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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と二回戦第四試合 その01
しおりを挟む≪──いよいよ二回戦もこれで最後となりました。勝ち進み、準決勝へ向かうのは果たしてどちらとなるのか。ネロマンテ選手対フェニ選手、まったく読めません≫
死を司るネロマンテと再生を司るフェニ。
どちらも粘り強い闘いを可能とする二人であるため、長期戦になると思われている最後の試合だ。
「ご主人は無事であろうか。ソウの一撃など庇えば、我は再生にかなりの時間を要してしまう。結界に仕掛けを施したが故の自業自得とはいえ、さすがに救われないではないか」
「問題なかろう。たとえ死のうがお前の炎で蘇る……吾の反魂の術でも構わぬが、炎の方が好いのだろう?」
伝説や禁忌とされる復活の術、古今東西あらゆるその術を彼は求めた。
フェニックスの持つ再生の力、回復系統の禁忌魔法“完全蘇生”、死霊系統の魔法に存在する魂へ干渉する魔法……方法は多岐に渡るが、それらすべてを学んだ。
そして得た死を克服した力。
他者の協力が必要になるが、今のメルスにとって死はただの状態変化に過ぎない。
状況に応じて好きな蘇生方法を選択し、それを用いて再起動する……その程度でしかなくなっていた。
「それより今は、吾らの試合であろう。勝てばそのソウとやらねばならぬ」
「だがそこを超えれば、ご主人と闘えるであろう。もちろん、ご主人が下手を打って負けねば、ではあるが」
「……負ける気はないが、勝っても地獄だ。あの異常個体を連続して相手にせねばならぬではないか」
あらゆる存在を捻じ伏せ頂点に立っていた世界最強のドラゴンと、そのドラゴンすら殺した意味不明な偽善者。
その両方に勝つためには──暴力を騙すペテンと、ペテンを潰すための暴力の双方が必要となる。
両者対極の猛者であるが故に、同様の方法では勝つことができない。
「我は死ねば強くなる。お主は……死を使って強くなる。我らは似ているな」
「自分を使うか他者を使うか、この程度の差であろうか」
「我の癖はご主人に呆れられたが、お前のそれは咎められるもの。そういった点では、明確な差ではあるがな」
「むぐっ……」
問題を自らだけで背負うフェニの再生であれば、メルスは何も文句を言わない。
本人こそがそれをもっとも多く行うため、強く言うことができないからだ。
一方ネロマンテの他者を傷付ける行為は、日本で生きた彼にとって許しがたい行為。
必要となれば即決で選ぶ行動、だがギリギリまで行わないアクションでもある。
「…………今は気にするでない。吾のことは吾で解決する」
「そういった問題ではないと思うのだが」
まあいい、と言って武器を構える。
炎を模した装飾が施された、白と黒で構成された聖魔の武具。
与えられたフェニの武具は、現在杖の形をして握られていた。
「聖魔杖レーヴァティン……先とは異なる我の力を魅せようではないか」
「ふっ。こちらこそ、先とは異なる面白いモノを魅せてやろうではないか」
ネロマンテもまた、詠唱を始めた。
地面に描かれた魔法陣、そこから黒い光を奔らせてナニカが現れる。
「──レヴィアタン……の子供か?」
「コアと取引をし、幼生体を貰っていた。不死の再生力を持ってはいるが、育成当初から死の属性を馴染ませていけば、このようにしてアンデッドとすることもできる」
小さな海蛇のような魔物であった。
成体のレヴィアタンとは異なり、色は黒く力もそこまで強くは無い。
……だが、簡易的な不死の力だけは始めから身に着けていた。
「──“死者憑依”」
そして、それを自らに纏う。
制限ギリギリの魔力量に調整された幼生体のレヴィアタンは、その姿を幻想的な衣のように作り変えられネロマンテを包む。
「……本当に、ご主人に怒られるぞ」
「…………か、勝てば官軍だ!」
生き物の冒涜はあまり好まないのが、件の日本人であった。
遠く異国の地で銃殺される希少動物の死に嘆き、自らが無自覚で踏み潰す蟻にいっさいの関心を持たない地球人。
メルスもまた、自身の殺戮はあまり気に留めないが他者の……特に眷属が行った殺生には気を留めていた。
「というよりも、死んではいない……あくまで死の属性を有した魔物であるというだけ。メルスもこれには文句を言うまい」
「そうだろうな。この程度で文句を言うのであれば、ご主人は我の自殺も止めるだろう。それをせず、死に協力してくれたのがご主人だ……どれだけ肩肘と虚勢を張ろうと決して一線は超えない」
最低限の倫理観が死を忌避するが、それも絶対の固定概念でも無い。
求められれば、ほぼすべてのことを叶えようとする……超えてはならない一線を守るため、そうして動いている。
「──“心身燃焦”」
フェニは身を燃やし、強化を始める。
焦がされた体は命を消費し、再生の焔が灯りさらなる強化を重ねていく。
「試合を始めよう。我の再生力とネロのその不死性……どちらが優るか、今決めようか」
「そうだな──始めよう」
すると、魔法陣がネロマンテが伸ばした右手の陰に出現する。
現れたのは一本の剣、レヴィアタン同様に黒く染まった魔剣だった。
≪それでは第四試合、特殊ルールは魔眼の使用禁止──始めてください!≫
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