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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と一回戦第七試合 前篇

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 第七試合はすでに始まっていた。

 舞台の上を埋め尽くす、膨大な数の死兵。
 これらを一人の女性が破壊し、反対側で佇む女性の元へ向かおうとしている。

 そのどちらも、透き通るような輝く白髪を靡かせていた。

≪──第七試合、ネロマンテ選手VSクエラム選手は大盛り上がり! 今大会初の数で勝負を挑むネロマンテ選手に、クエラム選手の一騎当千が輝いてみえる!≫

≪並ぶアンデッドも、決して弱いわけではございません。聖獣としての力を振るうクエラム様の影響で、掠っただけで浄化されているのです≫

 巨大な両手槍を握り締め、クエラムはアンデッドたちを薙ぎ払う。
 槍まで延びたクエラムの聖気が、振るわれる度に波打つようにして飛んでいく。

「クエラム、やるではないか。聖獣の王とはここまでの聖気を操るのか」

「ネロも、これだけの数のアンデッドを呼び起こせるのか……何人殺めたのだか」

「こ、これは違うぞ・・・・・・! あくまで、スキルで創造したものだ!」

 どこかで聞いているであろう誰かに伝えるように、慌てて大きな声で叫ぶネロマンテ。
 本気でそうは思っていなかったのか、その反応を見てクエラムはクスリと笑う。

 また、その様子を見て謀られたと知ったネロマンテは、若干病的なまでに白い顔を赤らめ、ゴホンと咳をする。

「で、では小手調べは終わりだ。行け、吾が死兵たちよ!」

 アンデッドたちから散漫とした動きが消えると、兵隊らしい統率された動きを行ってクエラムを攻め始めていく。
 クエラムもまた槍を振るうのだが、決して緩まない攻撃に苦戦する。

「仕方ないか──“肉体変質”」

 その言葉で、クエラムの背中から白い皮膜のような翼が生えた。
 それをはためかせ空に舞うと、続いて右手が龍の咢のようなものに変化する。

「一掃しよう──“聖龍の息吹ホーリードラゴンブレス”」

 膨大な量の聖気と魔力が降り注ぐ。
 魔法を使えるアンデッドたちが、空に向けて闇属性の防御魔法を使おうとするが……すでに遅かった。

「その程度のアンデッドなど、聖獣である己にとっては土芥に等しい。今後に取っておこうとすれば、ここで敗北することになるぞ」

「……そのよう、だな。ならば、吾も少しは本気を出そうか──現れよ!」

 ネロマンテの叫び声に呼応し、新たなアンデッドたちが生みだされた魔法陣より召喚される。
 先ほどまでも内包された魔力量の多い──白い髪のアンデッドたちだ。

「聖骸、であったか? メルスが名付けた聖気を帯びたアンデッド。本質がアンデッドであれば、吾にできないことなどない! やってみせたわ、生みだしてみせたわ! 聖なる力を克服した新たなアンデッドを!!」

 試しとばかりに、クエラムは龍の咢から細い聖気の息吹を発射する。
 龍の力を直接浴びたアンデッドは崩壊するものの、周りの聖気の余波を受けた者は平然と佇んでいた。

「龍の息吹ならば、壊せそうだな」

「ふんっ、油断しただけだ。ただ直立するだけの人形に当てて満足するだけでは、何もできないぞ──さぁ、進軍せよ!」

 アンデッドらしい緩慢な動きで、クエラムの元へ向かう戦闘兵たち。
 構える武器は盾と剣を一列目、二列目に槍で三列目が弓だ。

 さらにその後ろでは杖を握り締めた魔法兵たちが、強烈な一撃を叩き込もうと力を合わせて同一の詠唱を行っている。

「空を飛ぶ己に、弓や魔法はともかく剣と槍が効くと思うか」

「それはどうかな? 全軍──武技を発動させて遠距離攻撃だ!」

「なっ!?」

 それぞれ列ごとに、同じ構えを取りだす死者の兵士たち。
 そして黒いエフェクトが武器に宿ったかと思えば、武器を振るいその光をクエラムの方へ飛ばしていく。

「くっ、意思が無くとも武技も使えるのか」

「そうとも! 魔法の詠唱ができるのであれば、当然武技も使えるだろう! 流し方さえプログラムすれば、それぐらい容易いわ!」

 魔力ではなく精神力を消費する武技は、意思を持たないアンデッドには使えない……それが常識である。
 ネロマンテは精神から発動するプロセスをすべて捨て、武技が発動する際の気の流れのみを再現させることで発動を実現させた。

 アンデッドだからこそ、できたこと。
 自身の意に沿わぬ形で体を巡る気の流れを弄れば、体のどこかで不備が起きるだろう。


 翼で進路を巧みに操り、クエラムは放たれた攻撃を躱していく。
 予想外の攻撃であったため、少し反応が遅れてしまっていた。

 そしてそれは、次に放たれた魔法への回避にも影響が及ぶ。

「準備は整った──魔法兵、発射せよ!」

『──“非空重域アンチフライ”!』

「なんだとっ!? ……うぐっ」

 クエラムは突然、体に何十倍もの重力がかかる感覚に襲われる。
 武技による攻撃を躱そうにも、上へ行けば行くほどその重圧がひどくなっていく。

 その様子を見てネロは、笑いながら彼女へ告げる。

「早く降りた方が賢明だぞ。この魔法は、一度発動すれば長時間続く。魔力で飛ぼうが自前で飛ぼうが関係ない。高い場所に居れば居るほど、重力がその者を押し潰そうとする魔法なのだ!」

「そういう、ことか」

 ゆっくりと地面に堕ちるクエラム。
 武技の攻撃はネロの指示でいったん止んでいたため、舞台の端に着陸する。

「さて、また最初と同じ状況になったな」

「……そう、だな」

 片や聖気に耐えうる、強靭なアンデッドを使いだした死兵の主。
 片や空を飛ぶ手段を奪われ、地を這い戦うことを強いられた聖獣。

 これまでと状況は確実に変化し、闘いはさらなる混乱を招く。

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