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偽善者と生命最強決定戦 十三月目

偽善者と一回戦第三試合 中篇

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「のぅメルス、あの剣はいったい……」

「何か気になったか?」

「いや、なんというか……圧迫感があのシュリュとやらに似ていると……」

「ああ、まさにその通りだ」


 ──だって、あの剣の素材はシュリュから採れた物だけなんだから。


「英霊って言ったって、いちおうは実体化できる。だからああして、生者と剣をぶつけている。そこら辺は端折るんだが、劉を殺すために使う武器を劉の素材を用いて造ってみたのがあの剣だ。祝福と呪いをバランスよくかけておいたから、ちょうど良い比率でただの魔剣になってるけど……下手すりゃ聖剣とか神剣を目指せる類いの武器だぞ」


 武芸に長けた英霊にして、覇道を突き進みしドラゴンの異常個体シュリュ

 地球において、ダイヤを切るためにダイヤが使われる……なら、劉を殺すために必要なモノは劉なのではないか?
 しっかりとコンセプトを本人に相談してから、俺たちはあの剣を生みだした。


「鞘に入れたままでも、亜竜程度なら平伏して言うことを聴く。鞘から抜けば一定レベル以下のドラゴンはすべて従う。まさに劉の王が握る王剣だな」

「……のぅ。もう一振りないか?」

「あるわけないだろ。作成途中にシュリュが音を上げるような代物だぞ? 二本目を作ろうとしたら本気で殺されてたわ」


 逆鱗など、核となるギミックに使いまくったからな。
 痛みが無いように剥いでいたんだが、何度も再生するのが怖くなったらしく途中でやめるように言われた(物理)。

 なのであれ、実は未完成の品である。
 仕方ないので俺の魔力で複製した鱗を途中から使用した……そのせいか、少し求めていた剣と異なってしまったが、気にしちゃ負けだよね!


  ◆   □   ◆   □   ◆

 剣をぶつけ合い、会話を行う。
 全身の素材から生みだした剣は堅固で、鱗から生みだした大剣は耐久度を削れていく。

 それでも、大剣を何度も生みだしシュリュは闘い続ける。

「懐かしい。それを巡って、どれだけメルスに鱗を剥がされたことやら。……アヤツめ、魔法で複製できるのであれば、最初の一枚だけで充分ではないか……」

「けど、楽しかったんでしょ?」

「……たしかに。ソウのような被虐で悦ぶ体質ではないが、共に一つの物を生みだすというのはなんとも新鮮な感覚だった。朕が進むべくは、逆とも言える覇道が故」

 覇道の前に生命は根絶する。
 従わぬ者たちを切って捨ててきたシュリュにとって、一から新しい何かを生みだすという行為はとても興味深く感じた。

 その作り方が好まなかったため途中で止めたものの、武器についてメルスと語り合う時間はシュリュの脳裏に今でも刻まれている。

「……だからこれで、私はシュリュに勝ってみせる。たとえ相手の力を利用してでも、勝ちたい理由があるから──“覇動剣”」

 剣が昏く輝き、劉の力を発揮する。
 纏うオーラはまさにシュリュのもの、空飛ぶ斬撃として放たれたソレは──途中で形を龍の咢と化していく。

「朕にそんな力は無いのだが、な!」

 大剣を軽々と振り回し、斬撃を放つ。
 鱗は劉気を上手く伝達させ、龍の咢を切り裂くだけの威力を見せた。

 ミシェルはその一撃で、剣の扱いを学ぶ。
 持ち手を変え、苛烈に振り回していく。

「いける──“聖迅剣”」
「なんの──“光劉剣”!」

 漆黒の剣たちに光が宿り、舞台上に軌跡を描いていく。
 一本一本が美しく映え、見る者の目を奪う輝きを魅せる。

「“邪迅剣”」

「くっ、“闇劉剣”」

 光のアートは色を変え、闇色の軌跡を宙へ走らせる。

 白と黒のグラデーションは、なぞることで消えていく。
 それでも頭に残る美しき閃光たち。
 観客は歓声を上げて盛り上がっていく。

「そろそろ行く──“覇劉血鎧”」

 剣がその言葉に呼応し、ミシェルの周りに赤い霧を生まれる。
 それは少しずつ形を成し、彼女の朱色の髪に合わせた赤い鎧と化す。

「“聖迅剣”、“聖迅鎧”、“邪迅翼”」

「“純覇劉爪”、“劉の血潮ブラッド・オブ・ドラグーン”」

 聖迅と邪迅を使い分け、さらなる強化を重ねていくミシェル。
 シュリュもまた、もっとも扱いやすい己の手に力を籠めて迎え撃つ準備を行う。

「……キツい」

「朕の分身であるぞ。そう容易く使いこなされては立場がないわ。化け物の類いであろうと、そうは使えぬ」

 ミシェルから膨大な量の魔力を吸い上げ、剣は機能を発揮する。
 シュリュの素材をふんだんに使い、なおかつメルスによる魔改造が加わった一品だ。

 コスパなど考えられておらず、ただただ劉殺しという概念にのみ特化した業物となっている。

「メルスなら、これを使えた?」

「……アヤツであれば、呼吸をするように使えるであろう。遺憾ではあるが、適性は無いが担い手ではある」

「なら、使いこなす。まだ引きだせる」

 ミシェルの頭には、今も剣から能力名が浮かび上がっている。
 使いこなせば使いこなすほど、発動できる能力の数は増えていく。

 それは振るい、理解することでただ握るよりも加速する。
 聖迅と邪迅を振るう少女は、感じられるほど猛烈な速度で減りゆく魔力に汗を流しながら……覚悟を決めた。

「シュリュ、行くよ」

「いつでも来い、ミシェルよ」

 闇色の翼がはためき、ミシェルはシュリュの元へ進んでいく。
 勇戦の構えでそれを向かい入れるシュリュの姿は──まさに覇者のようであった。

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