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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と一回戦第四試合 前篇

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≪続いての第四試合! 登場する選手は──フィレル選手とシャイン選手だ!≫


 二人の女性が舞台に上がる。

 太陽のような薄い黄色の髪を伸ばした、鋭い犬歯が生えた女性。
 真っ黒な髪と瞳を持つ、同年代の女性よりやや背の高い少女。

「シャインさん、ですね? 初めまして。わたしはフィレル、旦那様の眷属が一人──見ての通り龍人です」

「俺はシャイン。プレイヤーの一人で、いちおう普人です」

「えっと、男性……なんですよね?」

「そうですよ?」

 シャインはかつて、この世界の中でも強力な力の一つを与えられた。
 それは個人の願いなど、思いのままに叶えられる代物で……驕ることになる。

 そして、出してはいけないものに手を伸ばし──罰を受けた。
 厄災とのちに呼ばれる者が、守ろうとした者にだ。

 結果、この世界での仮初の姿は厄災の思うがままに変質させられ、彼の心も厄災によって大きく塗り替えられる。
 故に彼は今の自分を受け入れているし、それを行った者を恨んでもいない。

「まあ、俺のことはいいじゃないですか。それより……始めましょう」

「そう、ですね。ええ、分かりました」

 そう言われ、フィレルも準備を始めた。
 指を噛み、血を生みだして凝固させる。
 ガントレットのような物になると、両手をぶつけて構えを取った。

 シャインもまた、腰に携えた一本の剣を引き抜く。
 その片手半剣バスターソードには温かな光を放つ宝石が嵌められており、ただの剣で無いことを示すように存在感を放っていた。






≪それでは第四試合──開始です!!≫

 その合図と共に動く。

「──“光迅脚”!」

 光の速さでフィレルの死角に近づくと、その剣を振り回して攻撃を仕掛ける。

「そうはいきません!」

 龍人としての膂力だけで、それらを捌く。
 拳と剣は上手く噛み合い、激しい火花を散らし続ける。

「“闇迅剣”、“大斬撃パワースラッシュ”!」

 剣が黒く染まると、勢いよく振るう。
 これまでの物とは格段に威力が異なり、最低限の力で攻撃を往なしてきたフィレルは、手が痺れてしまう。

「くっ!」

 背中から龍の翼を広げ、空へ退避する。
 少しの時間を稼ぎたかった……が、すぐにシャインは追いかける。

「“光迅翼”」

「ミシェルと同じ系統なのですから、当然でしたね」

 リスクが少ない“光迅”と“闇迅”を使い分け、シャインは闘い続ける。

 光の翼を背中に生やすと、大空を舞う。
 そして剣をフィレルに向け、再度武技を発動していく。

「“轟雷斬撃ライトニングブレイク”!」

 天地揺るがす轟雷が、会場に木霊する。
 龍を地に落とすように、音速の剣撃がフィレルへ放たれた。

「“交差受けクロスガード”」

 両腕を交差し、攻撃を防ぐ。
 龍の鱗を腕全体に顕現させることで、その一撃から耐えきる。

 ぶつかったエネルギーの反動を受け、フィレルは地面に落とされる。
 だがしっかりと受け身をとっていたため、落下によるダメージは0だ。

「……少し油断しましたね。プレイヤーとはいえ、旦那様の眷属でしたか」

「“光迅盾”、“光迅盾”、“光迅盾”」

「少し力を出しましょう──“龍の血潮ブラッド・オブ・ドラゴン”」

 舞台の至る所に光の盾を展開していくシャインを見て、フィレルもまた龍血の効果を高めていく。
 身体能力は高まり、魔力の回復量が急速に向上する。

「そして、“破邪光輪《パージオレオール》”!」

 陽光を背中に纏い、破邪の力を得た。
 これにより、陽光龍であるフィレルはさらに能力値へ補正を受ける。

「行きます──“牙爪ファングクロー”」

 ガントレットを形取っていた血が、フィレルの意思を受けて形状を変える。
 鋭い鉤爪が生え、強力なエネルギーを纏って宙に居るシャインを襲う。

 シャインはそれを、光の盾を使って巧みに躱していく。
 翼での回避だけでは間に合わないと悟り、盾を動かして自身の進路方向を阻害されないようにしていた。

「覇ッ!」

「っ……!」

 だが、それもそう長くは持たない。
 強烈な息吹を放たれ、生みだされていた盾すべてが破壊される。

 翼も余波で半分失われ、グルグルと回転しながら墜落していく。

「“闇迅脚”」

 地面に落ちる寸前、シャインは脚に魔力を籠めて力強く己の影を踏み込む。
 影を介しての転移を用い、再びフィレルの元へ向かう。

「“闇迅剣”……うぐっ」

「破邪の光ですよ? そう容易く、打ち負かされはしません!」

 闇色の軌跡はミシェルと異なり、フィレルの後光によって色を失う。
 それに一瞬驚いた隙を突かれ、体の奥深くまで爪を刺される。

「“光迅脚”」

 健在な“光迅”を用いて、後方へ下がる。
 すぐに患部を調べ、どこまで状況が深刻なのかを探る。

「治療しなければここで終わりますよ?」

「そのようですね」

「ですが、詠唱をするだけの時間も魔力を練る時間も与えませんよ」

 勢いよく地面を蹴りだし、一瞬で後退したシャインの元に辿り着くフィレル。
 まさに一瞬の隙すら与えない動き……だったが、シャインは己の剣を自らに突き刺す。

「何を!?」

「回復ですよ──“癒せ”」

 その言葉に、嵌めこまれた石が呼応する。
 温かな光はシャインの全身を包み……光が治まる頃には、爪痕が無くなった状態でシャインは立っていた。

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