上 下
843 / 2,518
偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と二回戦第一試合 その01

しおりを挟む

「──来たわね、メルス」

「……ああ、来たよ」


 舞台の上に向かってみれば、すでにそこでティルが待ち受けていた。
 腰にはやはり、聖剣を携えていて……難易度が極モードだよ。


「あの手この手、いろいろな策で負けてきたけど……今回ばかりはそうもいかないわ。全力を以って、私が勝つ」

「そう、肩肘張らなくてもいいのに。世の中気楽に生きてた方が楽しいぞ? ほら、だからティルもリラックスリラックス」


 肩でも揉もうと近づくのだが、邪念を読まれたのか尻尾がビシンと地面を叩く。


「……そうもいかないわ。メルスを倒してようやく、リラックスできるのよ」

「俺を倒してもソウとかがいるぞ」

「どうとでもなるわ。それより目の前に、本気で倒さないといけない相手がいる」


 抜身の剣のような、鋭い威圧がティルから放たれる。
 それ自体で俺は竦まないが、風のように飛ばしてくる威圧が俺の肌を切り裂く。


「あ、あの……今の技は?」

「眼力だけで斬撃って放てるのね。いつの間にか習得してたわ」


 このタイミングでパクるのはさすがにどうかと思い、能力の摸倣コピーだけ行うと決めて俺も対抗する。


(──“防刃結界”)


 剣系統の攻撃をほぼ無効化する結界で、威圧を緩和する。
 ティルの斬撃そのものを防ぐことは確実に不可能だが、眼力で放つ意志の斬撃であれば防ぎ切ることが可能だ。


「これぐらいで倒せる、なんて思ってるわけないよな?」

「当然よ。これで皮膚に傷を付けられる、その事実が欲しかったのよ」

「……へえ、そりゃあ楽しみだ」


 そろそろ無防備な状態だと不味いので、右手を伸ばして“空間収納”をその先へ展開。
 そこから武具の取りだすと、体に張り付けるようにして装備しておく。


「そんなに体中に武器を付けて……私には抜けないとでも思っているの?」

「そこはまあ、俺以外に使えないように設定してあるからな。相手の武器を奪い合うって言うなら、俺も本気で獣聖剣を奪おうとするけどいいのか?」

「っ……! そうね、フェアじゃないわね」


 特殊な保護があって奪いようがないが……あくまで三割の状態では、という話だ。
 全力全開でやれば相手の心臓を直接抜き取るぐらい、容易く実行できるようになる。

 俺の武器を奪われるくらいなら、これくらいの脅しをしておかないといけない。
 心を読む相手にブラフとはあれだが、ただティルも純粋に決着をつけたいだけだし……分かっていてそうしてくれているのかもな。


「雌雄を決そうか! 俺が勝つか、ティルが勝つか! どちらが勝とうと敗者に文句を言う権利はない!!」

「そうね……【獣剣聖姫】の名に懸けて、絶対に勝つと宣言する!」

「俺は紛い物だが、互いに剣神の加護を授かる身……この戦いを神に捧げよう」


 いつまで寝ているか分かったもんじゃないが、剣舞の奉納で少しは活性化してくれればいいな……。

 その才能から祝福を与えたであろうティルと、マーキング用に加護を与えられた俺。
 理由はともかく、何らかのパスが繋がっている以上、可能性はゼロではない。


≪では、今回の特殊ルールを決めるルーレットを回します……スタート!≫


 スクリーンに表示された矢印がグルグルと回転し……


≪ポチッと!≫


 軽快な音が鳴ると、ゆっくりとその回転速度を落としていく。
 やがてその回転が終わり、矢印が指し示す場所が分かると……ホウライがそれを読み上げる。


≪──それでは二回戦第一試合、メルス選手対ティルエ選手。特殊ルールは転移系の能力使用禁止。それでは、始めてください!≫


 そして、その言葉で剣舞は始まった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 剣士の頂、剣技の果てを見た者──それこそが剣聖。
 職業として存在する【剣聖】は、あくまでその資格を有する証明でしかない。

 真の剣聖とは、圧倒的な才能と果てしない努力の果てにそれを自ずと得て、弛まぬ剣の修練を経ることで剣技を修める。
 剣聖が放つ芸術的とも言える鮮やかな一閃は、斬るものを自在に選ぶことができるともされていた。

 片やその才を持ち、次元を斬り裂くまでに剣技を磨き上げた獣人の剣聖。
 片や他者を真似、未知を切り開くまでにその力を偽り続けた異世界の凡人。

 そこに比べられるだけの力などない。
 比肩するのもおこがましい程に、両者の剣技の腕に差が存在する。

「“永劫たれ”!」

 メルスが叫ぶと、握られた聖剣が眩く光りだす。

 ──『聖剣デュランダル』
 不滅の刃という意味を持つその剣は、いついかなる状態においても決してその剣身を曇らせることがない。

「“轟雷斬撃ライトニングブレイク”!」

 膨大な量の魔力が籠められ、荒れ狂う雷がそこへ宿る。
 死角へ一瞬で移動し、ティルエへ向けて一閃を放つメルスだった……が、その先には聖剣が阻むように置かれていた。

「隙なんて、あるわけないじゃない!」

「ま、不味──ッ!」

 ごく自然な動作でティルエは剣を弾き、構え、振るった。
 聖なる煌めきが燐光のように剣身を纏い、斬撃と共にメルスへ飛んでいく。

 とっさに転移眼を使用しようとするが、発動しないことを思いだし──背中に背負った一本の剣を取りだす。

「──“光り輝け”!」

 黄金の奔流が抜き去った剣から溢れ出し、斬撃と共に放たれた。
 それらはティルエの放った斬撃とピッタリ噛み合い──相殺される。



 剣聖と凡人を剣の腕だけで比べれば、そこには勝ち目など見ることもできない圧倒的な差が存在する。
 だが、勝敗を決めるのは剣の腕だけではない……凡人の抗いは、世界最強の龍を殺すまでに執念深く、どこまでも続く。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...