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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と二回戦第二試合 その04
しおりを挟む「“陽光の祝福”!」
再び天に手をかざすフィレル。
月光の輝きが彼女を祝福する中、もう一種類の光が彼女に降り注ぐ。
──陽光。
太陽のエネルギーが吸血鬼であるはずの彼女に溶け込むと、フィレルの身体能力はさらに強化される。
「陽光龍か……朕は見たことがない」
「お母様以外に、わたしも見たことがありませんので気になさらず!」
フィレルは始祖吸血鬼と陽光龍の間に生まれた、どちらの種においても異端の娘。
吸血鬼でありながら陽光を浴びることで強くなり、陽光の龍でありながら月光を浴びることでも強くなれる。
そして自然界ではありえない、その双方を同時に浴びれば……彼女はより強くなる。
「はぁぁぁぁっ!」
握り締めた棒の先に、巨大な槍の穂先を生みだす。
螺旋を描くようなデザインをした槍は、ドリルにも似た形状となっていた。
強化された筋力で、それを捻る。
すると猛烈な勢いで槍は回転し、シュリュの体を貫こうと迫っていく。
「ならば──こうだっ!」
シュリュもまた、強化された肉体を以って十字架を突きだす。
しかし使うのは腕や手先だけでなく、己が肉体のすべて。
ヴァーイが見せたような動きを取り入れ、地面を力強く踏みつけてエネルギーを取り込み──全身を使ってその力を十字架の方へ送り込む。
≪ドリルランスと十字架のぶつかり合い! これはロマンだ! ロマンですよ!≫
ホウライのテンションは、今武闘会中最大に盛り上がっていた。
ここでもし破城兵器でも出ていれば、彼女は奇声を上げていただろう。
……ロマンとやらに、目がないのだ。
≪貫通力に特化した形状の槍と、面で押す十字架では後者が不利です≫
≪ですのでシュリュ様は、踏みつけた力を上手く十字架へ送り込んでエネルギーを増幅させたわけです≫
付くと突く。
互いに通じるものがあるそれらは、地球においても同じ武術の中で取り入れられることがあった。
それらは貫きと圧壊という事象を引き起こすため、激しいエネルギーの衝突を行う。
螺旋と浸透のエネルギーはそうしてぶつかり合い──火花を散らす。
そして響く破壊音。
これまでの使用で耐久度が減っていたのだろう……十字架にドリルが侵入していく。
「見事である」
即座に横の部分を持つと、魔力を放つ。
フィレルもまた、槍を手放して横に飛ぶことでそれを回避する。
槍が突き刺さり行き場を失った魔力の奔流は、内部全体にエネルギーを溜めこみ……炸裂した。
互いにそれが届かない上空まで飛翔し、背に生えた翼をはためかせながら会話を行う。
「忌まわしきあの武器も失われた……ならば朕を妨げるものは、もう何もない!」
「くっ、まだ血を採れていないのに……」
「あれが最後の機会であっただろうに。惜しいことをした。だが、太陽と月が其方を祝福しようと、朕の覇導を妨げることはできぬ。大人しく舞台から降りてもらおうか」
「……まだ、諦めませんよ」
再び手首に噛みつき、血飛沫を武器へ変えるフィレル。
その様子を見て、シュリュもまた鱗を剥がし武器と化す。
「旦那様のように……とはいきませんが、見苦しく足掻いてでも、試合にだけは勝たせてもらいます」
「勝負の体裁を取る必要は無しか。ならば朕も、少しばかり楽しませよう」
再び十字架としていた鱗であるが、それを止めて……もう一枚の鱗を剥がす。
そして形を変えた時、そこにあるのは巨大な斧と槌が鎖で繋がれた武器。
「大振りの方が盛り上がるであろう。だが、朕が扱えばこのような武器であっても繊細の操作も可能となる……行くぞ」
「こちらも……二つ分は使いますよ」
先ほど噛んだ手首とは逆を噛み、再度飛ばした血飛沫で武器を生みだすフィレル。
整ったのは巨大な二つの盾。
それらをガンガンとぶつけて鳴らし、自身の意欲を高める。
「「──勝負ッ!」」
翼を動かし、相手の元へ向かう。
斧が振られれば片方の盾で防ぎ、反動で振るわれた槌が来ればもう一方の盾で守る。
そして空いた隙に盾を押しつけて攻撃を行う……が、上へ飛ばれてそれは回避される。
カウンターを狙うフィレルであるが、隙と呼べる隙をシュリュは見せない。
宣言通り巧みな武器の扱いで彼女を翻弄させ、ここぞというタイミングで豪快な一撃を放っていく。
「……終わりだ」
「まだ……っ──!?」
砕け散る右手に握った大盾。
振るわれるもう片方の武器を反対の大盾で防ぐが、それもまた破壊される。
だが、フィレルは諦めない。
砕けた大盾を即座に血へ戻すと、一つの巨大な盾とする。
「甲羅に籠もった亀に、いったい何ができると思う」
「さあ、手を出してきた相手に噛みつくことぐらいはできるのでは?」
「……そうか。では、全力で止めを刺そう」
膨大な劉気が武器に籠められる。
これまでで最大の一撃が放たれることを予測し、フィレルは嫌な汗が流れ始めたのを自覚した。
「これで終わりだ──フィレル!」
「いいえ、それはこちらの台詞です!」
武器が盾に迫るその瞬間……再び流動化させ、血をシュリュの周りに展開する。
謀られた、そう考えてしまった隙を突かれて──体に一本の武器を刺されてしまう。
「こ、これは……」
「旦那様の武器が壊れるはずがないでしょうに。“血流袋”で仕舞ってから、ここぞのタイミングまで隠していました」
そこに刺されていたのは『劉殺し』。
異端の劉を殺すためだけに生みだされた、劉の力を取り込んだ武器。
そしてそれは心の臓を貫き、シュリュの仮初の命を一瞬にして奪う。
「……朕の負けであるか」
「シガンさんとやらが見せてくれた逆転劇。わたしも少し熱くなってしまいました」
「そうであるな。チャルが負けるとは、誰も思っていなかった……プレイヤーという存在も、決して弱くはなかったわけだ」
生命力が失われ、ゆっくりと粒子となって消えていくシュリュ。
ただ満足そうに笑みを浮かべ、フィレルに向けて語る。
「朕と……ミシェルの分まで、メルスに勝利してくれ」
「やれるだけのことは、やってみます」
「……ここは、絶対に勝つとでも言ってもらいたかったのだがな」
「旦那様が相手ですから」
そう答えたのと同時に、シュリュは完全に粒子となって舞台から消える。
そして舞台の下に出現すると、最後にこう伝えた。
「そうであっても負けてはならぬ。朕という覇者に勝った其方には、その道を進む運命があるのだ」
「ふふっ、そうですね。頑張ってみます」
≪試合終了! 勝者──フィレル選手!≫
アナウンスが終わりを告げる中、彼女たちは笑い合うのだった。
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