った血液は刃の形を成して、再びメルスの生みだした刃と衝突していく。

「旦那様、同じことを繰り返すのは……少しどうかと思いますが」

「少しの時間稼ぎだよ。ただ黙って俺たちが会話しているのを見させられるより、こうして闘っている映像の方が面白いだろう」

「それも、そうですが……」

「陽光の方を訊いておきたかったんだ。……何か体に特別な変化は?」

 魔導で生みだした太陽が、フィレルにどのような変化を及ぼすか……それがまだ確認できていなかったメルスは、本格的に光を取り込もうと考える前にこれを尋ねた。

「いつもより近い分、力が漲ります。これはお母様も言っていました、陽光龍は太陽と共にあればあるほど強くなると」

「なるほど……参考になった。害があるわけじゃないんだな」

「はい。問題ありません」

 その言葉に嘘偽りが無いことを知り、ようやくホッと息を吐くメルス。

「なら、そろそろ始めるか」

「はい、そうしましょう」

 メルスは異空間より、フィレルは鱗を変化させて武器を用意し──地面を強く蹴りだして互いの元へ向かった。

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