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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と一回戦第七試合 中篇
しおりを挟む「“肉体変質”!」
槍を地面に突き刺してそう叫ぶと、自身の肉体に新たな因子を取り込む。
龍の咢は色を変え、七色の輝きを放つ。
翼は逆さまに反転し、風を地面に押し付けるような形となる。
「──“炎龍の息吹”」
「無駄だ。耐火性など、当の昔から習得させている!」
「まだだ──“氷龍の息吹”」
龍の咢が反対側の手にも現れ、炎と氷を伴う力の奔流がアンデッドへと放たれる。
聖属性の耐性を完璧に仕上げることは、想定の範囲内だった。
だが、すでに整えられた炎に対する耐性であれば──99%で納得してしまった耐性であれば──影響を及ぼすことができる。
すでに息吹そのものが、アンデッドを倒すだけの威力を誇ることは確認済みだ。
息吹を浴びたアンデッドは消滅、そしてその周りにアンデッドは──数刻の間のみ、その身に火を纏う。
「火の耐性であれば、聖属性とは異なり隙ができる。浄化と違い、純粋な炭化までなら可能だ。そしてそこへ、対となる属性で息吹を放てば──こうなるわけだ」
「っ……! くそ、厄介な!」
息吹の影響内に居たアンデッドたちは、すべて氷漬けにされていた。
それらはすぐに砕け散り、淡い光となって大気に舞い散っていく。
「聖気であればこそ、完全な耐性を与えられたのだろうな。己と同一の聖気であったが故に、聖属性は無効化された。……ならば、それ以外で超えてみせよう。持ちうるすべてを可能な術で倒そう。ネロ、己の道の前に伏してくれないか?」
「そうはいかぬ──来い!」
再び地面に魔法陣が現れ、中から巨大な生物が飛びだしてくる。
死臭を放つ腐りかけのドラゴン。
封じられたはずの空を自在に舞い、会場中におどろおどろしい声を届かせる。
「……飛べるのだな」
「吾が優位となる術を、封じるとでも? 識別式の魔法に決まっているだろう」
次々と現れる亜竜のアンデッドたち。
同時に対処されないよう、円を描くように宙を舞っている。
「吾を直接狙わなければ、決して勝てないのではないか? まあ、たとえそうしても勝ち目はないのだがな」
「そう思うか? では、言おう──それが貴様の限界だ! ふっ、言えて良かった……」
満足げな表情を浮かべるクエラム。
一方、某有名な台詞で挑発されたネロはあきれた表情で能力を発動する。
「──“死霊空間”」
自身の固有スキル【不死魔王】の能力の一つ──“死霊空間”。
死を司る魔王の世界が、この舞台に具現化していく。
闇色のオーラがすべてのアンデッドを包み込み、さらなる力を身に宿す。
ドラゴンの咆哮が衝撃を生み、クエラムの服を靡かせる。
「あらゆる属性の耐性を強化、能力値も大幅に上昇する。肉体修復も高速化……息吹一発で消滅できるとは思うなy──」
「では試そう──“聖炎龍の息吹”」
二つの咢が聖なる炎を噴きだす。
白い炎は全域に解き放たれ、すべてを燃やし尽くそうと盛っていく。
「これであったか? 無駄無駄無駄ッ!」
だが、炎は少しずつ闇色のオーラによって掻き消されていく。
ネロはその様子を見て、先のクエラム同様に有名な台詞を吐いて嘲笑する。
「死が生であり生が死となるこの場所で、聖が邪を超えると思うな! 行け、あの者をこの場から退場させてやれ!」
「一瞬、通用していたな」
「?」
理解不能、そんな顔をネロが浮かべる。
クエラムはその表情を見て、なお意見が正しかったと笑いだす。
「効いていただろう? 己の一撃が。再生する肉体が失われ、受け止める器が崩壊すれば魂は定着できぬ。──“肉体変質”」
そして、再度肉体を作り変える。
体の至る所から、龍の咢が生まれる。
すべてが真っ白に透き通ったドラゴン。
極限まで聖属性の力を有した、己の力を完璧な形で通すために改変された聖なる龍。
「空間も死霊も何も関係ない。己はすべてを破壊しよう。──“聖龍の息吹・透”」
それらはいっせいに息吹を吐きだす。
闇色のオーラなど関係ない、世界を己と同じ白に塗り潰そうと侵蝕を行う。
≪──何も、何も見えません! どうにかしてこの現象が見たいです!≫
≪……今、フィルターをかけます≫
舞台と観客席を遮る結界に一瞬魔法陣が浮かび、閃光の色を柔らかく抑える。
そこに映しだされたものは、浄化という名ばかりの殲滅。
≪……あの、浄化なんですよね?≫
≪いささか威力が強すぎますがね。聖龍の因子を肉体のあらゆる所に注ぎ込み、360°すべてに息吹として解き放つ。そこに死者への弔いはなく、知覚することのない慈悲を与えるのがあの浄化です≫
安らかに天へ昇らせることも、何も気づかせることなく死なせることも同じ浄化と定義できるだろう。
クエラムのそれは、まさに慈悲の一撃とも言えよう。
肉体を、存在を、概念をこの世から完全な形で消滅させることで、魂を柵から解放したのだから。
「──ふっ、これが己の力だ。そろそろ自身で闘うべきではないか?」
「吾は、後方支援が性に合うのだがな……」
そう言いつつ──拳を構えるネロ。
クエラムもまた刺した槍を再び抜き、近接戦闘の準備を整えていった。
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