865 / 2,519
偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と二回戦第四試合 その04
しおりを挟む拳一つで闘い抜いた一回戦と異なり、ネロマンテはあらゆる武具を使いこなしていた。
そのすべてが死者の想念を介しての操作ではあったが、実際にフェニと闘うだけの武芸があるのだから実用性は否定できない。
「折れた」
「っ……槌よ!」
フェニの宣言と共に、槍は破壊される。
禁忌の炎によって強化を重ね、今のフェニは数度打ち合えば武具を破壊するまでに肉体の強化を済ませていた。
ネロマンテは折れた槍を後ろに抛ると、槌の名を呼び手元まで向かわせる。
そしてそれを握ると、先ほどとはまったく異なる動きでフェニを翻弄していく。
「だがそれも、すぐに分かる……次」
「撃てぇっ!」
後方から弓と銃が呼応し、セットされていた矢と弾がいっせいに飛ぶ。
フェニはそれを最小限の動きで避け、槌を破壊する。
「ヴァーイと違って我の“心身燃焦”を止められていないのが敗因だな……次」
「双剣よ!」
二本の曲刀がネロマンテの手に収まり、苛烈な連撃を仕掛けていく。
双剣であるため、二人分の霊魂が籠められている……が、フェニはそれを諸共せずにただ機会を窺う。
「ネロよ、武技は使わないのか? それもあれば、少しは変わるだろうに……」
「分かっていることを訊くな! ……熱くなりすぎたか。想念が肉体を持っている状態であれば、まだ武技を使えた。だが担い手が吾の状態では、生前との違いとやらで正しく循環ができずに使えないのだ」
「なるほど。つまりあれだ、魔力や気力を循環できる器さえあればできると……」
あっさりと破壊された武器に思考を熱くしていたネロマンテだが、会話の間に冷静さを取り戻すことに成功する。
使える手札はそう多くなく、ほぼすべてが一度のぶつかり合いでフェニに砕かれるモノばかり。
それでも勝利を強く求め、思考を巡らせて勝つための道順を練り上げる。
「“幼荒海獣の全身鎧”」
ネロマンテを包む黒い衣が蠢き、その形を変えていく。
全身鎧と化した衣によって、レヴィアタンの防御力がより前面に現れる。
そして双剣を投げ捨てると、鱗を一枚剥いで大剣へと作り変える。
「ドラゴンたちの再生力は凄まじい。吾もその力を得てはみたが、やはり後方からの支援こそが吾の本領……向いてはいないようだ」
「大剣を扱えるのか? 死霊を宿しては二の舞だろうが、そのままでやるつもりなのか」
「先も言ったではないか。想念が自身の肉体との違いで循環できず、発動できぬと。問題はいつだって生じる、だがそれは決して解決できないものではない──“死者融合”」
武具に宿っていた想念が、いっせいにネロマンテの元へ飛んでくる。
その一つ一つがレヴィアタンの中へ取り込まれていき、一つとなっていく。
「すべてではない。自立して動き、吾の命に応じるだけの魂魄は未だに武具に宿らせてある。だがこれで、問題は解決した」
大剣を強く握り直し、脚が壊れることも厭わずに限界まで魔力を籠めて強化する。
そして爆発的な推進力を使い、一瞬でフェニの元まで向かい──
「“渾身斬”」
空を割るような勢いで、縦に一刀両断。
武技特有の燐光を纏った一撃は、フェニに回避不可能なダメージを与えようとする。
「“後退突”」
だが、フェニはレーヴァティンの形状をまだ見せていなかった短剣の状態にし、武技を発動することでそれを躱す。
攻撃と回避を同時に行う、短剣の武技である“後退突”。
ダメージ量に関しては見込めないが、その特殊な挙動によって高確率で回避を行える技であった。
「武技が使用可能となったか……だが、それでも我の“心身燃焦”はまだ止まらない」
「そうであろう。だが、今の吾は刺し違えるような攻撃であっても生き残る、圧倒的な再生力がある。何も問題はない」
意思がある限り与えられる簡易的な不死。
その恩恵が身を包む今、ネロに恐れることなど何もない。
「ならば決着だ……終わらせよう」
燃え盛っていた禁忌の炎が、ゆっくりと弱まっていく。
だがその分、密度が高まっているのか舞台は炎が小さくなるのと比例して、少しずつ熱くなっていった。
「フェニックスの焔は、再生の象徴であると同時に死の象徴でもある。始まりを迎えるための終わり──再生するための死を齎すのだからな」
舞台を包んでいた聖なる炎が消えた。
……舞った禁忌の炎の粉に触れ、焦がされて焼き尽くされたからだ。
「……いつでも来い」
「では、行かせてもらうぞ!」
大剣を構えたネロの元へ、今度はフェニが向かう。
激しい剣戟が繰り広げられ、炎が荒れ狂い会場もまたヒートアップしていく。
「“紅蓮大蛇”」
「“流水円避”」
流れる水のように攻撃を回避したネロは、そのままフェニに棍棒に変えていた鱗を籠手に作り変え──
「“覇砕拳《デストロイナックル》”!」
渾身の一撃を叩きつけた。
「……こういった結末も、なかなか新鮮ではないか」
「ご主人の元に居て、飽きを感じる者など居はしない。ネロ、お前もそうだろう」
「ああ、そうであったな」
魔力で包み、防御はしていた。
だが、これまでに溜め込んだ“心身燃焦”で溜め込まれた力を濃密な炎に変えた今、制限された魔力量では炎を防ぐだけの耐火性を持たせられなかったのだ。
──ネロの体は炎に燃やされ、魔力を介してすべてを焦がされようとしていた。
もうすぐ身は灰にもなれず消滅し、この場から退場することを促される。
「幼生体ではなく、成体であれば難しかったかもしれない。……次はもっと、火力を上げておこう」
「まだ上げるのか……吾も、もう少し魔物を育成しておこうか」
二人でそう反省点を語り合い──ネロマンテの体は完全に燃え尽きた。
≪試合終了! 勝者──フェニ選手!≫
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる