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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と一回戦第六試合 その03

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「これまでの私のスキルは、明確な意思表示が無ければ発動しなかった」

 コッコッと硬い地面を踏んでいく音。
 だが、彼女の足元に舞台は無い。

「カウントダウンを宣言する、それ自体は変わらない。というより、それは最小限減らせばいいのだからほぼ無詠唱とも言えるのだけれど」

「……お空の上を歩いて、アンタはいったい何を言いたいんだい?」

 シガンが踏んでいるのは、時間が凍結して空間に縫い止められた己の攻撃跡。
 特殊な方法でしか壊れないソレらは、彼女が上に乗ろうとその存在を維持し続ける。

「それから、空間魔法との相性の良さに気づいた。攻撃の座標を変えれば、相手の死角から攻撃できるようになる。すでに魔力は放出済みなんだから、私が練り上げるタイミングで攻撃に気づく人はそれに対応できない」

 あえて中途半端に発動させた、煙魔法の上に立つ。
 舞台の上空からチャルを見下ろし、シガンは闘いの再開を告げる。

「少しはダメージを受けてちょうだい。それだけでも、私は救われるわ──0」

 第一陣が、チャルに向けられた。

 次々と生まれていく小規模な魔法たち。
 魔力の自然回復量を調節しながら、シガンが唱えていた魔法である。

「ふーん、面白いねぇ。ただ、量で飽和させてくる奴もなんてたくさんいたから……対策済みだけどね!」

 魔力で生みだされた現象は、魔力を伴わなければ基本的に対処不可能である。
 チャルは拳の最小限の魔力を纏うと、ただひたすらに拳を振るい始めた。

 ボクシングのような軽快な動きで、向かってくる魔法の数々を破壊あるいは逸らす。
 ジャブ、ストレート、フック、スイング、アッパーカットなどを巧みに使い分けると、魔法は見る見るうちに役目を果たすことなく消滅する。

「この程度じゃないんだろ? もっと楽しませてくれよ!」

「最初からそのつもりよ……2、1、0!」

 一陣として解放した魔法の大半が消えた時点で、シガンは第二陣のカウントダウンを開始していた。

 少し威力を上げた魔法の数々。
 ただ真っ直ぐ飛ぶだけでなく、軌道を変えたり魔法の能力そのものが少し特殊なものが混ざり始める。

「無駄無駄無駄! 全部対処でき……っ!」

「あら、どうかしたの?」

「へっ、やるじゃねぇか」

 手数を増やし必要があり、拳だけでなく脚も使い始めたチャル。
 籠める魔力の量を増やし、シガンの放った魔法を的確に捌き続ける……はずだった。

 突然、チャルの真横を魔法が通過する。
 とっさに体を動かして回避したが、躱し切れず傷跡が残る。

「さっき言ってた、空間魔法かい? 案外躱せないもんだね」

「そのタイミングを狙っていたのだから、当然の結果よ。……さぁ、もう少しだけ踊ってちょうだい」

 すでに放たれた魔法の軌道に、シガンの空間魔法による干渉が入り始めた。
 最初の一撃こそ掠らせたチャルだが、持ち前の解析能力をフルに使って対処パターンを確立させていく。

(空間に干渉するなら、必ず歪みがどこかに起きる。それぐらい、とっくに調べてる……これか! 干渉はしているんじゃない、干渉していたんだ!)

 種を明かせば、シガンは干渉を予めしていただけだ。
 空間魔法で干渉するまでを、一つの攻撃として定義付けた合成魔法。

 それはひどくイメージ力を使うが、相手に悟られることのない歪曲を可能にした。
 すでに軌道はプログラミングされ、突然死角へ向かうことさえ予測された一撃。

「アンタ……未来でも視えているのかい?」

「いいえ、視えていないわ。ただ、見ようと努力を重ねているだけよ」

 シガンは煙の上からチャルの攻撃を俯瞰して、設定した攻撃の中から適切なものを選択しているだけ。
 ……だけ、というにはかなりハードルの高いことをしているが、彼女自身がそれをできると認識した上で実行した。

「こりゃあ私も、本気になって闘った方がいいかもしれないねぇ」

「それは……遠慮しておくわ」

「いやいや、誇っていいさ。いくら本来の性能が出せないとしても、ただの『魔導機人』なら倒せていたかもしれないね。徒党を組んで数の暴力に訴えることしかできない連中だから、アンタのソレは魔法を使えないアイツらにとって危険な攻撃だ」

 ──機人は魔法を使えない。
 それは、どれだけ上位の種族や個体であっても変えようのない事実だった。

 しかし、ただ魔法に屈するわけではない。
 高度なプログラムによる擬似的な魔法──魔術を自分たちになりに再現し、それを扱う術をやがて手に入れる。
 それにによって、機人たちは魔法に抗うことができるようになった。

 ……それでも、魔法そのものを使える個体は存在しない──はずだった。

「私に勝ち目はないの。だから、感動したなら諸手を挙げて降参してくれない?」

「なんでそうなるんだい。足掻き続けてその果てに、まだ見ぬ境地があるってのに見す見す逃すわけにはいかないよ……ただの喧嘩好きな『魔導機人』はこれでお仕舞い。ここからは、メルスの眷属が一人──『異端魔機』としてやらせてもらうよ」

 拳を前に構えるチャル。
 そして(必要ないが)大きく息を吸い──叫ぶ。

「“空間転移リロケーション”!」

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