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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と二回戦第四試合 その04

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 拳一つで闘い抜いた一回戦と異なり、ネロマンテはあらゆる武具を使いこなしていた。
 そのすべてが死者の想念を介しての操作ではあったが、実際にフェニと闘うだけの武芸があるのだから実用性は否定できない。

「折れた」

「っ……槌よ!」

 フェニの宣言と共に、槍は破壊される。
 禁忌の炎によって強化を重ね、今のフェニは数度打ち合えば武具を破壊するまでに肉体の強化を済ませていた。

 ネロマンテは折れた槍を後ろに抛ると、槌の名を呼び手元まで向かわせる。
 そしてそれを握ると、先ほどとはまったく異なる動きでフェニを翻弄していく。

「だがそれも、すぐに分かる……次」

「撃てぇっ!」

 後方から弓と銃が呼応し、セットされていた矢と弾がいっせいに飛ぶ。
 フェニはそれを最小限の動きで避け、槌を破壊する。

「ヴァーイと違って我の“心身燃焦オーバーヒート”を止められていないのが敗因だな……次」

「双剣よ!」

 二本の曲刀がネロマンテの手に収まり、苛烈な連撃を仕掛けていく。
 双剣であるため、二人分の霊魂が籠められている……が、フェニはそれを諸共せずにただ機会を窺う。

「ネロよ、武技は使わないのか? それもあれば、少しは変わるだろうに……」

「分かっていることを訊くな! ……熱くなりすぎたか。想念が肉体を持っている状態であれば、まだ武技を使えた。だが担い手が吾の状態では、生前との違いとやらで正しく循環ができずに使えないのだ」

「なるほど。つまりあれだ、魔力や気力を循環できる器さえあればできると……」

 あっさりと破壊された武器に思考を熱くしていたネロマンテだが、会話の間に冷静さを取り戻すことに成功する。

 使える手札はそう多くなく、ほぼすべてが一度のぶつかり合いでフェニに砕かれるモノばかり。
 それでも勝利を強く求め、思考を巡らせて勝つための道順を練り上げる。

「“幼荒海獣の全身鎧”」

 ネロマンテを包む黒い衣が蠢き、その形を変えていく。
 全身鎧と化した衣によって、レヴィアタンの防御力がより前面に現れる。

 そして双剣を投げ捨てると、鱗を一枚剥いで大剣へと作り変える。

「ドラゴンたちの再生力は凄まじい。吾もその力を得てはみたが、やはり後方からの支援こそが吾の本領……向いてはいないようだ」

「大剣を扱えるのか? 死霊を宿しては二の舞だろうが、そのままでやるつもりなのか」

「先も言ったではないか。想念が自身の肉体との違いで循環できず、発動できぬと。問題はいつだって生じる、だがそれは決して解決できないものではない──“死者融合ネクロスフュージョン”」

 武具に宿っていた想念が、いっせいにネロマンテの元へ飛んでくる。
 その一つ一つがレヴィアタンの中へ取り込まれていき、一つとなっていく。

「すべてではない。自立して動き、吾の命に応じるだけの魂魄は未だに武具に宿らせてある。だがこれで、問題は解決した」

 大剣を強く握り直し、脚が壊れることも厭わずに限界まで魔力を籠めて強化する。
 そして爆発的な推進力を使い、一瞬でフェニの元まで向かい──

「“渾身斬フルパワースラッシュ”」

 空を割るような勢いで、縦に一刀両断。
 武技特有の燐光を纏った一撃は、フェニに回避不可能なダメージを与えようとする。

「“後退突バックスタブ”」

 だが、フェニはレーヴァティンの形状をまだ見せていなかった短剣の状態にし、武技を発動することでそれを躱す。

 攻撃と回避を同時に行う、短剣の武技である“後退突”。
 ダメージ量に関しては見込めないが、その特殊な挙動によって高確率で回避を行える技であった。

「武技が使用可能となったか……だが、それでも我の“心身燃焦”はまだ止まらない」

「そうであろう。だが、今の吾は刺し違えるような攻撃であっても生き残る、圧倒的な再生力がある。何も問題はない」

 意思がある限り与えられる簡易的な不死。
 その恩恵が身を包む今、ネロに恐れることなど何もない。

「ならば決着だ……終わらせよう」

 燃え盛っていた禁忌の炎が、ゆっくりと弱まっていく。
 だがその分、密度が高まっているのか舞台は炎が小さくなるのと比例して、少しずつ熱くなっていった。

「フェニックスの焔は、再生の象徴であると同時に死の象徴でもある。始まりを迎えるための終わり──再生するための死を齎すのだからな」

 舞台を包んでいた聖なる炎が消えた。
 ……舞った禁忌の炎の粉に触れ、焦がされて焼き尽くされたからだ。

「……いつでも来い」

「では、行かせてもらうぞ!」

 大剣を構えたネロの元へ、今度はフェニが向かう。
 激しい剣戟が繰り広げられ、炎が荒れ狂い会場もまたヒートアップしていく。

「“紅蓮大蛇ブレイズサーペント”」

「“流水円避リュウスイエンヒ”」

 流れる水のように攻撃を回避したネロは、そのままフェニに棍棒に変えていた鱗を籠手に作り変え──


「“覇砕拳《デストロイナックル》”!」


 渾身の一撃を叩きつけた。





「……こういった結末も、なかなか新鮮ではないか」

「ご主人の元に居て、飽きを感じる者など居はしない。ネロ、お前もそうだろう」

「ああ、そうであったな」

 魔力で包み、防御はしていた。
 だが、これまでに溜め込んだ“心身燃焦”で溜め込まれた力を濃密な炎に変えた今、制限された魔力量では炎を防ぐだけの耐火性を持たせられなかったのだ。

 ──ネロの体は炎に燃やされ、魔力を介してすべてを焦がされようとしていた。
 もうすぐ身は灰にもなれず消滅し、この場から退場することを促される。

「幼生体ではなく、成体であれば難しかったかもしれない。……次はもっと、火力を上げておこう」

「まだ上げるのか……吾も、もう少し魔物を育成しておこうか」

 二人でそう反省点を語り合い──ネロマンテの体は完全に燃え尽きた。


≪試合終了! 勝者──フェニ選手!≫

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