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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と一回戦第六試合 その04

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 次の瞬間、シガンは空を飛んだ。
 ふわりと舞うのではなく、凄まじい勢いで吹き飛ぶように。

「! “無球ニルボール”!」

 詠唱を必要としない無属性魔法“無球”を使い、それを緊急の足場とする。
 一度だけでは耐えられなかったが、何度も“無球”を行使することでどうにか踏み止まることに成功した。

 その後は把握している自身の起こした現象の上を渡り、舞台の床へ戻っていく。

「魔法? 使えないはずじゃ……」

「知っているだろう、常識を非常識に塗り替える自称偽善者を?」

「……そういうことね」

 自分が先ほどまで居た場所で、チャルがシガンに向けてそう問いかける。
 同時に、魔力感知を行ってチャルの周囲がどうなっているかを調べる。

 そして、どうして機人に属するチャルが空間魔法である“空間転移”を使用したか……そのことを理解した。

(種族の設定を逸脱してるじゃないの。魔法が使える機人? それだけでもレイドモンスター級の価値がある!)

 魔法が使えない代わりに、魔術と呼ばれる理に辿り着いた機人族。
 彼らは高い演算処理能力でそれらを実行するが、その分使用中は処理能力が落ちるため通常戦闘に支障が出る。

 だが魔法であれば……頭を空っぽにしたアホなプレイヤーですら、魔法を行使することで環境を破壊する規模の現象を引き起こすことができる。
 ならばそれを、優秀で秀才な機人族が身に着けてしまえば……この世界は機人族一強の世界と化してしまうかもしれない。

「──なんてこと、考えているかもしれねぇから補足しておくぞ。魔力を通す回路の製作がメルスにしかできないから無理だ。これは技術云々の問題じゃなくて、アイツが生産に関して異常だからってこと……理解しているはずだよな?」

「ええ、このカラダが知っているわ」

 視覚で捉えた宝石のような見た目。
 嗅覚で捉えた甘く蕩ける匂い。
 聴覚で捉えたさまざまな食事音。
 触覚で捉えた快感すら覚える口当たり。
 味覚で捉えた味わったことのない旨味。

 そのすべてをメルスに掴まれた彼女……いや、彼女たち『月の乙女』のメンバーは、彼の作る料理を素晴らしさを知っていた。
 ──そして記憶の片隅に、それ以外の生産技術もなんだか・・・・凄いと記憶している。


 メルスはかつて、具現化魔法で創造したドラゴンたちにいくつか魔法を重ねることで新たなドラゴンを生みだしたことがある。
 その結果【種族創造士】に選ばれる功績をこの世界のシステムに認められ、その権能を授かることもできた。

 だがそれに就かずとも、魔法を使わずとも彼はさらに種族を創造した。
 ──『機巧乙女』、己が生みだした聖武具と魔武具の依り代とするために創造した新たな種族……【種族創造士】で非ずとも、彼は種族のシステムに干渉することを可能としていたのだ。

 本人はそれを知らず、ただ己の小さな意志のままに機人の理すら塗り替えた。
 魔法が使えない、そのことで起きていた差別もかつて存在する。

「自分たちとは見た目が違う、色が違う、持つ能力が違う……同じ人である『地球人』ですら、差別を行う。なのにメルスは、知らぬ間に差別問題を解消する手を用意した。……アンタたち『プレイヤー』が種族を選べるのは知っているけど、機人族を選ぶのはお勧めしないよ。創造主には逆らえないからね」

「……やっぱり」

「ここは疑問が来ると思ったんだが、さすがメルスが遊びに行くギルドのリーダー様だ。絶対命令権ってのを握られれば、ソイツが自分のご主人様ってわけさ」

 まあ、私は握られてないけど、と上空で哂うチャル。

 絶対命令権とは、機人族の隠しスキルに記載された呪いのようなもの。
 命令を受諾してしまえば、己の意思は関係なく体が命令を果たそうと自動的に動く。
 そして損害を度外視して命令を遂行するまで、決して元に戻ることはない。

「どうでもいいさ、こんなこと」

「ど、どうでもいいって、そんな!」

「嫌なら種族を変えられるんだろう? ならすればいい。こっちの機人族はそうあるべきというのが常識で、むしろ『プレイヤー』の考え方の方が異常さ。『知らぬが仏』、覚悟が無いなら関わらない方がいいよ」

 話は終わり、と言わんばかりに拳を固定された煙に向けて振り下ろす。
 すると罅のような物が生まれ、高速でそれが全体まで増殖し……甲高い音と共に魔法が強制的に破壊された。

「それよりも、私はアンタと闘いたい。根っからの戦闘狂とでも思えば良いさ。理由なんてもう忘れた。ただ勝つことだけを考えてきたからね」

「だから、私は弱いんですって」

「弱い、それがどうした? アンタたちがレイドボスとやらを倒してきたのは、アンタたちが強いからかい? 弱いなりに知恵を絞って、力を合わせて勝ったからだろ? なら、そうやって知恵を絞って私に挑みな!」

 何を言っても無駄である。
 そう結論付けたシガンは、仕方なく話をしている最中に再補填しておいた魔法の数々を認識しておく。

(魔力がそう多くはない。武技はまだ隠してあるけど……いける? いや、やるしかないのか。本当、どうして引き受けちゃったのかしら……過去に戻って殴りたいわ!)

 自分を、ではなく主催者をではあるが。
 そんな決意と共に、シガンは再度魔法の雨でチャルへ仕掛けていく。

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