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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と二回戦閉会式 後篇

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「──おーい、シュリュ!」

「ああ、メルスか……。あれだけ言っておいて、朕は負けた。あのときは少しカッコつけていたが……やはり、悔しいものだな」

「いきなりだな!? だがまあ、それは普通感じるものだろ。対等の相手と闘って、負ければ普通な」

「なぜ、普通を二回言った」


 お前たちが異常で、俺が普通モブだからだよ。
 純粋な力だけで勝てたことなど、一度としてないじゃないか。


「『劉殺し』を貸したこと、それ自体に文句はない。だがメルス、片方だけに味方をするというのは……どうかと思うぞ」

「いや、シュリュが俺を頼らなかっただけだろ。俺は望まれれば協力する、だが逆にそうじゃないなら本人の意思を尊重する……知ってるだろ?」

「うっ……そうであるが、そうであるが!」


 そう言って、地団太を踏む……あの、地面が大変なことになるのでそういうことは控えてください。
 とっさに<箱庭造り>でサポートしてなかったら、間違いなく罅が生まれていたぞ。


「これでシュリュも分かっただろ? 試合で言っていたが、新しい覇導を歩むと」

「むっ?」

「王道を選ばず、俺みたいな道を外れた道を行かないなら……それもまた一興。だけど、今度は他の人を頼ってくれよ」


 最近、俺の道は『珍道』な気がしてきた。
 いや、うっかりな出来事があるわけでもないが……とにかくハプニングの連続で、成り立っている気がしてな。


「戦闘関係をみんなでやっていることは知ってるけど、それ以外にも頼れることはいくつでもある。俺にできることなら、シュリュの望むままに叶えよう。劉帝を、正しい存在に戻したい……とかでもな」

「……言っていいことと、悪いことがあるのではないか?」

「望まないなら、それもまた良しだ。俺は可能性を提示するだけで何もしない。シュリュが帝国に手を出すなと言うなら、他の眷属が巻き込まれない限り何もしないさ」


 偽善の対象になったら……周りの反応次第で動くことになるけど。
 モブに手番が回ることなど無いし、率先して活動しなければ何も起きないだろう。





「──なんだ、ネロか」

「なんだとはなんだ。一回戦の敗者が慰められていたのだから、二回戦の敗者である吾もそうであるはずだ」

「よしよし……はい、終わり」

「短いぞっ!?」


 現れたネロへおざなりな対応をする。
 クエラムを撫でた時も羨ましそうにしていたんだが……だからといって、ここまで期待されるのもな。


「一回戦が終わったときに撫でたんだから、もう充分だろう」

「そ、それとこれとは別の話だ! あ、あれはメルスが撫でたいから撫でたのだろう!」

「……ああ、そういえばそうだっけ」


 ため息を吐いて、もう一度撫でた。
 一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、頭の重量感がすぐに失せてあっ、というような表情へ変わる。


「短すぎるぞ!」

「だから、これが普通の分だ。もう満足しただろ?」

「するわけないだろう! もっとだ、もっと吾を慈しめ!」

「ハァ……分かりましたよ、ネロ様」


 再度頭を撫で始めると、至福の表情で歓んでくれている。
 昔はいろいろとやらかしたマッドな魔王だが、こういう部分はだいぶ可愛くなってきたとも言えよう。


「ところでネロ、あのレヴィアタンの幼生体についてだg」

「──おっと、メルス。すまぬが用事を思いだしてしまった。少し失礼するぞ!」

「……そうか。なら、また別の機会を設けてやる。頭もゆっくりと撫でてやるよ」

「そ、それは……遠慮しておこう」


 背を縮める勢いで撫でようと思っていたんだが……残念、断られてしまった。
 凄まじい勢いで走り去るネロは、風で埃が舞うと注意されている。

 けどまあ、さすがにまたマッドな研究を始めているので確認はしておかねばならない。
 ──少し、興味があるけどな。





「シガンは……まあ、別にいっか」

「何がいいのよ」

「いや、さっきから二回戦の敗者にいろいろと訊いてたんだが……ソウ相手だと、理不尽な暴力に関する話しかしないからな。参考にならないんだよ」

「…………そうね。たしかにその感想しか浮かばないわ」


 だから一回戦の後、ナックルの所にも行かなかったんだよ。
 どうせ俺への愚痴と一撃必殺への文句しかないんだし……ダンジョンへの転移権利だけ渡せば、アイツは満足だしな。

 シャイン? 適当に見繕ったアイテムだけ渡して終わらせたぞ。
 あの野郎、自分のハーレムに慰めてもらっているからな。


「クラーレたちは……ああ、物凄い勢いで食べてるな。うちのグラには見劣るけど」

「さすがに男性から見てもそう思う? メルスが関わった料理だから、というのもいちおうの理由よ」

「うちの料理であそこまで美味しそうに食べてもらえているなら、料理人として満足しておこう」


 いくら太らない体とはいえ、過食は状態異常として表記されるはずなんだがな。
 無限の胃袋を持つグラやヴァーイならともかく、乙女があそこまでするのは……俺は嬉しいけど。


「シガンは食べないのか? 落ち込んで胃の通りが悪いなら、通りやすい物を作るけど」

「ありがとう。けど、遠慮しておくわ」

「……何か問題があるなら、言ってくれ。主催者として、問題は放置しておけない」


 表情に苦しいものは感じられないが、それでも訊ねておく。
 食べ物ではなく飲み物を……と考え、即席でカフェラテでアート(3D)を行う。


「……物凄くツッコミたいわ」

「ツッコんで良いから理由を言ってくれ」

「ハァ……あれだけ用意してもらったのに、結局負けたことに落ち込んでいるのよ」

「なんだ、そんなことか」


 完成した猫のアートを手渡して、この場を去る……そのついでに言っておく。


「あの理不尽は映像で見せた通り、神話や伝説になぞられた武具程度じゃ死なない。自分で行った攻撃を倍返しにして、ようやく倒せる理不尽バケモノだよ。……そんな奴を気にする暇があるなら、自分の手が届く範囲に居る奴を守ることに集中しとけよ」

「……キザな台詞セリフね」

「べべ、別にそんなじゃねぇよ! ただ、シガンはギルドのリーダーなんだ。守るべき者は定まってるだろ?」


 これを聞いてシガンが何を思ったか、それは分からない。
 だがまあ、俺を笑ってるんだろうな。

 後ろを絶対に振り向かず、再び料理作業へ戻る俺であった。


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