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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と二回戦閉会式 中篇

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 普通、試合数が半分になれば休憩時間を増やすことで時間を調整するだろう。
 だがそれをせず、半分の時間で終わらせたのにはちゃんと理由がある。


「さぁ、お上がりよ!」


 テーブルの上に並べられた地球の料理。
 祈念者も自由民も眷属も関係なく、いっせいに料理に群がっていく。


「何コレ、美味しい!」「さすがメルス様の料理だ、謎だらけだけど美味しさだけは絶対に変わらない!」「ハムっ! ごしゅじんさハムっ! ま! 美味しハムっ! いよハムハムっ!」「ちょ、ちょっとグラ! みんなの分が無くなっちゃうでしょ!」「うおっ、なんだよこの料理! 手が止まらなくなっちまうだろ!」「こらっ、ヴァーイ! 貴方も真似してどうするの!」


 ……ある一帯の料理が物凄い勢いで無くなろうとしているため、原因となっている者たち(と補助役)を別エリアに隔離しておく。
 もちろん、そちらにも料理は並べてある。


「ちゅうかの方はどうなってる!?」「今できました、すぐに出してきます!」「ふらんすもできました!」「少量なんてルールは要らねぇ! 出せるだけ皿に持ってけ!」「メ、メルスさん、速く戻って来てください!」

「おっと、そうだった……今行く!」


 一方、屋台を作り変えて整えた特設厨房の方は、大忙しで料理を用意していた。
 王族専門の料理長が指示を出し、俺の世界の料理人たちにそれぞれ必要な料理を調理していく。

 シーエもここに混ざって、スキルアップを図ってもらっているが……修羅場だな。
 願いであるファンタジー系の素材も混ぜた料理なのだが、そう簡単には夢を叶えられそうにない。


「料理長、俺は何をすればいい!」

「おおっ、メルスか。一番手が詰まっている『あじあ』系を頼む。あの配合は普通の奴には難しいだろうからな!」

「あいよっ、承った!」


 すぐにアジア料理を行っている厨房エリアまで転移で向かい、調理に参加する。
 時間が無いので“不可視の手”や思考系のスキルも補助に入れ、超高速での下拵えを始めていく。

 ……魔法はどんな影響を起こすか分からないから、加速と発酵だけにしておいた。


「さ、さすがメルス様ですね……」

「ん、そうか? 君も料理神から加護を授かればこんなことぐらい簡単にできるぞ」

「そ、そうなんですか……」

「その顔は疑ってる顔だな? ハッキリ言っておこう、俺に料理の才能は無い!」


 声をかけてきた料理人の眼が、こいつ何を言ってるんだろう……みたいな感じになっているが構わず続ける。
 もちろん、料理の方も手を止めることなく続けていた。


「祈念者なんて、後天的に才能を与えられた奴が多い。俺はその見本とも呼べるくらい、才能が後から与えられてな。料理に関して、俺は本来まったく才能が無いんだ」

「……そうなんですか?」

「それまでは、切り方すら分からなかったからな。地球はお湯をかけるだけでいいとか、温めるだけでいいとか……まあ、簡単にできる料理がたくさんあったからな。いちいち料理を磨かずとも、生きていけたんだ」


 その分、料理ができる男がモテていたという事実は隠しておこう。
 負の伝承を、この世界にまで持ち込む気はないからな。


「その点、君たちはちゃんと料理ができているじゃないか。羨ましい限りだよ」

「そ、そんな! メルス様の方が──」

「だから言っただろ? これは借り物の才能であって、俺自身は料理なんてやったこともない無能なんだって。ほら、手が止まってるぞ。料理は複数のことを考えながらやることが多い、思考と手を止めちゃいけない」

「は、はいっ!」


 なぜ料理について、ここまで語っていたのだろうか……。
 若者を育成するのは、偽物でも熟練者の仕事か──なら、やるしかなかったんだな。



 観客が会場から減っていくので、料理の生産数も少しずつ減っていく。
 お蔭で料理から解放された俺は、ふらふらと彷徨う許可を得ることができた。


「ティル、どうだ? 俺たちの料理は」

「ええ、美味しく頂いているわ。もちろん、周りの人もね」

「そうか……なら良かった」


 少し、特殊な素材も使っていたからな……アレルギーでもあると困ったよ。


「あれるぎー? ああ、体が痒くなるっていうアレね。今のところ、そういう気持ちを抱いていた人はいないわよ」

「何で反応するか分からないからな。地球だとそれを検査するシステムがあるんだが、まだこっちだと成立していないから……」

「心配のしすぎよ。たしか、魔力がある分そういうことには強いんでしょ?」


 こっちの世界にログインすると、地球で失われていたり鈍っていた五感が使えるという話があった。
 アレルギー関係もたしか、問題がなかったので一部のプレイヤーが狂喜乱舞になっていた気もするが……あんまり覚えてなかったから、念のためな。


「だがその分、魔力で起きるアレルギーがあるかもしれない。魔力を浴びて成長する薬草に、食べた者の魔力波を乱す効果を持つ物もある……」

「それは意図的にやらなきゃ問題ないわよ。というか、メルスなら乱れた魔力も元に戻せるでしょ?」

「まあ、そうだけどな」


 ティルにはそういった、来場者の変化を視てもらうことにした。
 主催者として気にしないとならないしな。


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