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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と二回戦第三試合 その06
しおりを挟む≪じ、次元って斬り裂けるんですね……≫
≪正確無比な斬撃を放てるティルさんと、暴力的な魔力を一点に籠められるソウさん……そして、次元に干渉する魔法を有しているメルスさんにしか無理ですよ≫
恵まれた才能、圧倒的な力、重ね続けたペテン……最後の特殊例は別にしても、一握りの者にしかできない荒業。
神の業を超えた禁忌の業、そして剣の頂ともいえる絶技。
……それを真の意味で体現しているのは、たった一人なのだが。
≪そして、そこから生まれた黒い球……あれはたしか、ブラックホールでしたっけ? 一度『エイガ』で見ましたよ≫
≪おそらく、創造者のカウンター魔導がそのまま残っていたのでしょう。ティル様の斬撃が次元を切り開くことを想定し、その際に魔導が発動して隙を見せたとき不意打ちを……かなりせこい手ですね≫
予め罠を整えておくことは、ルール違反にされていない。
最強の剣聖を超える手段の一つとして、年には念をと用意されていた。
……実際には、剣神へ手を伸ばすことで勝利を手に入れたわけだが。
≪“万物呑み込む大黒点”──現象すべてを吸い上げる、高質量かつ高密度な球体。創造者が先ほど現れたのも、おそらく誤魔化すためでしょうね≫
何も言わずとも、優れた解析能力を持つ眷属であれば誰がソレを生みだしたのかなどすぐに発覚する。
なので一度実況席に向かい、状況を観客に伝わるように説明した……それ以上は詳細不明だと、自分は関係ない、あくまで演出であると主張するため。
「──やれやれ、とんでもない展開になってしまったのう」
「……貴女のせいよね?」
「次元を切り裂いても、本来あのようなことにはならん。あれは主様が仕込んだ対ティル用のもの。どういったものかは、見れば分かるじゃろう」
アナウンスを聞かずとも、ソウは同様の見解に辿り着いていた。
穴を埋めた方が勝ち、というルールからも注入すべきエネルギー量を把握している風に見えたメルス。
実際どうなのか、それはまだ誰にも分からないことだ。
「まあ、特殊ルールという形でアレをどうにかすることになったわけだが──別に、勝利にはこれまでと変わらぬ条件があるのでな」
「っ……!」
漂わせていた煙魔法の時を動かし、目眩ましに用いて足を動かす。
先ほどまでシガンが立っていた場所には、鋭い斬撃痕が刻まれている。
そしてその発生源には、刀を納めるソウの姿があった。
「主様のアレを終わらせるよりも、お主を終わらせた方が早い。また息吹を数度吐けば、止められるであろうし」
「……なら、私が止めるわよ!」
ほぼすべての事象を起動させ、いっせいに黒点の元へ向かわせる。
黒点自身が吸引力を持つため、それらは的確に命中する……はずだった。
再び飛んだ一筋の閃撃。
シガンの向けた攻撃の半数が、斬撃とぶつかり相殺される。
「儂を無視して、別の相手に熱視線とは……少し、自棄てしまうのう」
「なんだかニュアンスが違ってた気がするのだけれど……貴女と真正面から闘って勝てると思うほど、私は自信家じゃないわよ!」
煙魔法を【未来先撃】で固定し、宙に踏み場をいくつも整えていく。
倒すことだけが勝利条件で無くなった今、世界最強の生命体と向き合う必要はない。
ソウもまた、背中から銀色の翼を広げ空へ向けて飛びたつ。
力強い羽ばたきは黒点の引力など気にもせず、自在に舞う権限を彼女へ与えた。
「ならば儂も、早くお主を仕留めよう。先の半分だけで、あそこまで黒点に影響を及ぼすとは思ってもおらなんだ」
シガンが黒点に近づいても姿勢を維持していられるのは、先ほどの攻撃が黒点に多大な影響を与えたからだ。
長時間溜め込まれた攻撃は、もう一つの特殊ルール──ダメージの増幅と相まって極限まで威力を高めた。
その結果半分であっても、攻撃が黒点の飽和を引き起こす可能性を齎すことになる。
「厄介な……増幅のルールがお主にどこまで有利になるかは分からぬが、少なくとも儂への恩恵はそう多くは無かろう」
一撃一撃が重く、強力であるソウは連撃をあまり行わない。
一つ一つが必殺の技として成立するものであり、メルスと出会うまでそれだけで他者を平伏させるためには充分であったからだ。
「──“時間破撃”!」
「ふむ……ふんっ!」
もはや武技でもなんでもなく、ただ魔力で強化された力強い斬撃。
ソウが放ったその一撃は、時間を崩壊させるシガンの武技と噛み合い──相殺する。
「り、理不尽よ……。やっぱり、近づくだけ損になるわね」
この瞬間、ほんの少しの間に再度溜めていた事象を解き放つ。
増幅の効果が小さなダメージを大きなものへ高め、黒点へ呑み込ませていく。
「一定以上の威力がないと、途中で分解される……本当に厄介」
「この短時間で行ったもので、一部は通っておるのか。やはり、逃がすわけにはいかぬ」
「──“空間転位”」
ソウが高速で飛んできたが、シガンは予め詠唱を行い取っておいた魔法を解放する。
攻撃ではないため【未来先撃】の対象とはならず、詠唱を一つ減らしていた……それでもこうした状況のために、一つは確保していた緊急回避手段だ。
「……やっぱり、使うしかないのかしら?」
そう呟くシガンは、耳元で揺れるイアリングに意識を向けていた。
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