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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と一回戦第八試合 前篇
しおりを挟む≪第一試合もついに最後となりました……第八試合、間もなく開始となります!≫
盛大に騒ぐ観客たち。
入場チケットで観戦できる試合は、これが最後なのだ。
ギリギリまでテンションを絞り、これから始まる試合を待ち望む声を張り上げる。
「……やれやれ、困ったものだな」
そんな様子を舞台の中で見て、赤髪の女性は苦笑する。
「すまないな、こちらの民たちがあのようにはしゃぎ。少々やかましいだろう」
「そうでもねぇさ。うちのお姫さまだって、似たように騒いでんだ。それだけで、アイツの口車に乗った甲斐があるってもんだよ」
「そうか……ご主人がすまないな」
女性に受け答えするのは狼人の男性だ。
頭部に生えた狼の耳がピクピクと動き、会場のどこかに居る赤ずきんを被った少女が叫ぶ声を耳にしている。
≪──第八試合はフェニ選手VSヴァーイ選手! 死と再生の象徴である不死鳥と、あらゆる物を喰らう貪食な狼さんだ!≫
≪なお、フェニ様の特殊なスキルは試合ごとに一度リセットされます。自傷行為でのみ発動し、ヴァーイ様の攻撃ではいっさい発動しません≫
アンから特別なルールが告げられる。
死と再生を司るフェニックスには、死を引き金とした反則ギリギリの能力が存在した。
死をトリガーとして発動するその力が、試合中に発動しては試合が成立しなくなる。
そのため今回は自傷のみでしか発動しないよう、主催者が細工を施していた。
「なんと、我の利点を削ぎにくるな。これは厄介な試合になりそうだ」
「なんだ、そのスキルって?」
「さてな。知りたければ、自身で暴いてみるのがいいだろう」
フェニのあからさまな挑発に、ヴァーイはあえて乗って頬を釣り上げる。
そんな表情でも美丈夫は美丈夫なため、どこかで怨嗟の念が送られ始めた。
≪それでは──試合開始!≫
フェニは腰に携えた剣を引き抜き、ヴァーイに向けて構える。
白と黒の炎をモチーフとした、禍々しくも美しさを感じさせる片手剣だ。
「聖魔剣レーヴァティン……これですべてを燃やし尽くそう」
「へっ、面白ぇ──全部喰ってやるよ!」
ヴァーイは両手に魔力を籠め、複数の属性で構築された魔力の爪を伸ばす。
喰らったものすべてを糧にし、自らの力とする彼は喰べれば喰べるほど成長する。
炎だろうが概念だろうが関係ない。
両手を重ね、祈るように目を閉じ──
「イタダキマス」
そして、ヴァーイはフェニに向かって飛びだしていく。
同時に詠唱を始め、牽制を行う。
「“紅蓮大蛇”」
「──“瀑布”」
フェニは剣を払うように振る。
すると、剣身から白い炎が生まれ──形を変えて巨大な蛇と化す。
大蛇は地を這うように移動し、ヴァーイの体に噛みつこうとするが……天から大量の水が降り注いでいく。
「“紅蓮獅子”」
「チッ、おらぁっ!」
フェニの剣身が黒い炎を生みだし、それが獅子の形を成してヴァーイを襲う。
魔力を練り上げる時間が足らず、水魔法による対処ができなかったヴァーイ。
代わりにその時間で爪に籠めた魔力を強化し、武技を放つ。
「──“水虎爪”!」
水属性を纏った狼の爪が、紅蓮の獅子に向けて放たれる。
虎のように力強く振るわれた剛爪は、引き千切るように獅子をバラバラにする。
「今度は俺の番だ──“黒蛸の泡沫”!」
フェニに向けて黒い泡が飛んでいく。
とっさに燃やそうとするフェニだが、もっとも近くに来たシャボンが割れ、起きた現象に気づき逃れようとする。
「遅ぇ──“火球”」
「くっ、これはまず──」
ヴァーイが放った火の玉とシャボン玉がぶつかると……泡の中からガスが飛び出る。
それらは舞台に充満し、大気中を漂う。
「おっと、火は使わねぇ方がいいぞ。ただのガスじゃねぇ、火に纏わりつく毒ガスだ」
「……毒か。あまり味わったことの無い死に方になっただろうな」
「アンタがフェニックスだって聞いたとき、この作戦を思いついたよ。これなら自殺で燃えることもできねぇ……そうだろ?」
フェニックスは蘇る度に強くなる。
どれだけ殺そうと触媒があれば蘇ってしまうため、相手取る必要がある場合は触媒をその場から消し去らなければならない。
ヴァーイはそれを、特殊な泡沫を用いることで達成した。
炎を生みだせないように細工し、強化されることを防いだ。
「──と思っているのか? 通常のフェニックスであれば、それで終わっただろう。……だが、我はあのご主人に仕えているのだ。そう簡単に終わりはしない」
フェニはそういって、片手を天に翳す。
その手の薬指には指輪が嵌められており、彼女はそこへ魔力を流し込む。
「知っているか? 泡は、水で洗い流せるのだぞ──“瀑布”」
フェニはあえて、ヴァーイと同じ魔法を行使する。
天から大量の水が降り注ぎ、残っていた泡や大気中のガスをすべて洗い流していく。
「──では、ラウンド2と行こうか」
「……上等じゃねぇか」
面白くなりそうだ。
ヴァーイはそう感じ、ペロリと唇を舐めるのだった。
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