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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と導士の道
しおりを挟む劉帝様が敗北し、吸血姫が勝利した。
どちらが勝ってもおかしくはないと思っていたが……まさか勝利の鍵が『劉殺し』になるとは……。
「──これはつまり、試合の勝者は俺といっても過言ではないんじゃないか?」
すでにツッコんでくれそうなティルとは別れてしまったため、静寂の中に小さな呟きは吸い込まれていった。
「覇導が導く覇道とは違う、新しい覇導を行くねー。導士って、大変だなー」
プレイヤーだからか、それとも{感情}のお蔭か……俺に導士の称号が何かを強要したことはない。
というより、複数の導士称号が存在するせいで齟齬を起こしているのだろう。
シュリュの称号である『覇導士』が仕事をしていないのも、そういった理由であれば納得できる。
「俺を選んでくれたのは嬉しいが、何が新しい覇導になるか……さっぱりだな」
武を以って天下を征する、それが覇道の意味だと俺は考えている。
実際シュリュもそんな感じで、ドラゴンたちの国を築き上げたと言っていた。
あくまで求めたのは覇道。
それは王道とは決して相容れない、血に染められ骨肉で築かれた道。
新たな定義を考えようにも、決して綺麗なモノだけでは成り立たないだろう。
「まあ、シュリュを嵌めた劉帝が健在なら覇道でもなんでも使って潰すけど」
俺とて聖人ではない。
眷属を傷つけた相手であれば、俺なりの容赦を止めて非道に走る。
……まあ、殺すかどうかなどは地球の倫理観が未だに俺の中に残っているので、かなり甘くなっているけど。
「──それにしても、フィレルの陽光と月光のコンポはズルいよな。どっちであっても強くなるし、普通の場所で闘うなら防ぎようがないから厄介だ」
あらゆるドラゴンたちを支配できる、劉の帝王たるシュリュを降したフィレル。
最強の吸血鬼と太陽の龍……その二人の間に生まれた最強のハーフ。
吸血鬼としての弱点はいっさいなく、弱点となるはずの太陽も自らを強化してくれる。
「これの対策か……魔法で雲でも作れば光は遮れるか。昏すぎると吸血鬼の力が使われるけど、陰りくらいなら大丈夫だよな」
どうせ闘うことは確定しているのだ。
すでに『劉殺し』は回収済みなので、半分の力はアレを使って対処できる。
だがもう半分──吸血鬼としての力に対応する力を、用意する必要がある。
「陽光は聖に通じる。ただ聖水を用意しても意味がないからな……どうしようかな?」
次の試合を観ながらでも、ゆっくりと考えることにしようか。
◆ □ ◆ □ ◆
SIDE:クラーレ
わたしたちは現在、メルスが用意した武闘会の観戦をしています。
次の試合にはシガンが登場しますので……みんなで控え室に押しかけてみることにしました。
「シガーン、入りますよー!」
「……ええ、開いているわ」
なんだか落ち込んでいるような、小さな声で返事が来たのでドアを開けます。
するとそこには……なんだか控え室とは思えないような、豪華絢爛な部屋が広がっています。
少し前、メルスがメルを偽ってたことを糾弾しようとしたときに、この場所を舞台として戦いを行いました。
そのときにここの控え室を使わせてもらいましたが……やっぱり豪華ですね。
あのときは怒りでしっかりと把握していませんでしたが、どれも売れば高額になりそうな家具ばかりです。
「……驚いたでしょ。私もあのときと違って冷静だからビックリしたわ」
「今ビックリしましたよ。シガン、応援に来ました」
「一回戦のときは……来なくていいって言ったら本当に来なかったわね。そんなに美味しい物を食べてたの?」
全員がいっせいに目を逸らします。
し、仕方ありませんよ……さすがメルスが造った街というだけあって、どのお店も美味しい物ばかり売っているのですから。
しかもそれがタダですよ!
シガンに悪いですけど……持ち帰りは駄目だと言われましたので、たくさん食べさせてもらいました。
「……まあいいわ。それより、わざわざ来てくれてありがとう。前回も薄氷の上を渡るぐらい危険だったけど、今回は本当にどうしようもないわ。たぶん、すぐに負ける」
「あのナックルさんが破裂でしたしね……」
最強ギルド『ユニーク』の創設者にして、【拳聖】という固有職に就く物理火力役。
メルスが関わった一部の者を除けば、間違いなく最強の一角に立つプレイヤー。
そのはずなのに、メルスの眷属の一人というあの銀髪の女性に大敗していた。
溜め込んだ一撃をあっさりと受け止められると、背中を叩いただけで肉体を風船のように割ってしまう強力なパワー。
これまでの試合はすべて見ているが、メルスも含めておかしいと笑ってしまう程に強大な魔力が放出される戦いばかりでした。
……メルスもメルスで聖剣を何本も持ってましたし、まだいろいろとわたしたちに隠していそうですね。
そんな中、わたしたちのリーダーであるシガンだけがプレイヤーの中で唯一一回戦を突破しました(メルスは例外です)。
しかし、次の相手はあのナックルさんを倒した銀髪の女性──ソウさん。
たしか、『白銀夜龍』と名乗っていましたけど……なんだかゲームクリア後に出てくるラスボスよりも強い、特別な方法でしか現れないレアキャラのように思えました。
「まあ、少しは足掻いてはみるわよ。アッチに私の手の内はバレてるから、【未来先撃】で最初から溜め込むって技はもうできないけど……これを貰ったから、少しは時間を稼げると思うわ」
シガンはそう言って、これまでは付けていなかったイヤリングを指で弾きます。
……むぅ、メルスからの贈り物ですか。
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