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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と溜め込んだ一撃

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「アッハハハハハッ! チャルが負けた負けた、敗北じゃん! 擬似永久機関も擬似虚無機関も使ってないのにお仕舞いかよ!」

「……お主の眷属の隙を、あの嬢ちゃんが突いたと言ったところかのぅ?」

「ヒーヒー……。あ、ああ、そうさ。シガンは最初から、ずっとカウントダウンを唱えていた。最弱の“斬撃スラッシュ”だから、まあ本当なら消えると思って忘れていたんだろう」


 普通に弱い魔法や武技は“覇砕拳デストロイナックル”で消滅したが、それはカウントダウンをせずに放置していたものである。
 カウントダウン中は魔力を補填するし、数字が減れば減るほど威力が高まる……うん、つまりは強化されて耐え切れたんだよ。


「シガンは時魔法が使えるし、“時間計測クロック”で正確なカウントダウンができる。……そして、(並列詠唱)でそれを数える。二枚舌の要領でこっそり唱えて、最後の最後のタイミングでそれを使う。はい、これで決め手だ」

「お主、楽しそうじゃのぅ」

「そりゃまあ、シガンに来てもらえるように頼んだのは俺だし、いっしょに冒険している最中に何度か面白そうなコンボを見つけているのは知ってたからな。それが実際に形を成して眷属に害を及ぼす可能性を引き出すと知れたんだ……プレイヤーへの注意を上げないといけないと分かった」


 今回は縛りに縛りを重ねた状態での一勝負で、本来の性能をフルで発揮できれば勝者は間違いなくチャルだっただろう。

 だが、いつでも万全の状態で挑めるなんてご都合主義は働かないし、運営神やクソ女神がデバフをかけてきて、それに抵抗レジストできずに弱体化……なんて展開もあるかもしれない。


「チャルも落ち込んじゃいないさ。だって、アイツは戦闘狂だ。自分の油断が敗北を招いたことには気づいたみたいだし、二度と同じ過ちはしないさ」

「それだけではないんじゃろぅ」

「……さて、なんのことやら」


 戦闘時間中、会話で繋いでいたのも作戦の一つであった。
 カウントダウンは単純に、数えれば数えるほど威力が向上する。

 チャルを数十秒程度で倒せないと察したシガンは、最初からずっと数え続けた。
 正確に、確実に、一矢報いるため。


「だがまあ、次の対戦相手がアレだよな……ソウだし、反省中だからそのうち戻しておかないとな」

「うむ。そうした方がよいじゃろぅ」

「……まっ、それは後のことで。今は別のことに忙しいんだけどな」

「また、どこかへ行くのかのぅ?」


 席を立って、キョロキョロと周りを見渡す俺の様子を見てそう尋ねる。


「ああ、ちょいとふらりとな」


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──と、いうわけでシガンの元に来た。次へ勝ち進んでしまったお前には、言っておかなければならないからな」

「あら、まるで負けると思っていたと言いたげだけれど?」

「さっきのナックルを見て、それでもそんなセリフが言えるなら、まだマシか……。じゃあ、頑張ってあの銀龍に勝ってくれよ……おい、用が無いなら手を放してくれ」


 自信がありそうだったので、何も言わずに控え室から去ろうとしたのだが……なぜかシガンは離してくれない。
 凛々しい表情をしているのだが、両目からツーッと零れて光るものがある気がした。


「もう、ギブアップじゃ駄目かしら?」

「駄目だろ。勝ったからには、敗者の意志を継いで勝つ義務がある。負けたチャルの分まで、しっかり闘ってくれよ」

「そうは言っても……ここまでハードな試合になるなんて、聞いてなかったわよ!」


 いや、まあ言ってなかったからな。
 というか、誰が生物最強決定戦に好き好んで参加すると言うのだろうか。


「いろいろと訊いちゃっただろ? もうその時点で、選択肢は無いと思え。機人族に関してはどうでもいいが、俺ができることに関しては黙ってもらいたい」

「……で、ここに来た理由は口止めだけなのかしら?」

「だから言っただろう? 俺が来たのはあの銀色の龍人……というか、人化したドラゴンについてヒントを言おうと思っただけさ。ただでさえナックルが油断したわけだが、次の試合から能力値が三割増しだからな」

「…………やっぱり、ギブアップで」


 まあ、相手にもされずにパンッ! だったからな。
 対策無しじゃ、そう思いたくもなるか。


「まあまあ、勝ったら報酬があるって言っただろ? このタイミングでだが、それを渡そうと思ってさ……じゃないと、一瞬で負けそうだから」

「今、物凄く不吉なこと言わなかった? 瞬殺とか、そんなこと言わなかった?」

「……ただ、特に決めてなかったんだよな。参加賞は全員に渡す物だったし、何か要望とかあるか?」

「特に、無いわね。装備はメルスが用意してくれたヤツだし、【未来先撃】はこの魔道具があれば正確に時間が分かる」


 そういってチラつかせるのは、懐中時計型の魔道具。
 ……たしか、固有スキルを手に入れた時についでに付いてきたんだっけ?

 時々それを見ている姿を見たことがあったし、鑑定したこともあるから知ってはいたんだがな……はい、忘れてました。


「──それならこれでいっか。ずっと前に聞いたことを元に作ったアクセサリーだ。望めば好きな形状になるから、好きな場所に装備してくれ。あ、これが鑑定のメモな」

「……常識外れね。これって、本当に貰っていいのかしら」

「アイツら、強いからな。力だけで挑んでもソウには勝てないし、人間は人間らしく知恵でも絞って勝つしかないさ」


 それからしばらく、アイテムについていくつか相談を受ける。
 細かいことはパーティーメンバーに相談しろと伝えて、その後は解散となった。


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