828 / 2,518
偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と一回戦第六試合 その04
しおりを挟む次の瞬間、シガンは空を飛んだ。
ふわりと舞うのではなく、凄まじい勢いで吹き飛ぶように。
「! “無球”!」
詠唱を必要としない無属性魔法“無球”を使い、それを緊急の足場とする。
一度だけでは耐えられなかったが、何度も“無球”を行使することでどうにか踏み止まることに成功した。
その後は把握している自身の起こした現象の上を渡り、舞台の床へ戻っていく。
「魔法? 使えないはずじゃ……」
「知っているだろう、常識を非常識に塗り替える自称偽善者を?」
「……そういうことね」
自分が先ほどまで居た場所で、チャルがシガンに向けてそう問いかける。
同時に、魔力感知を行ってチャルの周囲がどうなっているかを調べる。
そして、どうして機人に属するチャルが空間魔法である“空間転移”を使用したか……そのことを理解した。
(種族の設定を逸脱してるじゃないの。魔法が使える機人? それだけでもレイドモンスター級の価値がある!)
魔法が使えない代わりに、魔術と呼ばれる理に辿り着いた機人族。
彼らは高い演算処理能力でそれらを実行するが、その分使用中は処理能力が落ちるため通常戦闘に支障が出る。
だが魔法であれば……頭を空っぽにしたアホなプレイヤーですら、魔法を行使することで環境を破壊する規模の現象を引き起こすことができる。
ならばそれを、優秀で秀才な機人族が身に着けてしまえば……この世界は機人族一強の世界と化してしまうかもしれない。
「──なんてこと、考えているかもしれねぇから補足しておくぞ。魔力を通す回路の製作がメルスにしかできないから無理だ。これは技術云々の問題じゃなくて、アイツが生産に関して異常だからってこと……理解しているはずだよな?」
「ええ、このカラダが知っているわ」
視覚で捉えた宝石のような見た目。
嗅覚で捉えた甘く蕩ける匂い。
聴覚で捉えたさまざまな食事音。
触覚で捉えた快感すら覚える口当たり。
味覚で捉えた味わったことのない旨味。
そのすべてをメルスに掴まれた彼女……いや、彼女たち『月の乙女』のメンバーは、彼の作る料理を素晴らしさを知っていた。
──そして記憶の片隅に、それ以外の生産技術もなんだか凄いと記憶している。
メルスはかつて、具現化魔法で創造したドラゴンたちにいくつか魔法を重ねることで新たなドラゴンを生みだしたことがある。
その結果【種族創造士】に選ばれる功績をこの世界のシステムに認められ、その権能を授かることもできた。
だがそれに就かずとも、魔法を使わずとも彼はさらに種族を創造した。
──『機巧乙女』、己が生みだした聖武具と魔武具の依り代とするために創造した新たな種族……【種族創造士】で非ずとも、彼は種族のシステムに干渉することを可能としていたのだ。
本人はそれを知らず、ただ己の小さな意志のままに機人の理すら塗り替えた。
魔法が使えない、そのことで起きていた差別もかつて存在する。
「自分たちとは見た目が違う、色が違う、持つ能力が違う……同じ人である『地球人』ですら、差別を行う。なのにメルスは、知らぬ間に差別問題を解消する手を用意した。……アンタたち『プレイヤー』が種族を選べるのは知っているけど、機人族を選ぶのはお勧めしないよ。創造主には逆らえないからね」
「……やっぱり」
「ここは疑問が来ると思ったんだが、さすがメルスが遊びに行くギルドのリーダー様だ。絶対命令権ってのを握られれば、ソイツが自分のご主人様ってわけさ」
まあ、私は握られてないけど、と上空で哂うチャル。
絶対命令権とは、機人族の隠しスキルに記載された呪いのようなもの。
命令を受諾してしまえば、己の意思は関係なく体が命令を果たそうと自動的に動く。
そして損害を度外視して命令を遂行するまで、決して元に戻ることはない。
「どうでもいいさ、こんなこと」
「ど、どうでもいいって、そんな!」
「嫌なら種族を変えられるんだろう? ならすればいい。こっちの機人族はそうあるべきというのが常識で、むしろ『プレイヤー』の考え方の方が異常さ。『知らぬが仏』、覚悟が無いなら関わらない方がいいよ」
話は終わり、と言わんばかりに拳を固定された煙に向けて振り下ろす。
すると罅のような物が生まれ、高速でそれが全体まで増殖し……甲高い音と共に魔法が強制的に破壊された。
「それよりも、私はアンタと闘いたい。根っからの戦闘狂とでも思えば良いさ。理由なんてもう忘れた。ただ勝つことだけを考えてきたからね」
「だから、私は弱いんですって」
「弱い、それがどうした? アンタたちがレイドボスとやらを倒してきたのは、アンタたちが強いからかい? 弱いなりに知恵を絞って、力を合わせて勝ったからだろ? なら、そうやって知恵を絞って私に挑みな!」
何を言っても無駄である。
そう結論付けたシガンは、仕方なく話をしている最中に再補填しておいた魔法の数々を認識しておく。
(魔力がそう多くはない。武技はまだ隠してあるけど……いける? いや、やるしかないのか。本当、どうして引き受けちゃったのかしら……過去に戻って殴りたいわ!)
自分を、ではなく主催者をではあるが。
そんな決意と共に、シガンは再度魔法の雨でチャルへ仕掛けていく。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる