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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と二回戦第三試合 その02

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 試合は始まったものの、どちらもすぐに動くことはしない。

 シガンは勝利するために、時間を稼ぐ必要がある。
 ソウもまた、一撃での攻撃が禁じられているためシガンの攻撃を受けてどれくらいの威力まで絞るか調整しなければならない。

 固唾を呑み、その緊張した様子を見届ける観客たち。
 再び大逆転ジャイアントキリングが起きるのか、それとも圧倒的な力が圧殺するのか……見物であった。


 そんな中シガンは、頭の中で特殊ルールについて考察を始める。

(ダメージの増幅……どういう条件でそれが発動するのかしら。試合中はアナウンスが聞こえないから、こっちで推理するしかないわね。増幅、同じ攻撃? 一定時間内の攻撃がトリガーかしら)

 詳細は説明されない。
 公平に試合を進め、なおかつ集中を削がないために緊急時以外はアナウンスは舞台に届かないからだ。

「試してみるしかないわね──“風刃エアカッター”!」

 放った武技を即座に【未来先撃】の発動して固定する。
 それを何度も繰り返すが……ソウはその行動を見逃し、ただ佇んでいた。

「おっと、鞘を忘れていたな」

 シガンが自身に攻撃を放ってこないことを理解しているからか、新たに鱗を使って生みだした鞘に刀を納めている。
 一見すれば、油断しているようにも見えるだろう……たが、魔力が彼女の周りで円を描くようにして領域を形成していた。

 領域に触れたすべての事象を知覚できる、網のようなものだ。
 ソウはそれを展開することで、即座の迎撃ができるように構えている。

「これでよし……支度はまだかのう?」

「……もう少し、待ってほしいわね」

「全力に応えよう。時間は与える、思う存分手数を増やすがよい。……だが、お主は話をしながらでも準備ができるのだったな?」

「ええ、効率は下がるけどね」

 シガンはそれを、平行詠唱というスキルによって可能としていた。
 チャルとの闘いの間も、カウントダウンと詠唱、会話を同時に行えていたのにはそのスキルが関わっている。

「ならばシガン、儂とも会話をしてくれないかのう? 観客たちも、ただお主が黙って攻撃を溜めこんでいる姿だけではつまらないではないか」

 シガンは少し考えるが、そもそも自分が待たせている身であると自覚している。
 あまりに無駄な時間であるが、その一秒も千金に等しい価値がある溜めの時間だ。

「……そうね、そうしましょうか」

「理解してもらえて、何よりだ」

 そして、会話を始めることになった二人。
 一方は詠唱と武技の発動を重ね、一方はただ何もせず佇んでいる。

 観客たちはそれがシガンの攻撃を溜めるためだと理解し、会話の内容とフィルターを越して表示された【未来先撃】によって固定された攻撃の数を眺めていった。

「……とは言っても、特に話題があるわけでもない。知る共通の人物と言えば、やはり主様しかいない。だが、主様の話をすると先のように何かに引っかかりそうだからな。……何かないか?」

「き、急にそんなこと言われても困るのだけれど……貴女とメルスの闘いについて、少し訊きたいわね」

「うむ。それであれば問題なかろう。一度主様の闘い方を思い返す意味でも、お主なりの考察を入れてもらえると助かるのう」

 まるで、メルスが決勝に勝ち上がることが確実であるかのような言い方であった。

 だがそこには、絶対的な信頼から裏付けらえた想いがある。
 強くあろうと、眷属を心配させないようにと足掻き続ける自分たちの主が、決して負けることはないと信じる心があった。

 シガンのメルスと共に冒険した時間は、そう長くはない。
 だがそれでも、たしかに敗北する姿が思いつけない。

 これまでの試合を見て、ただのプレイヤーがどれだけ驕っていたかを知ってしまう。
 レイドボスを独りで倒せてしまいそうな、一騎当千の猛者たちがこの場で闘っていた。

 そんな中でメルスもまた、同様の動きを見せて勝利を重ねている。

「教えてほしいの……メルスとの闘いを。弱点が訊きたいわけじゃない。ただ、どんな戦いだったかが知りたい」

「分かっておる。じゃが、少し待て……客観的な説明も必要であろう」

 そう言ってソウは、上の空で眼を閉じる。
 念話をしている、魔力の波動を感知してシガンは理解した。

 一瞬の出来事だった。
 二人の間に、ポツンと空間の裂け目が出現する。
 そこからゆっくりとナニカが落ちてきて、舞台の上に着地した。

「──主様の許可を得た。この映像を投影する魔道具を使って、儂らの闘争を客観的な映像として纏めたものをこの場に出す」

「……意外と準備されてるのね」

「儂ら眷属は、記憶の閲覧が許されているからのう。眷属が秘匿しておきたい主様の記憶以外は、すべて保存されているのだ」

 プライバシーに考慮した考えだった……メルス以外には、であるが。
 ソウは魔道具に近づくと、スイッチを押して映像を投影する。

「じゃが、理解はできんぞ? あのときの主様は、間違いなく化け物を超えた異端の申し子だった。観客たちはなんとなく分かると想うが……まあ、見た方が早かろう」

「えっ? それってどういう……」

 シガンの疑問にソウが答える間もなく、映像が始まった──

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