849 / 2,518
偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と二回戦第二試合 その01
しおりを挟む≪──剣士同士の闘いは終わり、お次はドラゴン同士の闘いとなります! 第二試合……シュリュ選手VSフィレル選手! 異端の劉と異端の龍、果たして勝つのはどちらだ!?≫
舞台に上がったシュリュとフィレル。
互いに内包されたドラゴンの力を高め、目の前に立つ相手をジッと見つめる。
「さっきの試合、どう見た?」
「どう、と言われましても……ただただ凄いとしか言えませんよ」
「うむ、そこは同感である。武芸の覇者である朕ですら、さすがにあの戦闘に関しては意味すら理解できなかった」
才を極めた剣聖と凡を極めた偽善者。
彼らの闘いは剣の頂に届きうる、最高の祈舞となっていた。
理解など必要ない。
舞い踊り鳴り響かせた音だけが、彼らの死闘のたしかな証を示す。
そしてそれは──真の決着を知らせることなく幕を閉じる。
ドラゴンの血を継ぐ二人の女性たちは、視ることはできてもすべてを知ることはできなかった。
「──それで、それがどうかしましたか?」
「剣で闘えば、間違いなく比べられるだろうと思ってな。ただ剣一本だけでは、つまらなくなるだろう」
「なるほど。もっと盛り上げたいと」
「そうである。観衆を喜ばせることも、上の立場の者が行うべき義務であろう」
シュリュは首筋の鱗を一枚剥がし、魔力を注ぎ込む。
すると鱗はグニャグニャと形を変え、真っ黒な武器となった。
フィレルもまた、自身の手首に犬歯を立てて血飛沫を放つ。
地へ滴るはずのソレは天へ向けて伸び、鮮血と同じ紅の武器となる。
「鱗は使わぬのか?」
「前回は始めに龍の力を使っていましたし、今回は吸血鬼の力から使おうかと……」
爛々と真っ赤な瞳を輝かせ、手首から飛びだした血を舐めている。
美しく妖しく舌を動かすその様子は、見る者に『吸血姫』という彼女の異名の一つを納得させるに至るだろう。。
「ならば朕は、片方だけにしておこう……こちらだな」
シュリュの種族『劉族』は、族にして個として成立した異端のドラゴン。
地球における東洋のドラゴン『辰族』と、西洋のドラゴン『龍族』の種族特徴を両方有したシュリュは、それらを自在に発現させることができた。
鹿のような角が二本頭部から生え、魚のような鱗が薄っすらと皮膚に広がっていく。
辰に相応しい姿となって、シュリュは黒い武器を振り回す。
「……というよりそれ、なんだか十字架みたいですね。効きませんからね」
「吸血鬼であれば十字架や聖水。メルスの知識でそれは学んであるのでな。……ならばこれを、この場で使うのがベストであろう」
十字架を模したソレは、鈍器である。
剣の形にもできたのだが、先の闘いもあってただ殴るだけの武器となった。
「なら私も──こうしましょう」
鞭のようにうねっていた血液は、明確な形状を定められて固まる。
……同時に内側から、強力なエネルギーが発せられることにシュリュは気づく。
「嫌な悪寒がするのだが……つい先日感じたように思える、そんな気配が……」
「“血溜袋”。血の中から自在にアイテムを取り出せる魔法ですよ。そして、その中身は当然──」
シュリュは、それを見た途端──叫んだ。
「こんのぉ、メルスがぁぁぁぁぁっ!」
中から現れたのは、禍々しい剣。
真っ黒な鞘に納められたそれは、劉にしか扱えないエネルギーを放出している。
その剣の名は『劉殺し』。
つい先日振るわれたその剣によって、シュリュは苦戦を強いられた。
そして、その剣の製作者こそ──メルスなのであった。
「ミシェルに貸したのだから、私にも貸してくださいと旦那様に申したら貸して頂けましたよ。……何か問題でも?」
「……いや、剣はどうかと思ってな」
「もちろんこうします」
魔力が籠められた剣は、再び血と同じように揺れ動き形を変える。
ハルバードから斧を外したような、槍の穂だけが伸びた棒状の武器となった。
「この武器で、心の臓まで一突きですよ」
「……メルスめ。ここまでして朕を敗北させたいのか。ならば朕も全力で応え、勝利の覇導を引き寄せようではないか」
「まあ、なんと恐ろしい。旦那様にあとで怖かったと慰めてもらいましょう」
「……むう。それはそれで捨てがたいな。だがそれも、勝敗を決してから考えることであるか。劉殺しは絶対ではない。武器に頼っていても朕には勝てぬぞ」
武芸に通じた覇者シュリュ。
十字架型の武器であろうと、それが武器の体裁を保っている限り使いこなす。
相手が握る武器が、自身に絶対的な効果を齎す代物であっても態度は変わらない。
劉を殺す武器であるということは、同時にあらゆるドラゴンを害する武器でもあったからだ。
「朕は英霊と化すことで、其方は吸血鬼としての力を引き出すことで劉殺しは真価を発揮できぬ。先の試合では温存していたが、今回は振るわせてもらうぞ」
シュリュは異端のドラゴンにして、生前の行いから崇められるようになった英なる霊。
メルスによって自在に動かせる生前の肉体が与えられたが、今再び英霊となって彼女は闘いに挑むのだった。
≪特殊ルールは──武技の使用禁止! それでは第二試合……開始してください!≫
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる