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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と劉迅脚
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会場から離れ、あるダンジョンの中で俺は一人独白する。
「いやー、最後のギミックまで使うまで侵蝕してたか……」
今武闘会は、結界の中で行われる。
そしてそのダメージはすべて結界によって幻覚に変換されるため、参加者に影響はいっさいない……はずなんだがな。
あまりに異常性の高い現象を結界内で使用すると、結界がそれを変換できず影響が外部まで及んでしまう。
なので、それは俺が肩代わりしている。
ミシェルとシュリュ、二人共無茶な技を連発していたためその反動は俺の元へ──
「そしてキター! 模倣完了!」
《おめでとうございます、主様》
「ありがとうな、レン」
《いえ……あまり、こういったことはご自愛いただけると》
心配そうな声が伝わってくる。
まったく……良い能力がコピーできたんだし、良かったと纏めてくれればいいものを。
《危険です。精神が{感情}によって揺るがないとはいえ、ダメージは直接響きます》
「主催者らしく、安全を確保しないと駄目だろう……」
《どの世界に、主催者が血反吐を吐きながら試合を観戦する場所があるのでしょうか? ミシェル様の擬似劉化現象、その九割以上の責任が主様にあるとはいえ》
「うぐっ! あ、あれはしばらくシュリュとフィレル、あとソウ以外は使用不能にしておこう。ドラゴンなら耐えられるだろうが、他には無理だ」
ただでさえ人を酔わすドラゴンの力に、ごく僅かとはいえ俺の異常な魔力。
マイナスな感情をぶつけられて生きてきたミシェルだからこそ、プラスな感情だけで自分を惑わす退廃への誘いが強く効いたのかもしれない。
さすがに試合中に干渉しては問題となるので、終了後……というか結界から出た瞬間に精神スキャンはしておいた。
劉の酔いは最後の“擬似劉帝化”ですべて振り払っていて、悪影響はいっさいなし。
それはそれで不安があったが、異常な精神力がそれを促したのであればそうなのだろうと納得しておいた。
「ちょいと皮膚が焼けて、酔っただけだ。日焼けのために海へ行って、ビールでも飲んだと思えば同じくらいだろう」
《焼けて骨まで焦がされ、果てしない酔いを【強欲】がその感情ごと取り込んでも、ですか? 私には、ありふれた日常でそれは経験できないと思いますが。第一、主様はお酒を嗜めないではありませんか……》
「の、飲めるわい! 料理酒だって……チロチロ舐めてるんだからな!」
シュリュの“劉神雀火”が結界を燃やす勢いだったので、結界に干渉を及ぼそうとするものは俺が遠隔で取り込んだ。
ジークさんたちの手前グロいものを見せるわけにもいかず──変身魔法では魔力ごと燃やされそうだったので──膜で包むように、屈折させた光を纏って誤魔化しておいた。
そして今この場で、反動ダメージをすべて解析しながら受け続けているのが現状だ。
劉の誘いも精神をガンガン揺さぶっていたが、すぐに{感情}が俺を平静にした挙句、勝手に起動した【強欲】がその力を己のモノにしようと奪っていった。
……後で、新しい能力が発現するだろう。
「ところで、レンはどうして確認に?」
《ダンジョン内のことであれば、私がすべて把握しております。メルス様がこちらに来たということで、私から連絡を。……アンとは同盟を結んでいますので》
「なんでアンを挙げた? まあ、とにかく問題はないから大丈夫だろ」
《そうですか……ところで、どのような能力が今回の試合で?》
そう、それなんだよ!
それを試すために、ここに来たと言っても過言ではないぞ!
「当然ではあるが、二人が使っていた能力は模倣できたな。特に、ミシェルの使っていた“聖劉迅”シリーズと“邪劉迅”シリーズ。発動に前提条件が必要になるけど、能力のスペックは明らかに通常のモノより上だぞ」
二本の剣へそれぞれの能力を使い、その様子を確認して視る。
白い輝きと黒い輝きに、劉特有のオーラが混ざり合って形を成していた。
他にも翼や盾、鎧などを試してみるが、どれも劉の力がかなり色濃く出ていた。
「けど、これは使われなかったんだよな。どうなるんだろう──“聖劉迅脚”」
レンに頼み、用意してもらった魔物を対象としてその能力を発動する。
元となる“聖迅脚”は、あくまで移動用のものであったが──
「……ああ、そうなるのか」
脚に白い脛当てや鉄靴のような物が生成され、自分は何ができるかを伝えてくる。
その意思に従い、魔力を流して足を払うようにしてみると──
「移動せずとも良いと。遠隔攻撃か」
白いドラゴンが飛びだし、魔物へ喰らいついていく。
最後には息吹を吐きだし……白いドラゴンは靴に戻ることなく消滅する。
「“邪劉迅脚”……これも同じか」
違うのは色と効果。
状態異常を発生させる息吹を吐き、黒いドラゴンもまた消滅する。
「従来の使い方もできるけど、牽制として生みだしておくのもいいのか……かなり使えると思うな」
《今のミシェル様では、それらを使用できませんが……》
「改良、改善、改造、改装……やり方ならいくらでもあるさ。ミシェルが酔わずに力を求め、シュリュが認めた時に使えるように準備ぐらいしておくさ」
だが今は、試合観戦だな。
設計図は頭の片隅で作成し始めるとして、とりあえず会場に戻るか。
会場から離れ、あるダンジョンの中で俺は一人独白する。
「いやー、最後のギミックまで使うまで侵蝕してたか……」
今武闘会は、結界の中で行われる。
そしてそのダメージはすべて結界によって幻覚に変換されるため、参加者に影響はいっさいない……はずなんだがな。
あまりに異常性の高い現象を結界内で使用すると、結界がそれを変換できず影響が外部まで及んでしまう。
なので、それは俺が肩代わりしている。
ミシェルとシュリュ、二人共無茶な技を連発していたためその反動は俺の元へ──
「そしてキター! 模倣完了!」
《おめでとうございます、主様》
「ありがとうな、レン」
《いえ……あまり、こういったことはご自愛いただけると》
心配そうな声が伝わってくる。
まったく……良い能力がコピーできたんだし、良かったと纏めてくれればいいものを。
《危険です。精神が{感情}によって揺るがないとはいえ、ダメージは直接響きます》
「主催者らしく、安全を確保しないと駄目だろう……」
《どの世界に、主催者が血反吐を吐きながら試合を観戦する場所があるのでしょうか? ミシェル様の擬似劉化現象、その九割以上の責任が主様にあるとはいえ》
「うぐっ! あ、あれはしばらくシュリュとフィレル、あとソウ以外は使用不能にしておこう。ドラゴンなら耐えられるだろうが、他には無理だ」
ただでさえ人を酔わすドラゴンの力に、ごく僅かとはいえ俺の異常な魔力。
マイナスな感情をぶつけられて生きてきたミシェルだからこそ、プラスな感情だけで自分を惑わす退廃への誘いが強く効いたのかもしれない。
さすがに試合中に干渉しては問題となるので、終了後……というか結界から出た瞬間に精神スキャンはしておいた。
劉の酔いは最後の“擬似劉帝化”ですべて振り払っていて、悪影響はいっさいなし。
それはそれで不安があったが、異常な精神力がそれを促したのであればそうなのだろうと納得しておいた。
「ちょいと皮膚が焼けて、酔っただけだ。日焼けのために海へ行って、ビールでも飲んだと思えば同じくらいだろう」
《焼けて骨まで焦がされ、果てしない酔いを【強欲】がその感情ごと取り込んでも、ですか? 私には、ありふれた日常でそれは経験できないと思いますが。第一、主様はお酒を嗜めないではありませんか……》
「の、飲めるわい! 料理酒だって……チロチロ舐めてるんだからな!」
シュリュの“劉神雀火”が結界を燃やす勢いだったので、結界に干渉を及ぼそうとするものは俺が遠隔で取り込んだ。
ジークさんたちの手前グロいものを見せるわけにもいかず──変身魔法では魔力ごと燃やされそうだったので──膜で包むように、屈折させた光を纏って誤魔化しておいた。
そして今この場で、反動ダメージをすべて解析しながら受け続けているのが現状だ。
劉の誘いも精神をガンガン揺さぶっていたが、すぐに{感情}が俺を平静にした挙句、勝手に起動した【強欲】がその力を己のモノにしようと奪っていった。
……後で、新しい能力が発現するだろう。
「ところで、レンはどうして確認に?」
《ダンジョン内のことであれば、私がすべて把握しております。メルス様がこちらに来たということで、私から連絡を。……アンとは同盟を結んでいますので》
「なんでアンを挙げた? まあ、とにかく問題はないから大丈夫だろ」
《そうですか……ところで、どのような能力が今回の試合で?》
そう、それなんだよ!
それを試すために、ここに来たと言っても過言ではないぞ!
「当然ではあるが、二人が使っていた能力は模倣できたな。特に、ミシェルの使っていた“聖劉迅”シリーズと“邪劉迅”シリーズ。発動に前提条件が必要になるけど、能力のスペックは明らかに通常のモノより上だぞ」
二本の剣へそれぞれの能力を使い、その様子を確認して視る。
白い輝きと黒い輝きに、劉特有のオーラが混ざり合って形を成していた。
他にも翼や盾、鎧などを試してみるが、どれも劉の力がかなり色濃く出ていた。
「けど、これは使われなかったんだよな。どうなるんだろう──“聖劉迅脚”」
レンに頼み、用意してもらった魔物を対象としてその能力を発動する。
元となる“聖迅脚”は、あくまで移動用のものであったが──
「……ああ、そうなるのか」
脚に白い脛当てや鉄靴のような物が生成され、自分は何ができるかを伝えてくる。
その意思に従い、魔力を流して足を払うようにしてみると──
「移動せずとも良いと。遠隔攻撃か」
白いドラゴンが飛びだし、魔物へ喰らいついていく。
最後には息吹を吐きだし……白いドラゴンは靴に戻ることなく消滅する。
「“邪劉迅脚”……これも同じか」
違うのは色と効果。
状態異常を発生させる息吹を吐き、黒いドラゴンもまた消滅する。
「従来の使い方もできるけど、牽制として生みだしておくのもいいのか……かなり使えると思うな」
《今のミシェル様では、それらを使用できませんが……》
「改良、改善、改造、改装……やり方ならいくらでもあるさ。ミシェルが酔わずに力を求め、シュリュが認めた時に使えるように準備ぐらいしておくさ」
だが今は、試合観戦だな。
設計図は頭の片隅で作成し始めるとして、とりあえず会場に戻るか。
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