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偽善者と生命最強決定戦 十三月目
偽善者と一回戦第三試合 前篇
しおりを挟む≪──第三試合はシュリュ選手VSミシェル選手! 共に眷属としてメルス様の元に居るお方たちです!≫
≪シュリュ様は英霊にしてもともと別大陸で皇帝をなさっていたそうです。ミシェル様は勇者と魔王の娘、その力を自在に扱うことができます。大会初の眷属たちによる対決となりますので、これまでとは異なり同格同士の試合となるでしょう≫
アナウンスが二人の情報を観客に告げた。
英霊も皇帝も勇者も魔王も、それだけで強いインパクトを持っている。
バーゲンセールのように出てくるその単語たちが、彼らの興味をそそる。
「朕も其方も、見世物ではないのだが……」
「そうだね。けど、本気で闘いたい」
黒髪の妙齢な女性と、朱色の髪を持つ少女が舞台に並び立つ。
やれやれといった様子の女性であったが、少女の意欲に燃える瞳を見て、彼女もまた瞳に意志を灯す。
「ふっ、朕の覇道を止められるとでも?」
「メルスにできた。なら、私もやる」
「言うてくれるな。定義は変われど朕の覇は止めがたい。メルスやソウといった化け物の類いで無ければできぬのが世の定めよ」
龍と辰の間に生まれ、その特徴を余すことなく受け継いだ異常個体。
天に覇の運命を与えられた彼女は、生前一度として敗北を知らずに英霊と化した。
二度目を生をメルスによって終わらされ、三度目の生を謳歌するシュリュ。
死を以って新たな世界を知った彼女は、かつての失敗を反省し、覇の理を変えた。
「……私だって、異常個体。勝ってみせる」
勇者と魔王。
結ばれるはずのない二人が生んだ、愛の結晶がミシェルである。
神はそれを許さず、その力を封印する。
両親はミシェルに祝福を与えたが、ミシェルが物心ついたときには姿を消していた。
人間と魔物、両親が守護したであろう二つの種族群に共生を拒まれたミシェル。
彼女もまた、ある種の異常個体であった。
「其方がそう言うのであれば、止めはせぬがな。……もっとも、朕らにはその化け物の高みがあるのだから救われるものだ」
「……ぷっ。そうかもしれない」
笑い合う彼女たちは、メルスによって永久の牢獄から解放された。
そのときに知った無軌道な力、それを使い独り善がりを続ける男の姿。
並み居る猛者を捻じ伏せ、ついには世界最強を冠した銀色の龍をも殺した。
だが弱く、とても繊細な魂を持った──自分たちの新しい家族。
誰よりも前に立ち、過保護とも言える愛を押しつける狂人。
しかし傷ついた彼女たちは、その甘い誘いに乗って……知ることになる。
だから今も、彼女たちは彼の元に居た。
共に居ることが、彼が幸せを知る術であると信じて。
≪──さぁ、そろそろ開始前のトークも済んだでしょうか? ……はい、準備はできたようですね≫
「メルスも見ているし、私が勝つよ」
「何度でも言おう。朕の覇道は邪魔させぬ」
互いに武器を構え、強烈な気迫を放つ。
大気が震え、大地が揺れるようだった。
≪──それでは第三試合……開始です!≫
そして、舞台は幕を開いた。
異常個体は競い合い、高みを目指す。
どこまでも続く、暗闇へ向けて。
◆ □ ◆ □ ◆
「行くぞ! 劉の力を味わうがよい!」
「遠慮しておく──“邪迅剣”」
己の鱗を鋭く尖らせ、槍のような形にして振り回すシュリュ。
ミシェルは腰に携えた剣を引き抜くと、魔王としての力を剣に籠める。
「劉気を纏えば、すべてが一撃必殺の奥義と化す! さぁ、交えてみせよ!」
「こっちだって、邪属性だから英霊は不利でしょ? 当たったら、シュリュでもただじゃ済まないよ」
シュリュは<武芸覇者>によって、あらゆる武具の扱いに通じている。
対するミシェルも<勇魔王者>により、戦闘行為そのものへ補正がかかる。
剣と槍がぶつかり、これまでの試合と同様に甲高い音が鳴り響いていく。
同時に、二種類の黒いオーラが火花と化して飛び散り、稲妻のような輝きを放つ。
「其方が相手では、この程度の攻撃は意味を成さんか」
「──“聖迅剣”」
「ほぉ……朕の鱗を壊すとは」
先ほどまでの力と相反する力を剣へ籠め、ミシェルは槍に一撃を見舞う。
すると槍が砕け折れ、シュリュは無防備となる。
だが、慌てることなく鱗を一枚皮膚から剥すと……次は大剣に形を変えた。
「邪気を付与させ、聖気への耐性を極限まで低めたか。やるではないか」
「言ったはず──絶対に勝つと。私は負けない、使えるものは何でも使う」
ミシェルは腕輪を介し、ティルエのように武具を異空間から取りだす。
黒い鞘に納められた、禍々しい剣。
シュリュはそれを見た途端、本能的にその正体を知り……嫌悪感を示す。
「劉殺し……メルスめ、余計なものを」
「同じように、勇者殺しも魔王殺しも収められてた。シュリュも使えば良い」
「そうはいくか。朕の覇道に余計な物は必要とせん。いくらメルスの武具とはいえ……破壊させてもらうぞ」
劉殺しの剣の剣身が、ゆっくりと鞘から抜かれていく。
おどろおどろしい妖気が放出され、足元に広がる。
シュリュはそれに舌打ちし、背中から翼を生やすと風を生みだし吹き飛ばす。
「……それを使うのであれば、身を滅ぼすでないぞ」
「それが嫌なら、先に降参して?」
「抜かすでない。勝つのは朕である」
その剣についてよく知るシュリュは、苦渋に満ちた顔をしたまま──地面を蹴りミシェルの元へ突貫する。
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