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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と二回戦第二試合 その03
しおりを挟む≪猛攻! 連撃がシュリュ選手を襲っています! 変幻自在の武器が、フィレル選手の動きを読めなくしているようです!≫
実況席からも、フィレルの変化は目に見えるように捉えることができた。
空を駆けるように地を走り、その機動力でシュリュを翻弄しているからだ。
≪劉の血、ですか。吸血鬼は吸った対象で向上する能力値が変化するそうですけど……どれだけ変化するのでしょう≫
≪新鮮であればあるほど、その効果は高まり持続するそうですね。では、武器に使われた血を引き出した場合はどうなのでしょう?≫
≪えっ? そこはメルスさんの技術力で保存されていたはずですし、かなり新鮮なはずですよ。もちろん、シュリュさんから直接貰う方が新鮮だとは思いますけど≫
吸血鬼は一時的に、吸った対象の能力を使うこともできる。
劉の血を吸ったフィレルが使用可能になったのは、ドラゴンたちを統べる帝王としての能力。
……だがそれは通用しないので、ただ劉としての身体能力だけを取り込み、立体機動での戦闘を行っていた。
≪それにしてもシュリュ選手、防戦一方ですが出血だけはしませんね……≫
≪新鮮な血を奪われては、状況が悪化するだけです。今はフィレルさんの動きを把握することに専念しているのでしょう≫
≪シュリュ選手、十字架型の武器でそこまでできるのですね。他の武器ならもっと簡単に防げそうですけど……盾とか≫
十字架の握る場所をコロコロと替え、シュリュは攻撃を捌いていた。
上を握れば突く、殴る、引っ掛けるといったように使用し、横を握れば魔力を弾丸として射出、下を握れば槌のように破壊のエネルギーを解放することができる。
複数の機能を自在に操ることで、フィレルの猛攻を薄皮一枚の傷だけで対処している。
その傷も劉の再生力ですぐに癒えるため、ほぼ無傷の状況であった。
≪シュリュ様は<武芸覇者>というスキルを所持していますので、あらゆる武具をいついかなるときでも万全の状態で振るえます。盾と同じことができれば、どのような武具であろうと構わないのでしょう≫
≪えっと、それと盾を使わないことにどんな意味があるのですか?≫
≪──意味なんて、ありませんよ≫
十字架の横の部分を握り締め、これまでよりも大きな──砲弾程の魔力を放った。
予測していたのかフィレルはそれを大きく距離を取って回避し、闘いは一度振りだしに戻ることになる。
≪もちろん、本当に危機的な状況となれば盾も使いますよ。シュリュさんはそういった判断ができるお方ですから≫
≪で、ではどうして?≫
≪その方が面白くなる、そう考えているからでしょう。今回メルスさんがこのイベントを開いたのも、観客の皆様を楽しませたいと考えたからですし……シュリュさんもそうしたいと思って、使う武器に縛りを設けて闘っているんですよ≫
舞台の上でも、似たような話をしていた。
血をうねらせ、再び武器の形を作り変えながらフィレルは問いかける。
「まだ十字架を使い続けるのですか?」
「うむ。朕はまだ余裕がある故」
「……もう少し、苦戦していただけると、こちらとしてもありがたかったのですが」
自分の方が強い、と言われているように思える発言だ。
だがそこに嫌味などは存在せず、ただただ事実だけを告げている……シュリュの表情はそれを物語っている。
「無論、フィレルは強いぞ。英霊の力のみを使うといっても、それは生前の力を生者が想うように歪めたものだ。劉の力を振るっていると言っても過言ではない」
「……ズルいです」
「あの銀龍ではないが、誇っていい。覇導の劉にここまで言わせるのだから。ミシェルもそうだが、メルスの眷属は生前の朕では苦戦する猛者ばかりだ。其方たちが徒党を組んで朕に挑めば……間違いなく朕は地を這うことになっていただろう」
あらゆる時間軸、場所において神々より恐れられた存在だけが集まった封印の地──終焉の島。
異端者だけが揃うその地に眠る者たちを、彼の偽善者は解き放った。
そんな者たちが協力すれば、間違いなく大陸一つ程度は容易く支配できる。
質においては頂点に近い彼女たちは、数の問題さえ気にしなければほぼ無敵なのだ。
「だが……覇に狂った一度目でも、神の洗脳に狂った二度目でも成せなかった。この三度目の生であれば……あの偽善者に狂う三度目であれば、朕は覇を異なる道で歩むことができる。故に、まだ負けるわけにはいかない」
「それはこっちの台詞ですよ」
「それもそうであったか……」
そして、互いに抑えていたもう一つの力を解放する。
シュリュの背中には漆黒の翼が。
フィレルの瞳孔には縦の亀裂が。
解き放たれたのはドラゴンの力。
英なる劉は龍と辰、先祖返りの始祖吸血鬼には龍──互いに別の力を使いながらも、同じ力を新たに発動した。
「まだ使いたくなかったんですけど……やっぱり、シュリュが相手じゃ仕方有りません」
「朕もだ。この闘いに勝てば、次の相手はあのメルスだ。観衆の批判を買わぬよう、あまり圧倒的な戦闘は控えたかったのだが……そもそも其方が相手であれば、気にする必要もなかったな」
そして互いを求め、一歩踏み出す。
勝利という二文字を、奪い取るために。
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