上 下
844 / 2,519
偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と二回戦第一試合 その02

しおりを挟む

 黄金の聖剣と白い獣聖剣がぶつかり合う。
 互いに火花のように剣圧が散らされ、バチバチと雷のように舞台へ降り注ぐ。

≪凄まじい闘いです! なんだか剣だけの闘いであれば、これが決勝戦ですよ!≫

≪ティルさんは剣だけに特化してますし、こういう闘いにしかならないんですよね≫

≪創造者は最初、転移眼での回避を目論んでいましたが……今回のルールによってそれが防がれていました。やはり、縛りが戦闘に影響を及ぼしています≫

 実況たちもその様子を観て、詳細を観客たちへ伝えていく。
 特に大切なのは、ルーレットによるランダムで決められた特殊ルール。

 今回選ばれた転移禁止によって、緊急回避の手段が封じられたメルス。
 すると一撃必殺の剣撃への対処法は、かなり減ってしまうわけで……。

≪転移系の能力、ということですが……普通転移の能力は一つあるだけでも、優遇される存在ですよね?≫

≪はい。魔人族の中でも空間属性の能力保持者は珍しく、主に軍事目的で重用されることが多かったですよ≫

≪開発者は……あっ、言わなくて結構です≫

≪なんですか、その『あ』って、わ、私だって空間魔法は使えるんですよ!≫

 その言葉こそ、マシューが口を噤んだ理由でもあったのだが……若干興奮気味のリュシルには、気づくことができない。

≪あ、あの軍人、何が『学者風情が、我々の崇高な勅命の邪魔をするな!』ですか! 私が少し軍機を読もうとしただけなのに……あの人、目が厭らしかったんですよ! メルスさん、慰めてくださいよ!!≫

≪開発者、落ち着いてください。それは過去のことですし、創造者は現在ティル様と剣の頂を決める闘いをしていますので……それはまた、別の時間に≫

≪そ、それより皆さん! 舞台の上にご注目ください!≫

 舞台の上では、未だ剣戟が続いている。
 舞い踊るように剣がぶつかり合い、ウィーとの試合で見せたような、剣による音楽が奏でられている。

≪メルス様とティルエ選手、剣の実力にどれくらい差があるんですかね?≫

≪圧倒的ですよ。創造者は他者を真似ることで腕を磨いてきています。剣技に関してもそう、そしてその基礎となっているのはティル様の剣技です≫

≪私たち眷属も、いつからか色んな武器を使えるように鍛えていますけど……剣だけは絶対にティルさんに敵わない、そうみんな認めています≫

 眷属の中には、武の覇者や摸倣に特化した戦狂いなども存在する。
 だがそんな者たちであろうと、ティルエの技量を超えることができないでいる。

 ──剣を愛し、剣に愛された剣の申し子。
 彼女を剣のみで倒すことは、かつて騙し討ちでメルスが成功しただけだ。

≪今回メルスさんは、剣の総量と性能で勝とうとしていますね。剣の腕では勝つことができませんので──質ではなく量、それも押し切れないほどの数で勝つつもりでしょう≫

≪ただ、それでどうにかなるティル様でもないでしょう……≫



 その言葉が伝わったかのように、舞台上でも変化が起きる。

「……マジ、かよ」

「転移がないと、メルスの剣筋も読みやすいわよ。未来が視えるのは貴方だけじゃないのだし」

「ボイオティアの大山猫リンクス……」

「神眼より、性能は劣っているけど……軌道が読めればそれで充分よ」

 どんな物でも見透かす視線を、古代の人間は『ボイオティアの大山猫』と称した。
 そしてその獣人であるティルエには、伝承になぞられた瞳が宿っている。

 互いに未来を視る瞳を使い、剣と剣を交えてきた……が、ここで変化が起きる。
 軌道を読んで剣を振るっていたメルスだったが、突然軌道が予測できないほどに激増すると、視界を埋め尽くすまでに線が出現したのだ。

 とっさに未来眼の発動を止めたものの、それは彼女にとって絶好の隙となり──

「腕一本、貰ったわね」

 メルスの右腕は肩から切り落とされた。
 接着による再生を防ぐため、それはさらに細切れにされてしまう。

 だがメルスは、肩に左手を当てて──

「……“肉体復元レストレーション”」

「あら、残念」

「容赦なく利き腕を奪うかよ。それが主様にやることか……」

「腕を生やせる主様なんだから、全力で倒してあげるのが筋ってものでしょ?」

 即座に腕を復元したメルスではあるが、魔力の消費が著しかった。
 剣に籠める分の魔力保持もあるため、自然回復する魔力量を一時的に上回ってしまう。

「しばらくは先読みも無し、それで私から逃れられると?」

「そりゃあ、やってみないと分からないじゃないか──“虫ノ目インセクトアイ”」

 魔力燃費の良い魔術、そして反射眼を併用することに決めたメルス。
 先の先を読むのではなく、後の先を読むことで時間を稼ぐことを選んだのだ。

 そして剣を横に構え、武技を発動する。

「──“防剣ブレードガード”」

「……捌き切れるとでも?」

「できるかどうかじゃなくて、やるんだよ。ただティル、言っておくぞ……剣聖を超えられたら、なんかかっこよくね?」

 一瞬硬直するティル。
 メルスが何を言っているのか、頭で理解していても認識できない。

「……呆れたわね」

「けど、そう思わないか? 嵌め技で勝ったあのときと違って、今ならそう宣言してやるよ──世界最強の名の次は、剣聖の名も奪ってやるってな!」

「順番が逆じゃない。でも……それはとっても面白いわね」

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

World of Fantasia

神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。 世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。 圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。 そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。 現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。 2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。 世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。

パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。

荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品 あらすじ  勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。  しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。  道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。  そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。  追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。  成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。  ヒロインは6話から登場します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

処理中です...