869 / 2,518
偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と三回戦新ルール
しおりを挟む祝砲に加えて、三回戦からは花火を打ち上げられていた。
色鮮やかな火花が飛び散り、会場からは感嘆の声が上がっていく。
≪美しいハナビのセレモニーから始まった第三回戦──準決勝のお時間です! 実況はやはり変わらず私、『ホウライ』! というより、武闘会は私が勝ち取りましたから!≫
……メルスが関わったイベントで司会や実況を行う役はとても人気で、裏で激しい争いが行われていることを主催者は知らない。
そんな中、今回も役を手に入れたホウライは強くマイクを握って実況を行う。
≪一、二回戦同様に解説役のお方がサポートについてくれます。お願いします!≫
≪えっ、あー、どうもカナタです。特に解説なんてできねぇけど、付き添いで来ました≫
≪そんな頼りないマスターを支え、解説を行う従順な僕──コアと申します≫
今回もまた、二人が解説役に就いていた。
やる気の抜けた声と、抑揚のない声──迷宮コンビである。
≪……おい、誰が頼りないマスターだよ。あのダンジョンを今の立派な塔まで育てたのは俺なんだからな≫
≪そうは申されましても……日常を皆様にご説明すれば、ご理解いただけるかと。そう、あれはある夏の日の──≫
≪うわぁぁぁぁ! や、止めろ! 何も言わなくていいんだよ!≫
前回同様、片方が片方を翻弄する組み合わせ……とても仲が好い関係であった。
ホウライは前回の一組で、これからが長くなることが分かっていたため、早めに進行することを勧める。
≪お二人共、新ルールの方を説明していただきたいのですが……≫
≪ほ、ほらコア! どんどん説明しねぇと進行に差し支えるだろ! ほら、さっさと始めるぞ!≫
≪チッ……そうですね、始めましょうか≫
舌打ちのような音が聞こえても、決して気にしてはならない。
暗黙の了解が求められ、観衆たちは歓声を上げて聞かなかったことにした。
≪新ルール、と言われても今回は一つしかございません──事前の仕掛けです≫
≪ああ、メルスがやったヤツだろ? いくら勝ちてぇからって、ブラックホールはねぇだろぅよ≫
第一試合──メルス対ティルエで使われる予定だった罠。
ティルエが次元を裂いた時、一瞬の隙を生むためだけに整えられた魔導。
それが第三試合──ソウ対シガンの試合中に作動し、試合内容に大きく影響を及ぼすことになった。
≪そのため、試合開始直前と終了後に状態がリセットされます。自身にかけたバフなどはそのままですが、舞台の状態が初期状態に戻ることになります≫
≪ボタン一つでリセットってのは、なんだかゲームみてぇだな≫
≪実際、グラさんの種族スキルで状態を保存して、復元なさるそうですよ≫
三頭犬獣人の種族スキル(保存)。
本来は魂の辿る道を象徴するために与えられたスキルだが、メルスにとってはただ便利な時間固定のスキルでしかなかった。
予め舞台の状態を記録し、決められたタイミングで発動。
すると、舞台は保存された環境を読み込み状態を上書き──まるでリセットされたかのように思えるという仕組みだ。
≪……ああ、そういえばルーレットって新しいルールが増えたのか?≫
≪えっ? あっ、はい。資料として預かっています。ただ、私以外見てはいけないと表紙に書かれていますので……≫
≪はっ……ちょっと貸してくれねぇか?≫
≪か、構いませんけど……≫
ガサゴソと紙を渡す音が会場に響く。
しばらくは静かになるのだが、その後すぐに激しくガサガサと音が鳴り始める。
≪……くそっ、開かねぇ! なんでこんな紙にまで細工してんだよ!≫
≪マスターのような方がいるからこそ、そうしたのでは?≫
≪…………悪かった、返すよ≫
≪いえ……その、気にしないでください≫
紙にはメルスによって封印が施されていたため──ホウライ以外が触れても開くことはできず、見てもモザイクが施され見ることは不可能な仕様になっている。
無駄に気合を入れたメルス作のアイテムには、どう抗っても抜け道が無い……そう知っているカナタは大人しく諦め、ホウライに資料を返すのだった。
≪コホンッ! 今回の第三回戦は四回戦と連続して行われ──午前で準決勝、午後で決勝戦が繰り広げられます!≫
≪……普通、三日に渡ってやるとかじゃねぇのか? というか、それなら昨日間に準決勝もやっときゃよかっただろうに≫
≪マスター、主催者がそうしたいと言ったらそうなるわけです。ワタシたちが一々指図してはいけませんよ≫
そういうもんか? そういうものです、といったやり取りを行ったのち、説明が再開される。
≪また、準決勝と決勝戦は特別なものにしたいという主催者様たっての願いにより、舞台外に落ちての敗北のルールが無くなり、バトルフィールドも変更となったそうです≫
≪……まあ、最後の最後がそんな終わり方でもつまんねぇか≫
≪では、この場では行わないのですか?≫
≪互いのイメージに沿った、闘いやすい舞台が具現化されるそうです。映像はホログラムとして投影され、会場には生の迫力が伝えられると……≫
その後、ルールを再確認して開会式は終了となる。
最強の個を決める武闘大会──その最終日が幕を開いた。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる