825 / 2,519
偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と一回戦第六試合 その01
しおりを挟む「いやー、遅れた遅れた。ジークさん、どれくらい時間が経った?」
「……数十秒しか経っておらん。お主の時空魔法は異常じゃな」
時属性の魔法で操作できる時間は、所持者のレベルが高ければ高い程幅が広くなる。
俺の時魔法及び時空魔法はカンストしているし、共有と補正によってそれをより高めている状態だ。
肉体の老化現象がリスクとして立ちはだかるが、それは未熟な使い手だけだ。
熟練した者であれば、外部と内部の時間比率を調整してそれを免れるらしい。
……プレイヤーはログイン中外見は変わらないし、眷属による補助で転移後も俺は完璧な調整ができたのでよく分からないが。
「失敗しても(不老)スキルの効果で老化することは無いし、リスクは無い。なら、できることをするだけだ」
「不老など、欲する者であればどのような手であろうと奪いたいじゃろぅな。(一般)であるが故、決して不可能ではない点が人の欲を掻き立てる」
そう、(不老)も(不死)もどちらも固有ではなく(一般)スキル。
発現率は極めて珍しいケースだが、リュシルの図書館にも(不老)を発現したしまっために苦悩した者を記した伝記が存在していた。
ただの村人でも、条件を満たしてしまえば得られてしまう人外の力。
外道の法を使えば奪うことも容易く、人生観を180°引っ繰り返してしまう。
「……と、いうわけでそろそろ(不老)を習得しないか? 生憎ジークさんを殺させる気はないし、導いちゃったから魂は輪廻に戻れないんだよな」
「要らんよ。導かれたことに後悔はしておらぬが、この地位を維持する気もさらさら無いわ。……お主のことじゃし、何やら企んでおるのじゃろぅ? どのようなことであれ、まずはこの幸先短し老い耄れで確かめてみるのが吉じゃよ」
ジークさんとあるやり取りをした果てに、俺はジークさんをある運命に導いた。
これは俺もジークさんも同意の上で行ったことだし、決して後悔も反省もしていない。
それによって叶えられた願いもあり、偽善者としての活動もできたのだから誰も不幸にはなっていないぞ。
「……そうか。なら、期待してくれよ! 絶対にジークさんを楽しませてやるからよ!」
「ふっ、やれるものならやってみるがよい。すでにメルスのやることが異常であると知っている儂に、今さら恐れるモノはない!」
『オォー!』
ほらほら王子と王女様よ、物凄くどうでもいいことに胸を張るお爺様を褒めてはいけないよ。
ねっ、なんだか鼻からムフーッと満足そうに息が出ちゃったじゃないか。
≪──間もなく第六試合が始まります! 皆様、席にお座りください!≫
「……ほら、ジークさんも落ち着いて。そろそろ始まるぞ」
「うむ。つい、な? では、次の闘いを観戦しようではないか」
そして俺たちは、観戦準備を整えて時間を待つのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
≪──第六試合の対戦カードは、シガン選手VSチャル選手! どちらも【固有】スキルの持ち主、プレイヤーであるシガン選手と魔導機人であるチャル選手……どちらも学習すればするほど強くなる。はたして、勝利はどちらの手に!?≫
「……無理ね。私の負けだわ」
「始まる前に、そういったことを言わないでもらいたいよ。戦闘意欲が削がれちまう」
「それならそれで、苦しまずに追われるのだけれど……メルスの話になんか、乗らなければよかったわ」
シガンは今、つい先ほど観戦した試合のことを想う。
──あの人、こんな気持ちだったんだろうな、と。
目の前に立ちはだかる女性に勝つ可能性が見当たらず、できることは延命だけ。
本来なら自由民よりも有利な能力値を持つはずの祈念者が、この世界では圧倒的弱者として存在している。
シガンはあるとき、メルスに武闘大会への参加に誘われた。
有名なプレイヤーも参加する、自由民も参戦する生物最強決定戦だと伝えられる。
少し考え、それを受け入れた。
それが経験となり、今後の活動でも有利に働くと思ったからだ。
……そのため、ここまで武闘会が過酷なものであるとは知らなかった。
メルスが関わっている以上、たしかに並みのプレイヤーが小さく開くようなイベントではないことは理解していた。
しかしまさか、トッププレイヤーの動きが児戯に見えてしまう程の超越した闘いぶりがこれまで繰り広げられている。
「まあ、アンタがメルスのガス抜きをしてくれている奴らだってことは分かっているよ」
「ガス抜き?」
「……もちろん、馬鹿にしているわけじゃないよ。私たちだけじゃ、満たされないナニカがあって、それをアンタたちが満たしてくれた。感謝しているよ──ありがとう」
「そ、そう、なのかしら?」
突然頭を下げられ、首を捻るシガン。
どこまでメルスが彼女に愛されているか、そして同じプレイヤーであるはずの彼がどのような状況に居るのかが分からないからだ。
「……まっ、それと勝負は別だがな。悪いが全力で勝利して、他の奴とも闘いたいんだ」
「そうなるわよね……」
ガクリと肩を落とすシガン。
そんな戦闘意欲がまったく異なる二人の闘いは、間もなく幕を開ける。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる