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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と二回戦第三試合 その04

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 映像の中で闘う偽善者メルスと『白銀夜龍』。
 メルスはあらゆる武具へ変化する水晶玉を二つに増やし、その両方を深紅の槍へ変えて最後の闘争へ挑む。

「あれこそが、儂らの闘いに終わりを告げた槍である。シガン、あれの名はなんだ?」

「──ゲイ・ボルグ。絶対に命中する必殺の魔槍よ。伝承はいっぱいあるけど……それは自分で知ってるわよね?」

「うむ。この身を以って味わった故な」

 使い方によって、その効果を変える魔槍が振るわれる。
 投げれば鏃が降り注ぎ、突けば棘がさく裂していく……傷を付ければ猛毒を流し込んでいき、その一つ一つが『白銀夜龍』を苦しめていった。

≪しかし、メルスさんも武具を変えただけで劇的な変化を起こしたわけではありません。槍には強力……というより凶悪な魔法属性を付与していましたし、最適な動きを行うために自分を人形のように操っていました≫

≪先ほど飲んだポーションも、死に瀕する状態異常を引き起こす代物です。創造者だけが持つあるスキルによって、それが逆に活力を与える状態異常に変化させたとのことです≫

 薄氷の上での闘いだった。
 音速を超え、光の速さで闘う二人。
 それぞれがそれぞれを破壊しながら、双方の死を求めて狂うように踊っていく。

「アレは最高だった。一撃一撃が魂の髄まで響き渡り、儂も殺意を燃やしたものだ。なのにメルスは決して死なぬ、神ですら引いた儂の一撃を……受け止めた挙句、反撃までしてきたのだぞ!」

「これって、何倍速の映像なのかしら」

「おおっ! ついにこの場面に来たぞ!」

「……メルスが叩き落とされているわね」

 とても痛々しい音を立てて、メルスが尻尾に撃墜されていた。
 極限まで硬度を高められたその一撃は、彼の全身を粉砕する。

≪ちなみにこの際、その攻撃自体は無効化していました。ですが落下の衝撃を無効化することはできず、死にかけたそうです≫

≪あ、あの……メルス様が真っ赤に染まっているんですけど……あれ、血ですよね?≫

≪創造者は体液を必要としないのですが……今回だけは、今後の展開のために血を生成していたそうです≫

 そして映像の中でメルスは、深紅の槍に己の血を纏わせていった。
 槍の大きさは肥大化し、『白銀夜龍』を貫けるほどのものとなる。

 そして、それを向けられた『白銀夜龍』は当時──

「動けなかった。毒に蝕まれ、魔力による障壁の展開も儘ならぬ……どれだけ抵抗しようと、儂は何もできずにいた。そのときになって、初めて知った……どうして矮小なモノたちが、死ぬまで足掻き続けるのか」

「……すごい場面で気づいたのね」

「創めての恐怖、初めての絶望……はじめてばかりであった。そして感じた、ハジメテの生への渇望。悠久の時を生きながら、儂はこのようなことすら知りえなかった……」

 肉体を宙に貼り付けられ、拘束されていた『白銀夜龍』。
 その影には……槍が突き刺さってた。

≪メルスさんが籠めた属性の一つ、それは神代に存在した次元を操る魔法。そしてそこに影魔法を合わせ、絶対不可避の縛りを設けました。まだまだ力があるとはいえ、あのときのソウさんでは逃れられませんでした≫

≪そして、槍にすべてを籠める創造者。これまでに受けた痛み、想い、流したそのすべてです。たった一撃、逆転を起こす技のために創造者は死にかけていました≫

 剣呑な瞳を見せるメルス。
 普段見せる平凡な偽善者の姿はない。
 世界最強の名を継ぐに相応しい、武を以って覇を成す超越者が立ち誇っている。

「嗚呼、あの主様も最高だった! 今と違い殺意が籠められた瞳! 何度見直しても素晴らしい! ……そう思わないか!」

「……あ、あはははっ」

 とても乾いた笑みであった。
 映像はこの後、『白銀夜龍』が貫かれて止まることになる。
 魔道具は自動的に映像を掻き消し、再び現れた空間の裂け目に吸い込まれていった。

 シガンは表情を必死に取り繕い、本音を隠すことに注力する。
 今の彼女はまるで、まったく異なる世界を観たような心境だった。

 スキルや魔力、そんな概念を取り入れただけで人はそこまで変われるのか……どうしてメルスはあんなドラゴンに挑めたのか、と。

「……疑問がありそうだな。そろそろ始めたいが、それを最後の話の内容としよう」

「──なら、メルスの行動理念でも聞かせてもらえないかしら?」

 プレイヤーは死に戻りがあるから、それを理由にして死の恐怖から逃れることがある。
 だが『白銀夜龍』を前にして、恐れを抱かぬ者などいないだろう。

 だから知りたかった。
 なぜメルスが、絶望的な闘いに挑んでまで抗おうとしたのかを。

「……さあ、それは誰も知らぬのう」

「──えっ?」

「一度リュシル……ああ、アナウンスをしている者が訊いたらしい。だが、真実の半分も知らされなかった。記憶を読み取っても、そこだけは判明しない。いずれ直接訊く必要があるのだがな」

「……そ、そう」

 実際、恐怖を感じなかった理由だけであればソウたちでも回答ができた。
 ──メルスの心がスキルに侵蝕され、本来の心と乖離していると伝えるだけだからだ。

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