830 / 2,519
偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と溜め込んだ一撃
しおりを挟む「アッハハハハハッ! チャルが負けた負けた、敗北じゃん! 擬似永久機関も擬似虚無機関も使ってないのにお仕舞いかよ!」
「……お主の眷属の隙を、あの嬢ちゃんが突いたと言ったところかのぅ?」
「ヒーヒー……。あ、ああ、そうさ。シガンは最初から、ずっとカウントダウンを唱えていた。最弱の“斬撃”だから、まあ本当なら消えると思って忘れていたんだろう」
普通に弱い魔法や武技は“覇砕拳”で消滅したが、それはカウントダウンをせずに放置していたものである。
カウントダウン中は魔力を補填するし、数字が減れば減るほど威力が高まる……うん、つまりは強化されて耐え切れたんだよ。
「シガンは時魔法が使えるし、“時間計測”で正確なカウントダウンができる。……そして、(並列詠唱)でそれを数える。二枚舌の要領でこっそり唱えて、最後の最後のタイミングでそれを使う。はい、これで決め手だ」
「お主、楽しそうじゃのぅ」
「そりゃまあ、シガンに来てもらえるように頼んだのは俺だし、いっしょに冒険している最中に何度か面白そうなコンボを見つけているのは知ってたからな。それが実際に形を成して眷属に害を及ぼす可能性を引き出すと知れたんだ……プレイヤーへの注意を上げないといけないと分かった」
今回は縛りに縛りを重ねた状態での一勝負で、本来の性能をフルで発揮できれば勝者は間違いなくチャルだっただろう。
だが、いつでも万全の状態で挑めるなんてご都合主義は働かないし、運営神やクソ女神がデバフをかけてきて、それに抵抗できずに弱体化……なんて展開もあるかもしれない。
「チャルも落ち込んじゃいないさ。だって、アイツは戦闘狂だ。自分の油断が敗北を招いたことには気づいたみたいだし、二度と同じ過ちはしないさ」
「それだけではないんじゃろぅ」
「……さて、なんのことやら」
戦闘時間中、会話で繋いでいたのも作戦の一つであった。
カウントダウンは単純に、数えれば数えるほど威力が向上する。
チャルを数十秒程度で倒せないと察したシガンは、最初からずっと数え続けた。
正確に、確実に、一矢報いるため。
「だがまあ、次の対戦相手がアレだよな……ソウだし、反省中だからそのうち戻しておかないとな」
「うむ。そうした方がよいじゃろぅ」
「……まっ、それは後のことで。今は別のことに忙しいんだけどな」
「また、どこかへ行くのかのぅ?」
席を立って、キョロキョロと周りを見渡す俺の様子を見てそう尋ねる。
「ああ、ちょいとふらりとな」
◆ □ ◆ □ ◆
「──と、いうわけでシガンの元に来た。次へ勝ち進んでしまったお前には、言っておかなければならないからな」
「あら、まるで負けると思っていたと言いたげだけれど?」
「さっきのナックルを見て、それでもそんなセリフが言えるなら、まだマシか……。じゃあ、頑張ってあの銀龍に勝ってくれよ……おい、用が無いなら手を放してくれ」
自信がありそうだったので、何も言わずに控え室から去ろうとしたのだが……なぜかシガンは離してくれない。
凛々しい表情をしているのだが、両目からツーッと零れて光るものがある気がした。
「もう、ギブアップじゃ駄目かしら?」
「駄目だろ。勝ったからには、敗者の意志を継いで勝つ義務がある。負けたチャルの分まで、しっかり闘ってくれよ」
「そうは言っても……ここまでハードな試合になるなんて、聞いてなかったわよ!」
いや、まあ言ってなかったからな。
というか、誰が生物最強決定戦に好き好んで参加すると言うのだろうか。
「いろいろと訊いちゃっただろ? もうその時点で、選択肢は無いと思え。機人族に関してはどうでもいいが、俺ができることに関しては黙ってもらいたい」
「……で、ここに来た理由は口止めだけなのかしら?」
「だから言っただろう? 俺が来たのはあの銀色の龍人……というか、人化したドラゴンについてヒントを言おうと思っただけさ。ただでさえナックルが油断したわけだが、次の試合から能力値が三割増しだからな」
「…………やっぱり、ギブアップで」
まあ、相手にもされずにパンッ! だったからな。
対策無しじゃ、そう思いたくもなるか。
「まあまあ、勝ったら報酬があるって言っただろ? このタイミングでだが、それを渡そうと思ってさ……じゃないと、一瞬で負けそうだから」
「今、物凄く不吉なこと言わなかった? 瞬殺とか、そんなこと言わなかった?」
「……ただ、特に決めてなかったんだよな。参加賞は全員に渡す物だったし、何か要望とかあるか?」
「特に、無いわね。装備はメルスが用意してくれたヤツだし、【未来先撃】はこの魔道具があれば正確に時間が分かる」
そういってチラつかせるのは、懐中時計型の魔道具。
……たしか、固有スキルを手に入れた時についでに付いてきたんだっけ?
時々それを見ている姿を見たことがあったし、鑑定したこともあるから知ってはいたんだがな……はい、忘れてました。
「──それならこれでいっか。ずっと前に聞いたことを元に作ったアクセサリーだ。望めば好きな形状になるから、好きな場所に装備してくれ。あ、これが鑑定のメモな」
「……常識外れね。これって、本当に貰っていいのかしら」
「アイツら、強いからな。力だけで挑んでもソウには勝てないし、人間は人間らしく知恵でも絞って勝つしかないさ」
それからしばらく、アイテムについていくつか相談を受ける。
細かいことはパーティーメンバーに相談しろと伝えて、その後は解散となった。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる