855 / 2,518
偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と二回戦第三試合 その02
しおりを挟む試合は始まったものの、どちらもすぐに動くことはしない。
シガンは勝利するために、時間を稼ぐ必要がある。
ソウもまた、一撃での攻撃が禁じられているためシガンの攻撃を受けてどれくらいの威力まで絞るか調整しなければならない。
固唾を呑み、その緊張した様子を見届ける観客たち。
再び大逆転が起きるのか、それとも圧倒的な力が圧殺するのか……見物であった。
そんな中シガンは、頭の中で特殊ルールについて考察を始める。
(ダメージの増幅……どういう条件でそれが発動するのかしら。試合中はアナウンスが聞こえないから、こっちで推理するしかないわね。増幅、同じ攻撃? 一定時間内の攻撃がトリガーかしら)
詳細は説明されない。
公平に試合を進め、なおかつ集中を削がないために緊急時以外はアナウンスは舞台に届かないからだ。
「試してみるしかないわね──“風刃”!」
放った武技を即座に【未来先撃】の発動して固定する。
それを何度も繰り返すが……ソウはその行動を見逃し、ただ佇んでいた。
「おっと、鞘を忘れていたな」
シガンが自身に攻撃を放ってこないことを理解しているからか、新たに鱗を使って生みだした鞘に刀を納めている。
一見すれば、油断しているようにも見えるだろう……たが、魔力が彼女の周りで円を描くようにして領域を形成していた。
領域に触れたすべての事象を知覚できる、網のようなものだ。
ソウはそれを展開することで、即座の迎撃ができるように構えている。
「これでよし……支度はまだかのう?」
「……もう少し、待ってほしいわね」
「全力に応えよう。時間は与える、思う存分手数を増やすがよい。……だが、お主は話をしながらでも準備ができるのだったな?」
「ええ、効率は下がるけどね」
シガンはそれを、平行詠唱というスキルによって可能としていた。
チャルとの闘いの間も、カウントダウンと詠唱、会話を同時に行えていたのにはそのスキルが関わっている。
「ならばシガン、儂とも会話をしてくれないかのう? 観客たちも、ただお主が黙って攻撃を溜めこんでいる姿だけではつまらないではないか」
シガンは少し考えるが、そもそも自分が待たせている身であると自覚している。
あまりに無駄な時間であるが、その一秒も千金に等しい価値がある溜めの時間だ。
「……そうね、そうしましょうか」
「理解してもらえて、何よりだ」
そして、会話を始めることになった二人。
一方は詠唱と武技の発動を重ね、一方はただ何もせず佇んでいる。
観客たちはそれがシガンの攻撃を溜めるためだと理解し、会話の内容とフィルターを越して表示された【未来先撃】によって固定された攻撃の数を眺めていった。
「……とは言っても、特に話題があるわけでもない。知る共通の人物と言えば、やはり主様しかいない。だが、主様の話をすると先のように何かに引っかかりそうだからな。……何かないか?」
「き、急にそんなこと言われても困るのだけれど……貴女とメルスの闘いについて、少し訊きたいわね」
「うむ。それであれば問題なかろう。一度主様の闘い方を思い返す意味でも、お主なりの考察を入れてもらえると助かるのう」
まるで、メルスが決勝に勝ち上がることが確実であるかのような言い方であった。
だがそこには、絶対的な信頼から裏付けらえた想いがある。
強くあろうと、眷属を心配させないようにと足掻き続ける自分たちの主が、決して負けることはないと信じる心があった。
シガンのメルスと共に冒険した時間は、そう長くはない。
だがそれでも、たしかに敗北する姿が思いつけない。
これまでの試合を見て、ただのプレイヤーがどれだけ驕っていたかを知ってしまう。
レイドボスを独りで倒せてしまいそうな、一騎当千の猛者たちがこの場で闘っていた。
そんな中でメルスもまた、同様の動きを見せて勝利を重ねている。
「教えてほしいの……メルスとの闘いを。弱点が訊きたいわけじゃない。ただ、どんな戦いだったかが知りたい」
「分かっておる。じゃが、少し待て……客観的な説明も必要であろう」
そう言ってソウは、上の空で眼を閉じる。
念話をしている、魔力の波動を感知してシガンは理解した。
一瞬の出来事だった。
二人の間に、ポツンと空間の裂け目が出現する。
そこからゆっくりとナニカが落ちてきて、舞台の上に着地した。
「──主様の許可を得た。この映像を投影する魔道具を使って、儂らの闘争を客観的な映像として纏めたものをこの場に出す」
「……意外と準備されてるのね」
「儂ら眷属は、記憶の閲覧が許されているからのう。眷属が秘匿しておきたい主様の記憶以外は、すべて保存されているのだ」
プライバシーに考慮した考えだった……メルス以外には、であるが。
ソウは魔道具に近づくと、スイッチを押して映像を投影する。
「じゃが、理解はできんぞ? あのときの主様は、間違いなく化け物を超えた異端の申し子だった。観客たちはなんとなく分かると想うが……まあ、見た方が早かろう」
「えっ? それってどういう……」
シガンの疑問にソウが答える間もなく、映像が始まった──
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる