上 下
861 / 2,519
偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と侵蝕融合

しおりを挟む


「さすがにシガンも、ソウには勝てなかったか……特殊ルールも入れたら、割と勝算がある試合だったんだけどなー」


 それは未来眼で視たのだから間違いない。
 だが、俺とは別のやり方で理不尽を体現しているソウだからな。

 わざわざ刀でアピールしていたが、自身の爪であろうと可能なことであった。
 もともと世界最強のドラゴンであるソウ。
 破壊に関する現象であれば、アイツにできないことは何一つ存在しない。


「……シガンに渡したあの魔具。補助アイテムにしてはやりすぎたかな?」


 まあ、片方は使う間もなく終わったが。
 時間を遡らせ、進める魔具──形状は好きにしていいと渡しておいたが、まさか耳飾りにするとは思ってもいなかった。


「二つに分かれたから、制御もしやすくなったのかもしれないな。それでも足りずに負けたわけだが」


 本来の性能であれば、【未来先撃】を最大限サポートできたんだが……どうやら魔力が足りなかったようだ。

 俺ならそれを生かすこともできるが、俺はシガンじゃないから関係ない。
 いつかクラーレが、例の固有スキルを完全に使いこなすそのとき……盾となり剣となる守護者が必要になる。

 盾職ディオンではまだ足りない、固有スキルを支えるなら同じく固有スキルだろう。
 手に入れたら報告してもらえるように頼んではいるが、今のところ一度もない。


「苦痛を対価に死者を蘇らせる究極の自己犠牲……クラーレとそのスキルはシンクロしているから成長も早い。けど、シガンのスキルは侵蝕してきたぐらいだしな、外部から調律しないと駄目だろ」


 俺の場合は眷属が勝手にやってくれているので問題ないが、普通の者は何度か問題を起こして確実に同化していく。
 侵蝕される形で呑み込まれるか、本質を理解し融合するか……俺の場合は、どっちに当て嵌まるんだろう?


「シガンが不完全な形でそれを止めてしまったのは、ある意味俺の責任だしな。少しずつ理解していたみたいだけど、今の速度じゃクラーレが達するまでに間に合わない」


 だからあのアクセサリーを渡し、適性を高めることでそれを加速させることにした。
 渡した鑑定結果のメモの追記に、こうした情報も記しておいたので納得の上使用したのだろう。




 などと思考して感覚を誤魔化していたが、本音を言おう。


「──うん、そろそろ不味い気がする」


 俺と結界は同期しており、結界自体の処理能力で捌き切れなかった事象はすべて俺がどうにかしている。
 ダンジョンの機能ともリンクさせているため、ほぼすべての現象は処理することが可能なわけだが……。


「アイツの息吹を止めたのに、同じ分の斬撃なんてやられればいっしょだろうが」


 次元を斬り裂く一撃の威力が、そう簡単に処理できるはずがない。
 肉体で受けるのは断念して、<虚空魔法>で干渉した虚無世界に回して処理を行った。

 それが間に合わず、体にソウの魔力が一部流れ込んだときは……思考の大半が苦痛を誤魔化すために叫ぶハメになったよ。


「お仕置きは……まあ、魔導の処理もさせたからしないけどさ。やっぱりソウを動かすのは最小限にしなきゃ駄目だな」


 化け物・オブ・化け物アルティメットドラゴン
 凡人・オブ・凡人ザ・モブの俺が、自壊の果てにどうにか倒した世界最強のドラゴン。
 今の制限が課せられた俺では、決して抑えることのできない問題児。

 いつか反乱したら、封印を解放する以外に勝つ術はあるのかな?
 決勝まで行けば、嫌でもそれを試さなけれはいかなくなりそうだ。


「修復度……まだ駄目か」


 一瞬で直す<物質再成>でも構わないが、やはり時間に余裕があれば超再生を促して肉体に経験を積ませておきたい。
 なのでゆっくりと自己治癒力を高め、ソウから間接的に受けたダメージを癒しているわけだが……思いの外深かった。

 魔力が荒れ狂い、頭がひどく痛み、再生を阻害しようと傷が奥に食い込もうとする。
 最後のだけはどうにかしたかったが、少し遊んで魔力を消費している俺にはまだどうしようもなかった。


「だから、少し寝ようと思ったんだが……」

「ん、お先に失礼している」


 魔武具『堕落の寝具』が持つ回復力で、治療しようと思っていたんだが……そこにはすでにリープが入っていた。

 本来であれば、使用の最優先権利は俺にあるんだが……リープは俺の【怠惰】な部分を集めて生まれた存在で、ある意味において俺よりも【怠惰】と親和性が高いから取られてしまったのだろう。


「ん、そういうこと。メルスも寝る?」

「……ああ、そうさせてもらうよ」


 割と焦っている状況なので、いちおう身を生活魔法で綺麗にしてから布団に潜り込む。
 瞬間、快適な温度が俺を包み込んで誘惑を始める。

 痛覚は現在完全にシャットアウト中、リープの肌や体温は感じてないんだからな。


「ん、ところでメルス、いつまでその結界を使い続けるの?」

「……最後までだなぁ」


 瞼が重くなり、不思議と声にも緩みが出てしまうが回答はちゃんとしておく。
 結界は安全装置であり、切ってはいけない重要な仕掛けだ。

 こうして休めばすぐに回復するのだし、使う方が何より安心して闘えるだろう。


「ん、なら分かった。手伝うから、今は休んおいて」

「……そっかぁ。ならぁ、任せるぞぉ」

「ん、お任せあれ」


 思考が停止しているわけではなく、ただ任せられる人材に仕事を委ねただけだ。

 リープは俺から独立した俺の人格。
 虚偽をしてもバレるし、何より俺自身に嘘誤魔化しは効かない……ちゃっちゃと休んで万全な状態に治すべきだろう。

 そんな風に考えながら、微睡の中へと進んでいくのだった。


しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...