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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と一回戦休憩時間 前篇

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「吸血鬼としての力をパパッと使ってたな。どうだった?」

「どうだった? と聞いて儂にどういった反応を求めているのかのぅ? おそらく、お主の求める返事はできんぞ」


 ダンジョンでの観戦を終え、再びVIP用の観客席に舞い戻った。
 ジークさんと観戦中にトークができなかったため、今回の試合の感想を訊いてみることにした所存である。


「別に、なんでもいいんだけどな。孫にあんな力を与えたいだの、あれに襲われたときの対策でもいいぞ」

「……いや、どちらもお断りじゃな。あのような殺伐としたものは御免被る」

「えー、【勇者】だぞ? 条件を満たせば一段階上の【勇者王】になれるぞ? カッコよくないか?」


 たぶん、だけどな。
 俺は現段階ではずっと無職なので、その可能性すら見込めないんだが。


「まあ、それでもいいか。さてさて、質問のお時間さ。なんかないのか?」

「……と、言ってものぅ。シャインとやら、アレが男だということに疑念を抱いたぐらいだのぅ。たしかに立ち振る舞いは完全に男であったが、姿は女のものだっただろう。……どういった方法なのだ?」

「ん? そんなんでいいのか……変身魔法で肉体を女のものに変えて、そのまま固定しただけだぞ。他にも別の方法があるけど……聞いておくか?」

「うむ、ぜひに」


 それから、リョクとクエラムとネロが行った女体化を説明しておいた。
 鬼の【忠誠】、聖獣の想い、ネロの罰……異世界闇森人やドM銀龍はなんだか説明外なので、カットである。


「──とまあ、こんな感じだ」

「……お主、よく恨まれないのぅ」

「恨まれる経験はルーンであっただろ。それに、昔は[眷軍強化]が働いてて、精神共有がされてたらしく……」

「そういうことか」


 俺への親愛度が超高い武具っ娘たち。
 彼女たちとも感情が接続されるため、ほぼ確実に俺を信愛してしまうそうで。
 ……俺も細かいことは気にしてないが、今はその機能を止めたので問題ないだろう。


「とりあえず、理解はできたか? ネタとしてだが、性別転換薬や見た目変更薬は用意してあるぞ。……どうだ、楽しめるか?」

「…………さすがメルスだ。よし、今度遊ぼうではないか」

「さすがジークさん、お目が高い。ほれ、これがサンプルだ」


 試作品として用意した、短時間のみ機能する錠剤型の物を投げて渡す。
 性別転換と見た目変更の二種類だが、楽しむ前に調べる分としてはちょうどいい。


「ふむ……受け取っておこう」

「お爺様、見せて見せて」
「面白そう、一つちょうだい」

「駄目じゃよ。……じゃが、本当に必要となれば渡そう。それまでは待っているがいい」


 もっとも、そんな機会無い方がいいがな。
 そんなアイテムがあれば、為政者が考え付く用途など一つ──影武者の作成だ。

 相手がどんな者だろうが、その二つを呑ませれば自在に変身させることができる。

 口を開かせればすぐにバレるかもしれないが、そこは元から用意していた影武者の精度向上用と考えれば気にならない。
 声帯模写と仕草の再現さえできれば、初対面の相手など確実に騙せるのだから。


「……そんな機会、用意しないけどな」

『えー』

「……感謝するぞ、メルス」

「ああ、気にするな」


 ブーブー訴える王子様たちは無視して、俺たちは会話を続ける。


「──ところで、今は休憩時間じゃったな。いつ頃まで行うのだ?」

「午前午後で分けてるんだ。ちょうど今は、美味しい出店の品でも観客たちは食べていると思うぞ」

「そうか……ところで、儂らの分は……」

「用意している、とでも思ったか? さすがにそれは無い。さっきのは子供たちへのサービスだし、ちゃんとそっちのシェフが作っているだろう」


 営利の邪魔をしてはいけないからな。
 俺は腹が減らないので問題ないが、王族たちが腹を空かせるのは最初から想定済み。

 それでも、俺が用意するのは野暮だろう。


「料理長も、メルスの料理が──」

「言うとは思うがな。レシピはいつも渡しているんだから、ほぼ同じだろ」

「違うじゃろ! ほれ、孫たちも頷いているではないか」


 うん、高速で首を縦に振っているな。
 そりゃあ、『神の○○』と鑑定結果に出てしまうような料理だし……。

 眷属に喜んでもらうために作り続けて腕を上げたが、ただ加護の効果と称されると俺も理解できなくなるんだよな。
 実際の俺はDEXが0で、料理も裁縫も全然ダメダメな人間だ。

 はたして、これは俺の技量で満足させられているのだろうか……ってな。


「……料理長が泣くぞ」

「アヤツと勝負し、土下座させた奴が何を言うておるか」

「あの人の料理が旨いってことぐらい、理解してるだろ? 俺が料理スキルの補正付きの調理器具を上げるって言っても、頑なに拒否するまさに玄人だ」

「なんじゃと!? アヤツめ……」


 なんだか恨めし気に転移門が在る方を睨んじゃいけません。

 料理長は料理の派生スキルをいくつも習得している人で、地球の調理技術もじっくり教えれば粗方理解してしまう──俺の疑問を解決してくれる、知恵袋のような人だ。

 いつかは、あの人の方から使いたいといわせてみたいな……まあ、純粋に便利な調理器具は受け取ってもらえているが。


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