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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と二回戦第一試合 その03

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 再度剣戟が繰り広げられる。
 片腕を取り戻す代償に魔力を大きく減らしてしまったメルスは、未来視の能力と反射神経強化の魔法によって先読みを行う。

 鋭い獣聖剣の一撃を、構えられた聖剣が受け止める。
 だが、反撃はなく再び獣聖剣が聖剣を砕こうと振るわれていく。

 防戦一方。
 何度も何度もぶつけられるが、決して体勢は崩れない。

「……“防剣ブレードガード”」

 発動していた武技の効果が失せたので、再度防御能力を上げる武技を発動する。

 反射神経による先読みは、あくまで捉えられる範囲でしか剣を視ることができない。
 同時に使用している反射眼もまた、認識していない攻撃には反応しない。

「未来視って、厄介だよなー。だんだん追いつかなくなってきた……」

「それでも、致命傷は避けてるわね」

 メルスの体には、あらゆる所に小さな傷ができている。
 薄皮一枚剥がされるようにして、獣聖剣による斬撃跡が刻まれていた。

 致命傷が無いのは、単純にそれを避けようと動いたからだ。
 回復するために必要な魔力量が最低限な部分だけを見抜き、あえてその場所で攻撃を受けて戦闘を続行している。

「少し溜まったな──“身体強化”」

 スキルとしての(身体強化)を発動し、剣への反応速度をより高める。
 捌ききれなかった獣聖剣へ、聖剣がより重なるようになった。

 剣と剣が絡み合い、甲高い音が響きあう。
 魔力が肉体を循環し、人間の限界を超えた動きを起こす。

「……“隼鹿シュンカ”」

 ついにティルエは武技を発動する。
 横に払われた斬撃が、鋭い速さで飛ぶ。
 聖剣を振るい剣を当てようとすると、斬撃は跳ねるようにして聖剣を避ける。

「“勝利を齎せ”」

 体に取り付けた聖剣を抜くと、魔力を籠めてそう叫ぶ。
 すると一人でに聖剣が動きだし、避ける斬撃を自動で迎撃する。

 ──『フラガラッハ』
 抜く意思だけで鞘から抜け、敵に投げれば剣自身が敵を倒す伝承を持つ聖剣だ。

「あんまり魔力燃費がよくないから、使わせないでほしいんだけどな」

「あら、剣聖を超えるんでしょ? それぐらい乗り越えてみなさいよ」

「……自分で剣聖を名乗るなんてこっぱずかしいこと、俺には無理かな?」

「…………“獣王武迅ジュウオウムジン”」

 剣戟の勢いが急速に高まる。
 内に秘めた闘志が爆発し、獣聖剣に乗せてメルスへぶつけていく。

 先ほど引き抜かれた聖剣も対処に参加するが、それでも体に刻まれる傷の数が少しずつ増加していった。

「──まっ、これで溜まったけどな」

「ほんっとうに厄介ねっ!」

「【忍耐】にはダメージを受ければ回復する効果があるんだよ──“舞い踊れ”!」

 自動的に鞘に収まったフラガラッハの代わりに、再び纏った聖剣の一本を引き抜く。
 そして発動した聖剣の効果により、数十枚の刃が場に飛び散る。

「第一段階……完了。超えてやるよ、剣聖様よ──“斬撃スラッシュ”」

 空を舞うすべての刃に、気のエネルギーが籠められる。

 ──『クラウ・ソラス』
 いくつもの伝承を宿すこの聖剣は、己の剣身をその伝承同様にその刃を無限に増やす。
 光の刃、その概念を宿す剣が世界に存在する限り、その剣は延々と増殖する。

「元は一本の剣が元だから、同時に武技が一度に籠められる……燃費は悪いけどな」

「燃費が悪い武器ばっかりじゃない」

「そりゃあ、聖剣に認められてないんだから仕方ないだろう」

 かつては【聖具使い】という職業に就いていたメルスだが、今はそれを失っている。
 それと同時に、聖剣などの総称──聖具すべてへの適性も失い、その使用には膨大な量の魔力が必要となった。

「……まあ、とにかくゴー!」

 剣身だけとなったクラウ・ソラスが、ティルエに向けて飛んでいく。
 四方八方あらゆる角度から飛び立った刃は舞い踊り、猛攻を仕掛けていった。

「けど……私がその程度で倒せるなんて思ってないわよね?」

「ん? まあ、そうだよな」

 縦長に瞳孔が伸びた猫の瞳で、ティルエはそのすべてを見切っていた。
 刃の軌道を読み取ると、猫獣人特有のしなやかな動きでそれを躱し、軌道に合わせて獣聖剣を当てていく。

 そのたびに、刃は破壊されていった。
 抵抗など許されず、“斬撃”のエネルギーなど存在を認められず──掠るだけで。

「けど、時間稼ぎはできるだろ?」

「それもどうかしら? “鷲蜀シュウトウ”」

 再度振るわれた斬撃。
 力強く踏み込んで放たれた一閃が、先ほどの“隼鹿”のように刃に追いかけていく。

 刹那の内にバラバラにされる刃。
 まがい物の担い手が振るう、偽りの聖剣が放った一撃では攻撃にもならなかった。

「早いな……“身体強化ストレングス”」

 ついに、魔法による身体強化を行えるまでに魔力が回復する。
 同時に回復魔法を無詠唱で唱え、断たれていた体の筋を修復していく。

「まったく、呆れたものだわ。せっかく早く終わらせてあげようと、暗技まで使って筋を切っておいたのに……どうして動けたの?」

「簡単だ、痛覚を遮断して糸で繋いで無理に動かしてただけだぞ」

「……本当に呆れたわ」

 目的のためなら、手段は厭わない。
 剣聖を凡人が超えようとするならば──その対価は、命まで及ぶ。

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