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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と二回戦第二試合 その01

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≪──剣士同士の闘いは終わり、お次はドラゴン同士の闘いとなります! 第二試合……シュリュ選手VSフィレル選手! 異端の劉と異端の龍、果たして勝つのはどちらだ!?≫

 舞台に上がったシュリュとフィレル。
 互いに内包されたドラゴンの力を高め、目の前に立つ相手をジッと見つめる。

「さっきの試合、どう見た?」

「どう、と言われましても……ただただ凄いとしか言えませんよ」

「うむ、そこは同感である。武芸の覇者である朕ですら、さすがにあの戦闘に関しては意味すら理解できなかった」

 才を極めた剣聖と凡を極めた偽善者。
 彼らの闘いは剣の頂に届きうる、最高の祈舞となっていた。

 理解など必要ない。
 舞い踊り鳴り響かせた音だけが、彼らの死闘のたしかな証を示す。

 そしてそれは──真の決着を知らせることなく幕を閉じる。
 ドラゴンの血を継ぐ二人の女性たちは、視ることはできてもすべてを知ることはできなかった。

「──それで、それがどうかしましたか?」

「剣で闘えば、間違いなく比べられるだろうと思ってな。ただ剣一本だけでは、つまらなくなるだろう」

「なるほど。もっと盛り上げたいと」

「そうである。観衆を喜ばせることも、上の立場の者が行うべき義務であろう」

 シュリュは首筋の鱗を一枚剥がし、魔力を注ぎ込む。
 すると鱗はグニャグニャと形を変え、真っ黒な武器となった。

 フィレルもまた、自身の手首に犬歯を立てて血飛沫を放つ。
 地へ滴るはずのソレは天へ向けて伸び、鮮血と同じ紅の武器となる。

「鱗は使わぬのか?」

「前回は始めに龍の力を使っていましたし、今回は吸血鬼の力から使おうかと……」

 爛々と真っ赤な瞳を輝かせ、手首から飛びだした血を舐めている。
 美しく妖しく舌を動かすその様子は、見る者に『吸血姫』という彼女の異名の一つを納得させるに至るだろう。。

「ならば朕は、片方だけにしておこう……こちらだな」

 シュリュの種族『劉族』は、族にして個として成立した異端のドラゴン。
 地球における東洋のドラゴン『辰族』と、西洋のドラゴン『龍族』の種族特徴を両方有したシュリュは、それらを自在に発現させることができた。

 鹿のような角が二本頭部から生え、魚のような鱗が薄っすらと皮膚に広がっていく。
 辰に相応しい姿となって、シュリュは黒い武器を振り回す。

「……というよりそれ、なんだか十字架みたいですね。効きませんからね」

「吸血鬼であれば十字架や聖水。メルスの知識でそれは学んであるのでな。……ならばこれを、この場で使うのがベストであろう」

 十字架を模したソレは、鈍器である。
 剣の形にもできたのだが、先の闘いもあってただ殴るだけの武器となった。

「なら私も──こうしましょう」

 鞭のようにうねっていた血液は、明確な形状を定められて固まる。
 ……同時に内側から、強力なエネルギーが発せられることにシュリュは気づく。

「嫌な悪寒がするのだが……つい先日感じたように思える、そんな気配が……」

「“血溜袋ブラッドポーチ”。血の中から自在にアイテムを取り出せる魔法ですよ。そして、その中身は当然──」

 シュリュは、それを見た途端──叫んだ。

「こんのぉ、メルスがぁぁぁぁぁっ!」

 中から現れたのは、禍々しい剣。
 真っ黒な鞘に納められたそれは、劉にしか扱えないエネルギーを放出している。

 その剣の名は『劉殺し』。
 つい先日振るわれたその剣によって、シュリュは苦戦を強いられた。

 そして、その剣の製作者こそ──メルスなのであった。

「ミシェルに貸したのだから、私にも貸してくださいと旦那様に申したら貸して頂けましたよ。……何か問題でも?」

「……いや、剣はどうかと思ってな」

「もちろんこうします」

 魔力が籠められた剣は、再び血と同じように揺れ動き形を変える。
 ハルバードから斧を外したような、槍の穂だけが伸びた棒状の武器となった。

「この武器で、心の臓まで一突きですよ」

「……メルスめ。ここまでして朕を敗北させたいのか。ならば朕も全力で応え、勝利の覇導を引き寄せようではないか」

「まあ、なんと恐ろしい。旦那様にあとで怖かったと慰めてもらいましょう」

「……むう。それはそれで捨てがたいな。だがそれも、勝敗を決してから考えることであるか。劉殺しは絶対ではない。武器に頼っていても朕には勝てぬぞ」

 武芸に通じた覇者シュリュ。
 十字架型の武器であろうと、それが武器の体裁を保っている限り使いこなす。

 相手が握る武器が、自身に絶対的な効果を齎す代物であっても態度は変わらない。
 劉を殺す武器であるということは、同時にあらゆるドラゴンを害する武器でもあったからだ。

「朕は英霊と化すことで、其方は吸血鬼としての力を引き出すことで劉殺しは真価を発揮できぬ。先の試合では温存していたが、今回は振るわせてもらうぞ」

 シュリュは異端のドラゴンにして、生前の行いから崇められるようになった英なる霊。
 メルスによって自在に動かせる生前の肉体が与えられたが、今再び英霊となって彼女は闘いに挑むのだった。


≪特殊ルールは──武技の使用禁止! それでは第二試合……開始してください!≫

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