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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と二回戦第一試合 その01
しおりを挟む「──来たわね、メルス」
「……ああ、来たよ」
舞台の上に向かってみれば、すでにそこでティルが待ち受けていた。
腰にはやはり、聖剣を携えていて……難易度が極モードだよ。
「あの手この手、いろいろな策で負けてきたけど……今回ばかりはそうもいかないわ。全力を以って、私が勝つ」
「そう、肩肘張らなくてもいいのに。世の中気楽に生きてた方が楽しいぞ? ほら、だからティルもリラックスリラックス」
肩でも揉もうと近づくのだが、邪念を読まれたのか尻尾がビシンと地面を叩く。
「……そうもいかないわ。メルスを倒してようやく、リラックスできるのよ」
「俺を倒してもソウとかがいるぞ」
「どうとでもなるわ。それより目の前に、本気で倒さないといけない相手がいる」
抜身の剣のような、鋭い威圧がティルから放たれる。
それ自体で俺は竦まないが、風のように飛ばしてくる威圧が俺の肌を切り裂く。
「あ、あの……今の技は?」
「眼力だけで斬撃って放てるのね。いつの間にか習得してたわ」
このタイミングでパクるのはさすがにどうかと思い、能力の摸倣だけ行うと決めて俺も対抗する。
(──“防刃結界”)
剣系統の攻撃をほぼ無効化する結界で、威圧を緩和する。
ティルの斬撃そのものを防ぐことは確実に不可能だが、眼力で放つ意志の斬撃であれば防ぎ切ることが可能だ。
「これぐらいで倒せる、なんて思ってるわけないよな?」
「当然よ。これで皮膚に傷を付けられる、その事実が欲しかったのよ」
「……へえ、そりゃあ楽しみだ」
そろそろ無防備な状態だと不味いので、右手を伸ばして“空間収納”をその先へ展開。
そこから武具の取りだすと、体に張り付けるようにして装備しておく。
「そんなに体中に武器を付けて……私には抜けないとでも思っているの?」
「そこはまあ、俺以外に使えないように設定してあるからな。相手の武器を奪い合うって言うなら、俺も本気で獣聖剣を奪おうとするけどいいのか?」
「っ……! そうね、フェアじゃないわね」
特殊な保護があって奪いようがないが……あくまで三割の状態では、という話だ。
全力全開でやれば相手の心臓を直接抜き取るぐらい、容易く実行できるようになる。
俺の武器を奪われるくらいなら、これくらいの脅しをしておかないといけない。
心を読む相手にブラフとはあれだが、ただティルも純粋に決着をつけたいだけだし……分かっていてそうしてくれているのかもな。
「雌雄を決そうか! 俺が勝つか、ティルが勝つか! どちらが勝とうと敗者に文句を言う権利はない!!」
「そうね……【獣剣聖姫】の名に懸けて、絶対に勝つと宣言する!」
「俺は紛い物だが、互いに剣神の加護を授かる身……この戦いを神に捧げよう」
いつまで寝ているか分かったもんじゃないが、剣舞の奉納で少しは活性化してくれればいいな……。
その才能から祝福を与えたであろうティルと、マーキング用に加護を与えられた俺。
理由はともかく、何らかのパスが繋がっている以上、可能性はゼロではない。
≪では、今回の特殊ルールを決めるルーレットを回します……スタート!≫
スクリーンに表示された矢印がグルグルと回転し……
≪ポチッと!≫
軽快な音が鳴ると、ゆっくりとその回転速度を落としていく。
やがてその回転が終わり、矢印が指し示す場所が分かると……ホウライがそれを読み上げる。
≪──それでは二回戦第一試合、メルス選手対ティルエ選手。特殊ルールは転移系の能力使用禁止。それでは、始めてください!≫
そして、その言葉で剣舞は始まった。
◆ □ ◆ □ ◆
剣士の頂、剣技の果てを見た者──それこそが剣聖。
職業として存在する【剣聖】は、あくまでその資格を有する証明でしかない。
真の剣聖とは、圧倒的な才能と果てしない努力の果てにそれを自ずと得て、弛まぬ剣の修練を経ることで剣技を修める。
剣聖が放つ芸術的とも言える鮮やかな一閃は、斬るものを自在に選ぶことができるともされていた。
片やその才を持ち、次元を斬り裂くまでに剣技を磨き上げた獣人の剣聖。
片や他者を真似、未知を切り開くまでにその力を偽り続けた異世界の凡人。
そこに比べられるだけの力などない。
比肩するのもおこがましい程に、両者の剣技の腕に差が存在する。
「“永劫たれ”!」
メルスが叫ぶと、握られた聖剣が眩く光りだす。
──『聖剣デュランダル』
不滅の刃という意味を持つその剣は、いついかなる状態においても決してその剣身を曇らせることがない。
「“轟雷斬撃”!」
膨大な量の魔力が籠められ、荒れ狂う雷がそこへ宿る。
死角へ一瞬で移動し、ティルエへ向けて一閃を放つメルスだった……が、その先には聖剣が阻むように置かれていた。
「隙なんて、あるわけないじゃない!」
「ま、不味──ッ!」
ごく自然な動作でティルエは剣を弾き、構え、振るった。
聖なる煌めきが燐光のように剣身を纏い、斬撃と共にメルスへ飛んでいく。
とっさに転移眼を使用しようとするが、発動しないことを思いだし──背中に背負った一本の剣を取りだす。
「──“光り輝け”!」
黄金の奔流が抜き去った剣から溢れ出し、斬撃と共に放たれた。
それらはティルエの放った斬撃とピッタリ噛み合い──相殺される。
剣聖と凡人を剣の腕だけで比べれば、そこには勝ち目など見ることもできない圧倒的な差が存在する。
だが、勝敗を決めるのは剣の腕だけではない……凡人の抗いは、世界最強の龍を殺すまでに執念深く、どこまでも続く。
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